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さすらいの魔皇子2   作者: 黒田明人
高1 夏休前
99/119

99 団欒

 

 

「なあ、なんでドライヤーがねぇんだよ」

「それはな【温風ドライヤー】」

「くっくっくっ、そう言う訳かよ」

「あえて不便に身を置き、便利にする為に開発をする」

「何かねぇかなぁ……お、あれ、考えてみよっと」

「何か思い付いたな」

「そいつは完成までのお楽しみだぜ」

「ふむ、楽しみにしておくぞ」


ミツヤが何を作ろうとしているのか、気になりはするが詮索はしない。

そんな事をする暇があれば、自分の研鑽をしたほうがましだからだ。


今、構想中なのが体重計。


なのだが、これがどうにも進まない。

物質の重量測定のロジックがどうにも組み上がらないのだ。


なので逆転の発想をしてみる事にする。


様々な重さのウェイトを用意して、仮想的な重量計の為の風の魔法をまずは考える。

これは既に開発済の【風膜エアクッション】を活用する。

まずはこれを床に発動し、色々なウェイトを載せての変化を記録。

それに従って変化の比率を出してやれば、後はそれを重量に転換させて表示させればいけるはずだ。


仮想的に表示させる方法としては【照明ライト】を応用しての7セグメント表記。

なので大昔のマイコンの表示っぽいんだけど、今はこれでやるしかあるまい。

それぞれの魔法を組み合わせ、それをキーコードで統括し、発声と共にそれを発動させる。


重量ウェイト


さてと……【75.3】


うえっ、やけに重くないか?

ううむ、どうしてなんだろう、何故なんだろう。


「あれ、運動始めたのかよ」

「ダイエットだ」

「くっくっくっ、またどうして急にそんな事を始めたんだ」

「体重がな」

「あれ、体重計とか買ったのか」

「お前も調べてみろ【重量ウェイト】」

「うえっ、体重計ってこれかよ……【73.8】うおおお、重いぞ重いぞ」

「お前もダイエットだな」

「けどよ、これって筋肉じゃねぇのかよ」

「あれ、そう言えば」

「最近、鏡見てねぇな」

「そういや家に鏡が無かったな【水鏡ミラー】」

「くっくっくっ、てか、我ながらやけにこれ、派手な筋肉になってるような」

「ううむ、知らないうちにとんでもない事になってんな」

「あら、また始めたのね。待ってて、すぐスケッチブック持って来るから」

「ううむ、そんなつもりでは無かったが」

「今夜はサーロインステーキよ」

「やるか、ミツヤ」

「うっし、やるぜ」

「僕も混ぜてくれるかな」

「よし、3人で国産牛肉だ」

「「おー」」


     ☆


「ますます腕が上がったような」

「あら、ありがと」

「美味しいよ、これ、本当に」

「高いお肉買った甲斐があったわ、むふふふっ」

「ああ、美味かった」

「うん、最高だね」

「明日の夜はお寿司にしようかと思うんだけど」

「えっ、手巻き? 」

「実はね、ちょっと握ってみようかと思っててね」

「え、そんな経験でも」

「まあ、門前のなんとやらなんだけど、お爺さんが職人しててね、それで見よう見まねって言うかさ」

「それは楽しみ」

「うん、楽しみ」

「期待してるぜ」

「それでね、ネタの事なんだけど、大トロ、食べてみたくない? 」

「ミツヤ、愛してる」

「むぐぐぅぅ」

「キタキタキタわぁ、それそれっ、それを待ってたのよ。ああ、イマジネーションが沸いて出るわぁぁぁ」


     ☆


「いきなりだからよ」

「慣れろ」

「あれに慣れるのかよ」

「オレ達にとって身体とは何だ」

「あ、そっか、そうだったぜ」

「戯れにダイエットとか言うけどな、その気になればいくらでも身体の調整は効く。だがそういうのは忘れて人間をやっているんだろうが」

「意識を他に置いて成り切りなんだな」

「ああ、あくまでも芝居だが、どこまでの配分にするかが問題だ。思いっきり表に配分を置けば、それが当たり前となって元を忘れてしまう」

「その忘れた状態が人間で、覚えているのがオレ達ってか」

「そう言う事だ。だから身体をどう使おうがオレは気にならない。壊れたら修理すれば良いんだからな」

「オレはまだその修理がやれねぇからよ、それがネックになってんだろうぜ」

「こればっかりは慣れていくしか無いみたいだが、そのうちやれるようになるさ」

「そうだな。時は長くて道は遥か、だけど先を見たらやる気が失せる。すぐ前を見て歩いていれば、自然に遠くの町まで辿り付くってか」

「それを念頭に置いておけば、焦る必要は無いと分かるはずだ」

「ああ、そうすっぜ」

「佳代さんは8月に向けてちょっと暗めの波になってたからな」

「それでかよ」

「あれでまた走り出すはずだ」

「なら、オレ達も協力しねぇとな」

「お、積極的だな、よしよし」

「キャーー、いいわいいわぁぁぁ、うへへへへぇぇ」


《確かに感じれるようになって来たぜ……慣れた人の波なら分かるだろ……ああ、佳代さんの波を近くに感じてよ……それも修練の結果さ》


佳代さん向けにR指定な事を色々やり、すっかり満足したようで、そのまま自室に篭って作画を開始した。

夏の即売会に向けて、どんな作品が出来上がるのか、それは分からない。

だけど本人が楽しいのならそれが一番なんだし、その為の協力なら惜しまない。

それがそのまま意識の切替と成り切りの修練になるからであり、自分達の為だからだ。

身体は乗り物だと、こういう意識を保つのに必要と思うがゆえだ。


「それはそれとして、ふわふわするのは良いぜ」

「そいつは精神体を感じているからだから、いい傾向だな」

「なんかよ……眠くなると……言うかさ」

「ああ、オレも少しな」

「ちょっと……寝る……ぜ」


精神体を感じてそれがそのまま心の充足になるって事は、かなり馴染んでいるって事だろう。

もしかしたら向こうで誰かしらに色々修練を受けた可能性もあるが、言わないのならそれで構わんさ。


なあ、斉藤さん。


ただの検分だけじゃ無かったんじゃないのか?

あえて異世界でって事は、ミツヤは異世界でなら超越者だからな。

こっちで言えない事も向こうでなら言える。

抜け道みたいだけどそれは真実であり、だからこそ色々教えたって事も考えられる。


まあ、ありがたい話だな。


隣に立つ者の技量が上がる事は、オレにとってはありがたい事さ。

どうせ宣伝もしないんだろうし、礼も求めてはおるまいし、だからオレは何にも言わないさ。


けど、心の中では感謝しているからな。


(じゃが、あやつも並ではないの……まるで真綿が水を吸い込むようにとはあの事じゃて……教えれば教えるだけすぐに身に付け、新たなる技能すら容易く吸収していく。もしかするとあやつこそが真なる……まあそれはまだ分からぬな。あのまま伸びてゆくなれば、遥か未来はそうなるやも知れぬがの……ただ、それすらも見抜いて据えたとも思えるが、そこまでとなれば、さすがとしか言い様が無いのぅ……本来なればまだまだ教えたい事は山のようにありはするが、あやつが世界内存在である以上、あのような方法しか採れなんだ。僅かの時であったが、可能な限りは教えたはずじゃ。後は何とかするのじゃぞ)



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