98 梅雨
実に巧妙なる干渉波を食らった石田は既に、オレを排除してシナリオを遂行させるという名目の元に、資金の奪取を試み始めた。
だがそれをする為には顧問弁護士が邪魔であり、にっちもさっちもいかないまま時が過ぎ、そして全てが終わる事になる。
尖兵は速やかに捕縛に至り、石田の中の堕とされし者はその役目から降ろされ、交代要員が中に入る。
そして抜かれた彼に生存の道は無い。
狭間に飛ばされた彼は、暴れて後、特異点への片道切符を手にし、そのまま消滅までの僅かな時を、膨大な圧力の中で苦しみながら過ごす事になる。
惨いようだがそれが罪人の再犯の結果。
例えそれが誘われた結果であろうとも、根があるからこそ芽が生えるのだ。
純真無垢な存在に干渉波は効かぬ。
その土壌あるからこそ増幅される欲望。
かつては世界の存在を見下していた彼は、世界の存在の芝居をする羽目になり、そして世界から消え去る羽目になった。
元は同類な者を見下すようになった頃から、彼の斜陽は始まっていたのかも知れない。
その点からすれば、現行の管理の殆どは既に斜陽が始まっているとも言える。
次は誰が彼に続くのか、それは世界の存在には関係の無い事ながら、今日も粛清の嵐は吹き荒れていた。
(報告します……はい……調査の結果、実に487存在の叛意を認め、捕縛致しました……また多いですね……消滅させますか……ひとまず禁固です。聴取の後、そうなるとは思いますが……分かりました)
☆
結局、投手の事故すらもちょっかいの結果だと分かり、速やかに【治療】の後に【暗示誘導】で辛くも避けたという事になった。
なので今、グラウンドで元気に投げている彼は、かつての事故の事は覚えていない。
斉藤さんに教わった地域調整を試してみたのだ。
色々荒いが何とか出来ておるとお墨付きをもらったものの、まだまだ精進の余地ありまくりな結果に不満を覚え、時々精神体で抜けては色々に試している。
世界の修理というスキルも教わり、それが多い時に地域調整を応用すると巧く修理がやれる事に気付き、そういうのもやるようになっていた。
そしてそれを今、オレの魔法ライブラリに組み込む事に成功する。
まあ、今の魔法ライブラリはもう魔法の範疇には無いかも知れんが、それでもその名前は変えるつもりはない。
かつてはそうだったのであり、元はそうなのだと言うのを忘れない為に、それは残しておくつもりだからだ。
【地域調整】
これで広域化がなされる。
今までは身の回りの狭い範囲だったスキルも、これで周辺一体を一気に調整出来る事になった。
後は【地域】と【調整】の間にスキルを挟む事によって、それを広域化出来るのである。
なので【暗示】を広域にやりたいと思えば。
【地域暗示調整】
こういう事になる。
殆ど単体スキルだった精神系もこれで一気に広範囲にやれるようになった訳だ。
だたその分、精神疲労が半端無くなり、良い事ずくめではないんだけど、散々苛められたせいか以前程の事も無く、それすらも修練になっていたようである。
しかしなぁ、あれは苛めだろ、クククッ。
変なトラブルがあったものの、それからは特に何も起こらず、周囲は静かに時を刻んでいた。
やはり助っ人クラブと言うのもちょっかいの結果だったらしく、全て消えてのんびりと部室で過ごす我らが魔術研究会の面々。
3つのグループも協定を結んだ後は、まるで普通の生徒のように過ごしていて、工作員とは到底思えない言動をやらかしている。
いや、そのな、ほんのテストと言うか、クラスの奴らに試してみたんだよ【地域暗示調整】
そうしたらさ、もう工作員なんてのを忘れたかのように、普通の学生みたいになっちまってさ。
その効果を確認したのは良いんだけど、精神疲労が派手に来ちまって、まだまだ慣れてないんだなと再認識したんだ。
「コージ、ヤバいぜ」
「うん? どうした、ミツヤ」
「親父がよ、オレを次期当主にすると言い出してよ。兄貴達が反論したら廃嫡するとか言い出してよ」
「ありゃもうお前の親父じゃねぇぞ」
「うえっ、そうなのかよ」
「中の人は罪人なんだよ。だからさ、再犯は処刑だ」
「そんな事になってたのかよ。情けねぇぜ、親父」
「まあ、それでも同じ道は歩むなと、思っていたんじゃないかな」
「そんな道、ごめんだぜ」
「まあいい。調整したいなら波の通信でやってみな。交代要員だからそれで話は付く」
「そっか、やってみるさ」
(親父、消えちまったのかよ……冷たい感じは人形扱いとか、それでも親父は親父と思っていたんだがよ……さらばだぜ、親父)
☆
結局、ミツヤの次期当主の話は立ち消えとなるも、上の兄弟達の乱脈振りは問題視され、今のままでは到底次期などに据える訳にはいかないと、かなり派手にやり込められ、泣く泣く色々処分する羽目になったらしい。
それと共に経済状況も一新され、ミツヤの話によると、元のような質素な暮らしに戻ったようだと。
「完全に元の通りって訳じゃねぇけどよ、それでも贅沢なのは消えちまったぜ」
「学費と生活費はどうなった」
「学生だから遠慮するなって言われてよ、また学費と生活費は仕送りになっちまったぜ」
「ならそれで良いじゃねぇか」
「なんかよ、前よりも親父っぽい事をするからよ、ちょっと面食らっちまってよ」
「世間的に言えば再婚した親と子って感じか。だから色々遠慮って言うのかな、お前に対してまだどう接して良いのか分からないんだろう。かつて子を持った経験があるかないか、そんなのは本人にしか分からない事だけど、あんまり経験が無いのかも知れんな」
「そっか、新しい親って感覚なんだな」
「だからな、普通に接してやれ。それが新たな関係を築く一歩になるさ」
「コージはやけに詳しいぜ。向こうで何かあったのかよ」
「う……そ、それはな、つまりな」
「親子の何とかとか、そんなの前は……まさか、コージ」
「ほら、魔王はかつての親だったろ。だからな、そういうので学んだと言うか」
「ああ、そういやそうだったぜ。それでかよ」
はふうっ。
まさか子が大量に出来たとか、さすがに言えんぞ。
しかも、オレが寝ている時に手を腹に当ててた子が居たらしく、オレが条件反射みたいに手に圧力が掛かれば【注入】になってたのを見ていて、こっそり混ざったとか後で聞かされて、遂に孫がと思ったらもうやりきれなくなって、それで……はふうっ。
あーあ、嫌な事を思い出した。
今は高1高1……花の16才。
忘れろ、あれはもう違う世界の事。
☆
しとしとじめじめと、梅雨のシーズンは好きじゃない。
好きじゃないけど避けては通れないのがこの国の季節。
そうなればそれも研鑽に利用しようと、また変な魔法の開発に成功する。
「ああ、降り出しちまったぜ」
「あれ、この梅雨時に傘無しか」
「朝は晴れてたからよ、要らねぇと思っちまってよ」
「濡れて帰るか、ミツヤ」
「そういうコージはどうなんだよ」
「ふふん、甘いな【雨傘】」
「くっくっくっ、下らねぇ魔法だぜ」
「何だ、要らないのか」
「他人にも使えるのかよ、それ」
「ほれ【雨傘】」
「うおお、こりゃ良いぜ」
あたかも傘のように見える物質を構築したかのような状態だが、それはただの見せ掛けであり、実際は頭上に雨避けをしているだけの魔法になる。
ただ、見てくれが悪いと言うか、魔法の無い世界では奇妙に見られるので傘のように見えるようにしてあるだけなのだ。
なので手で持たなくても身体の前の位置から動かないし、強風でも傘が折れたりはしない。
いわば幻術の傘のようなものを出現させるだけの魔法だが、その構成は色々複雑になっていた。
「作るのにかなり苦労したぜ」
「これ、手で持たなくても飛ばないんだな」
「こら、手を離すな。変に思われるだろ」
「チャリに乗ってる時はいいな、これ。持たなくても雨避けになるからよ」
「素直にカッパを使え」
「けど、オレもこういうのを考えてみねぇとな」
「生活魔法は面白いだろ」
「それでかよ。オレは生活魔法の何が楽しいのかと思ってたぜ」
「確かに地味だけどな、魔法の研鑽という見地からすれば、これ程に有効な方法は無いぞ。攻撃魔法とかそう簡単に使えないしな」
「確かにすぐに試せる魔法だな」
「作って試し修正して試す。地味だからこそやれる魔法の研鑽さ」
「おしっ、オレも何か作ってみるぜ」
「必要から作るんだ。研鑽の為じゃない」
「そういやコージは全てがそれだったんだな。えっと、何か不便な事は……」
「そう言う事だ」
「へっくしっ」
「そういや今日は妙に肌寒いな」
「いやこれは、へっくしっ、風邪って訳じゃ、へっくしっ」
「やれやれ【温暖】」
「うおおお、あったけぇ」
「さあ、とっとと帰って風呂入るぞ」
「おっしゃ」




