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さすらいの魔皇子2   作者: 黒田明人
高1 夏休前
97/119

97 魔球

 


 結果的に投手と捕手を助っ人に出す事に決まった魔術研究会。

 それと言うのも捕手が脳震盪で倒れたからだ。


「くそ、あんなの捕れるかよ」

「ちょいとミツヤ、試してくれ」

「おっし」


 クニッと曲がる球でも、戦闘に明け暮れたミツヤの動体視力の敵ではなく、あっさりと捕球する。


「はぁぁ、悪い、捕手も頼む」

「まあ、しゃあねぇな」


 自打魔球という名のヤバい球を開発したんだけど、打者が居ないと効果を発揮しない。

 バットに当たる直前、微妙に変化して自打球になる確率が増大する球だ。

 うちの野球部のメンバーを餌食にする訳にはいかないので、練習の時には使えない球でもある。


 後は綿毛魔球と言うのも開発した。


 これは単に球の周囲に魔力をまとわせるだけなんだけど、バットが近付くと避けるんだよな。

 なのでまるで綿毛を叩くような感じになるから、綿毛魔球と……ネーミングセンスは治らないな。

 これもうっかり試せないので、練習を見に行ってぼんやりと見ているだけになる。


 なんせ速い球は拙そうなので、遅くて変化する球の開発をやったのだ。

 この際だからと球の大量購入もやり、【倉庫マジックボックス】の枠がまたそれで埋まる。

 野球用品を1揃い入れた箱を1枠に、ボールを5枠なんて、枠の無駄遣いになって慌てて中止する。

 なんせ利息がヤバいので、使わないと減らないと言うか、使っても減らないと言うか。

 さて風の魔法をボールに纏わせて……えいやっ……キュン……


 変な音がしたな。

 ああ、穴が開いてら。


 ヤバいなこれ、ええい【構築コンストラクション

 拙いな、風球は廃棄だな。

 コンクリートに穴を開ける魔球とか、大騒ぎになりそうだ。

 そんなこんなで日夜、色々な魔球を考案しては実践し、どれもこれもヤバいので作るだけで終わりそうな予感のままに、それでも面白いからと色々考えていた。

 テストなんかはもう、頭の中の参考書丸写しとなり、それなりの点になるように調節して終わる。

 クラスで中位になるようにしたので、ちゃんと9位になっていた。

 クラス20人しか居ないので、1桁でも中位という変な事になっているのだ。


「うしっ、トップだぜ」

「頑張ったな、ミツヤ」

「ちえっ、7点差かぁ」

「僕は12点差、頑張らないと」

「18点差か、参ったな」

「おお、37点差だな」

「コージ、美味い事、中間点になるように狙ったろ」

「人聞きの悪い事を言うなよな」

「そういうのを白々しいって言うんだろ」

「やれやれ、彼に本気を出させる試験、それは何時なんだろうね」

「だから本気でだな」

「はいはい」


 いかんな、なんでバレたんだろ。


【ポンポンポンポン……学長室まで来てください】


「はぁぁ、何の用だろ」

「あはは、名前言わないんだね」

「名前が無ければオレって言いやがってよ」

「プライバシー関係じゃないのかな」

「尊重は嬉しいが、慣れたらもろバレだろ」

「ほれほれ、行った行った」

「やれやれ、嫌な予感がするぞ」

「くっくっくっ」


 休み時間に呼び出しをするのは良いが、次の授業の事とかどうでも良いと思っているのかねぇ。

 どうせなら昼休みか、放課後にすれば良いものを。


「失礼します」

「おお、呼び付けて悪かったな」

「何の御用でしょう」

「ほお、この子ですか、天才君というのは」

「うむ、そうなるな」

「君、君の学力を知りたくはないかね」

「ありません」

「これはまた……いやね、高校生を対象とした、全国学力選手権大会への出場なのだがね、県からの推薦という形を取ってですな、1年の部という事で……」

「お断りします」

「青山君、何とか受けては貰えぬかね」

「嫌ですね」

「君、将来の事が心配にはならんのかね」

「なりませんね」

「やれやれ、社会を知らないという事は……例えばの話だがね、君が大学に進む場合、受け入れてくれる大学が無ければどうするつもりかね」

「留学ですね」

「海外への進学は、あくまでも日本の大学からの留学になるのだよ」

「ならば国籍を変えます」

「やれやれ、机上の空論では何も解決しないよ」

「貴方がどのような立場かは知りませんが、対立すると言われるのでしたら受けて立ちますよ。ではこれで」

「青山君」

「軍資金の出所ぐらいは知っておけよ、学長」

「何だと」


 バタン……


(どういう事だ。何故……まさか、我々の組織の事が……しかし、軍資金の出所?……これは石田に聞いてみなければ。あの金、まさか、いや、しかし)


【もしもし、青山です……わざわざ電話かの……気分だよ……うむうむ、まあ良いじゃろ。して、何用かの……シルフにちょっかい出すのを止めさせてくれ……ううむ、まだ何かしておるのかの……模試みたいなのを受けないと、大学進学を阻止するって宣言された……石田に伝えておこうの……ああ、オレと戦いたいなら先に金を返してからにしてくれと伝えてくれ……戦いにはならぬじゃろうの。既に使い込んでおるからの……シナリオが終わったら爆発する爆弾は時を刻んでいるかな……惨いようじゃが、致し方あるまいの……だれが5兆もタダで進呈するかよ……その当たり前の事すら分からぬ愚か者じゃ……京都の屋敷も抵当に入るのかな……うむ、本部から支部から全ての資産が抵当に入る事になっておる。じゃからシナリオが終わればシルフは破綻する事になろうの……資産総額が5兆に足りないのか……その1割が良い所じゃて……なら、没収だな……うむ、そうなろうの……京都に住みたいと思ってたんだ。本部の屋敷から人が消えたら引っ越そうかな、クククッ……うむ、それも良いかも知れぬの……じゃ、そう言う事で……うむうむ】


 盗み聞きはもう良いのかな、クククッ。

 慌てて連絡をしに行ったけど。


(何と言う事だ。あれが全てあいつから出ている金だと。しかも、資産を抵当に入れてなど……しかし、シナリオとは何だ。何かあるのか、そういうのが)


 あれ、こいつ、使われし者か。

 裏の事情を知らない人形の癖に。

 いや、だからこそかな。

 さぞかし今頃は石田のトップは慌てている事だろうな。

 まあ、知った事ではないが。


 《困りますよ。あれを受けないとシナリオが……5兆で手を出すなと言わなかったか……ですが、シナリオは別ですよ……超越者にシナリオが関係あるか……ですが、その身体はメインなんですから……じゃあ渡すから好きに動かせよ……それで良いんですね……ああ、構わんよ……ならそういう事で》


 《だそうだぞ……どうにもならぬの。おぬしを排除すれば金がそっくり手に入ると思い込んでおるようじゃ……誰が染めたんだろうね……うむ、そうか……遂にゴミ管理じゃなくて尖兵になったのかも……そう言えばこれは……気付けないよね、それが新米じゃなくて尖兵ならなおさら……提訴しますわい……ああ、頼む。新米で何とかだが、それ以上だと勝てない可能性が高い……くれぐれも無理だけはするでないぞ……ああ、分かっている》


(何ですと、まさか、そこまでとは。はい、すぐさま送ります)


 

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