93 披露
王宮の広場に設置された大型魔導具では、今、魔王がレバーをグイッと……
ザーザーザーザー……うわああああああ……
特設水路を伝って豊富な水が流れ、国民は競ってそれをすくって飲む。
そうして美味い美味いの大合唱となり、お披露目祭りは開催された。
これから3日間、水は途切れる事なく流され、誰でも飲める事になっている。
ちなみに水路の先は水田になっており、水はそこで最後まで活用される。
その後は魔水の名で流通経路に流れ、料理や飲料作りに利用される事になる。
魔水はかめに入れられて配給となり、その代金はそのまま国庫に納められる。
後は王宮前の魔水配給所にかめ持参で買い付けに来る民達にも売られる事になる。
とは言うものの、そこまで高い訳ではなく、気軽に飲める水の立ち位置になっている。
それでも川の水をろ過しての配給よりは高いが、飲む水と洗う水に分ける事で、競合しないようにしてある。
料理には魔水が必須とされるも、野菜を洗ったりするのには今までの川水を用いたりする。
そうして魔水は人気の商品となり、休む暇もなく供給される事になった。
そうなると魔石の寿命が気になるところだが、連続数十年、それも最大水量で尽きるので、恐らく100年ぐらいは使えるだろうと思われる。
ただフィルターの問題があり、あれが先に消耗しそうな感じになっている。
確かに当初は半永久的に保つつもりでやってたが、ミネラル分が消耗品なのでそれは叶わず、熟練俯瞰さんに預ける事になった交換フィルター。
その時についでに低レベル竜の魔石の箱も預け、アークドラゴンの魔石が尽きたら、これを使うように言ってくれと。
『あんまり狩ると絶滅するぞ』
なんて脅されたんだけど、あれってマナから発生する訳じゃないらしいな。
ドラゴン系は魔族みたいな発生をするらしく、反魔族ってもしかしたら同属嫌悪なんじゃないかって……
そんな訳で私は今、ここ、ドラゴンの巣に来ています。
なんて、どっかのリポーター風にやってみたけど、真の理由を知りたいと思っての事。
竜族の長を探してうろつくんだけど、竜が全然寄って来ないんだ。
もしかして、オレってドラゴンの巣の中で眠れる存在だったりして、なんてな。
《何か用かの》
うわぁ、出たよ出たよ、堕とされし者さんが。
やれやれ、こんなところにも配されて、どんな役回りなのかと思ってたら、違っていたみたいだ。
熟練俯瞰さんの波じゃねぇかよ。
《何してんの、こんな所で……いやな、そうだ、お前、代わりに頼む……話が見えないんだが……》
つまりさ、ドラゴンも魔族と同じような子作りをするんで、熟練俯瞰さんがそのタネ付けを時々していたらしいんだわ。
んで、渡りに船ってまたかよ。
オレは船乗りじゃねぇぇぇ。
もう、あっちもこっちも渡りに船とか、誰が伝えたんだよ、日本のことわざを。
なんかさ、異国の言い回しとかって、少し前に流行ったらしくてさ、困ったもんだ。
いくつかは合ってるけど、他のことわざとか無残なもんだよ。
話が逸れたな。
《それで、どれだけ注ぐの……オレは1500ぐらいでやってたが、そっちは5000ぐらいらしいな。だからこの際、1万で頼めないか……なんで格差を付けたがる……立ち位置の関係でな、さすがに魔族よりも弱い竜じゃ困るからな……友好関係を結ぶなら何万でもしてやるぞ……それは無理だな……ならな、1匹だけで良いから、魔族寄りのドラゴン作れないか……どうするつもりだ……守護竜にしたい……しかしな、それではバランスが崩れるからな……戦わない竜でもか……戦わずして守護とはどういう意味だ……水を出す魔導具に魔力を注ぐ係……くっくっくっ、何だそれは……アークドラゴンの魔石12個に魔力を注ぐとか、さすがにそこらの魔族でもきついんでな、年に1回の儀式みたいにして、そいつに注いでもらうのさ……アークの魔石となると、内在1千万ぐらいはあるが、それを12個ともなると莫大な量になるぞ……補充無しで数十年保つ量だからな、減った分だけで良いんだ……それなら数百万で収まるか……だから数百万注いでやる……とんでもないな》
竜族の長との話し合いの結果、全てのドラゴンに1万ずつ【注入】する事になり……
くそぅ、ドラゴンって雌雄同体と言うか、好き勝手に性を決められるってインチキだろ。
総勢とか、どんだけ居ると思ってんだよ。
またしても精神疲労の発生を予感される事態に、ちょっと立ちくらみが……
☆
そんな訳で今、オレは最後の場面を迎えている。
全ての竜、その数は14532匹も居てさ、そいつに1万ずつだろ。
毎日毎日そればかりやらされて、精神疲労でどうにもならなくなり、数日熟睡して叩き起こされて……尻尾で叩くんだよ、酷いだろ。
もうね、馬車馬のように働かされてさ、きっとアークドラゴンの報復なんだろうと思ってたよ。
それもつい先日、やっと終わってさ、いよいよ守護竜を作る為の【注入】をやる事になってんだ。
封印を解いて魔力を圧縮して、いざ【注入】うおおおおおん。
今、鳴いたのは竜族の長な。
彼もまた彼女でもある訳で、守護竜は自らが産み出そうって言い出して、最後の最後にこうなったと。
限界容量一杯一杯で送り込んだから、ちょっときつかったかも知れんがね。
それでもその限界容量がなんと850万もあったんだよ。
だもんで産まれる子は850万の強力なグランドラゴンになるはずだ。
ああ、疲れた、少し寝る……バシッ……酷い。
《何を寝ておるか……もう良いだろ、注入は終わったんだし……なれば子に飢えよと申すか、冷たいのぅ……うえっ、まさかメシをか……さあ、魔力を注ぐのじゃ……ええー、まだかよ……なに、1月も注げば後は構わぬ……どれぐらいだ……1500の頃は750ぐらいを毎週だったな……嘘だろ、425万を毎週とか……乗りかかった船だろ……オレが乗りたいと言った訳じゃねぇ……守護竜にするんだろ、なら自分から乗った船だ》
はぁぁ、オレこの世界に何しに来たんだろ。
☆
「ううむ、これは凄まじいの」
「ちゃんと祭る場所を作ってね」
「うむ、それはしようが、これはまた」
『我が住まいはまだ無いのか』
「そのうち造るからさ」
『作りし後、訪ね来るが良かろう。我は谷に戻る』
「誰も迎えに行けないんだから、諦めてここに居てくれよ」
『食事は出るのであろうの』
「何を食うんだよ」
『肉じゃ、肉を寄こせ』
「あんまりたくさん食うなよな」
『心配は要らぬ、我は小食じゃ』
「はぁぁ、まあこういう子だけどよろしく」
『後姿がすすけておるぞ』
「誰に習った、そんな言い回し」
『親父殿じゃ。いや、お袋殿じゃったかの』
「長が犯人かぁぁ」
☆
よくよく話を聞くと、かつての勇者から習ったらしく、長はかつて勇者を乗せて世界を飛び回ったとか。
その勇者は何故か魔族に手を出そうとはせず、世界各地の海洋性のモンスターを専門的に狩りまくっていたって、よく分からない勇者だな。
だけど、そのモンスターの名前がどうにもな。
『そうさの、あれは確か、マーグローズとか、ハマチニアンとか、ヒラメニシンをよく狩っておったの』
何だよそのネーミングセンスは。
オレも大概酷いけど、もっと上を行かないか。
しかも、ヒラメなのかニシンなのかはっきりしろよ。
もう嫌、こんな世界。




