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さすらいの魔皇子2   作者: 黒田明人
高1 5月休
91/119

91 美水

 


 100倍の時間差というのは、そこに滞在する分にはありがたいが、帰った後にまた来る場合は逆となる。

 帰って2日、準備に3日、そしてその翌日の転移と、たった6日の事なのに、この世界では既に2年近く昔の出来事になっていた勇者の顛末。

 そして現在、砂糖は毎年100キロ上納され、5カ国に20キロずつ交易品としてもたらされている。

 しかし、年に20キロなど、現代社会の1つの町内だけでもそれ以上の摂取だろうから、到底足りない事になる。

 もちろん、高級調味料として香辛料に並ぶ程の高額で取引されてはいるものの、本来なら増量要求がすぐさま出ても不思議じゃない。

 やはり、一度限界まで流通させた事が功を奏しているようで、今のところは使用量のほうが多いものの、いくらかでも補填されている状態だ。

 確かに全世界で500万トンもの量をばらまいた効果は凄まじく、まだまだ足りなくなる事は無いだろう。

 それと、開発もかなりやっているようで、そのうち収穫も可能になると思われる。

 そうなった時、砂糖が交易の切り札の位置から転落する時、それに代わる物が無いと元の木阿弥になっちまう。


 それを今、色々と試行錯誤をしている訳だ。


 魔力依存の産物で、魔力を行使すれば作れる代物。

 なのでフィルターと言うのは単なる試作品の位置取りで、味の追求の為の道具でしかない。

 真に美味なる水が作れるようになれば、半永久的にそれを作れる魔導具を作るつもりでいる。


 そいつを寄贈する訳だ。


 そうすれば魔石交換だけで半永久的に美味い水が手に入るようになり、それこそが新たなる交易品になる。

 確かに水は長持ちはしないが、かめにでも入れて密封すれば数日は保つ。

 使用時に煮沸すればもっと保つ。

 だがその水の本当の使い道は、交流の為の道しるべ。

 領地と領地の境に近い場所に宿泊所でも設け、そこに美味い水を供給する。

 水が美味ければ料理も美味くなり、また酒の味も良くなる。

 料理や酒ならば日持ちもする物も造れるだろう。


 特に酒は。


 そのうち魔族領産の美味なる酒が流通すれば、それが新たなる交易品になるというもの。

 なので酒向きの水の魔導具の開発も今やっていて、やはりノーパソが活躍しているのである。

 え? ウェブに繋がらない異世界でどうするんだって?

 それがさ、繋がるんだよな、クククッ。

 今、向こうのマンションの屋上には、特殊な電波塔のようなものが立っている。

 まあその大きさは知れているので、パッと見には衛星受信のアンテナにしか見えない。

 後付のアンテナはオーナーには余り良い返事がもらえなくて、仕方が無く買い取ったんだ。


 何を? マンションを。


 まあ、3桁の兆な預金を背景にすれば、どんな建物でも買えるよな。

 そんな訳で今、あのマンションはオレの持ち物だけど斉藤さんが管財人として取り仕切っている。

 普通は親になるんだけど、親じゃ法律に疎く、結局は弁護士の世話になっちまう。

 となると親は単なる仲介人となり、余計な税金を払う事になる。

 そもそも、オレの才覚で稼いだ金でオレが買うんだ。

 そこに親が何の関係があるのかって話だよな。


 なので成人までは斉藤さんを管財人として指名し、それを受けて現在はそうなっている。

 確かに親がその権利を行使する事も可能だけど、残念ながら親には既に貸付金がある。

 保護者の権利を行使するなら、貸付金を返してからだ。

 子供に金を借りて、更に保護者の権利とか、通じるはずも無い。


 現在親には500億の金を渡してあり、それを以って斉藤さんに全て委譲する事になっている。

 早い話が500億渡すから好きに暮らせばいいけど、オレに対する権利は放棄しろって事な。

 それぐらいにしておかないと、誰が煽るか分からない世界なんだ。

 素人が煽られてうっかりその気になられたら、親に対する裁判沙汰にもなりかねない。

 だったら最初からその権利を放棄させ、法律の専門家が管財人をすれば誰も手が出せないと。

 親も安心子も安心って事で、巧い事丸め込んで現在に至ると。


転移ワールドアクセス】の事を覚えているだろうか。


 これは他の世界や場所を透視のような感じに思い描き、そこの空間とこちらの空間に道筋を作り、それに従って移動するという魔法だ。

 この道筋に電波を通せないかというのが命題となり、思考波の発見と共にそれを確立した。

 すなわち、思考波を人為的に作り出し、それを以って電波の性質を持たせ、情報のやり取りをしようというのがその試みになる。

 なので無線LANのような感じになるのだが、あちらとこちらがそれで繋がる事になった。

 だが、忘れてはならないのが世界内時間差。


 やたら遅いのだ、回線速度が。


 そりゃそうだよな、いくら1Gで送り出しても100分の1の速度になっちまうんだ。

 それはもうちょっと前の速度の100Mに落ちちまう。

 しかも、あのマンションに届くまでにかなり減衰しているから、もっと遅くなっちまう。

 かと言って逆は途轍もなく早くなるから、うっかり速度も上げられない。

 そんな訳で今、ノーパソに来る情報は、初期のISDN並の速度でやっているが、無いよりはましなので使っているのである。

 ただこれさ、オレの魔力依存な装置なので、おいそれと他人は使えないシステムなんだよな。

 もっとも、このノーパソを使うのはオレだけだから、横に装置が鎮座していても誰も不思議には思わないと。


 話逸れまくりでんな。


 つまり、現在、酒水の開発中であり、それを使う杜氏が……つまりですな。


「おい、まだ作れんのか」

「今のじゃ足りないのかよ」

「二流酒ならいけるだろうぜ」

「とりあえずそれで流してくれ」

「しっかしとんでもねぇな。まさか本当に異世界なんてもんがあるとはよ」

「ここなら誰も文句は言わないから、採算度外視で酒に打ち込んでも構わんさ」

「酒米も良いのが作れてるじゃねぇか。後は水だけだな」

「でも、良かったのかな。一族全員とか」

「災害で住処は目茶目茶、なのに補填は無いわ借金はあるわで、どうしようもなかったのを救ってくれたんだろうが」

「いやだからと言ってさ、ここの住民はちょっとヤバいだろ」

「そんなの構うかよ。それ以外はそこらの人間とは比べ物にならんだろ。オレはな、食い物で人を判断はしねぇんだ。やっぱ人間性だろ、付き合いは」

「そりゃここの存在があっちに行ったら、色々騙されてしまうだろうな」

「純真って言うのか純朴と言うのか、心が洗われるようだぜ」

「じゃあついでに仲間になっちまうか? 」

「あの味がな。美味ければ飲んでも良いが、どうにもあれがな」

「あれ、倫理観は? 」

「お前な、そういうものはよ、まずは生きてから先の話だ。オレはよ、ここが地獄と言われても、生きて行けるなら来るつもりだったぜ」


 そうなのだ。


 酒造りの専門家を探して移動中、彼を見つけたんだけどにっちもさっちもいかなくなっていて、借金消してやったんだけど、そこにはもう住めないとか言い出して、何処でも良いから移住したいとか言ってさ、しかも日本以外の国でなおかつ、日本酒が作れる場所なんてとんでもない事を言うんだ。

 それと言うのも酒造りに色々な規制が絡み、造りたい酒は造れないわ、美味い酒を造ったら税金が高くなるわ、有名になったら周囲からの妬みとかが煩くなるわ、それで災害では補償が効かないわ、なのに借金は待ってくれないわで、もう嫌になったらしい。


 そりゃ魔族領は湿潤温暖なせいか、水稲が巧く根付いて今じゃ穀倉地帯も増えている。

 色々な料理レシピを流したら、すっかり日本食で定着しちまってよ、ああ、文化ハザードをやっちまったなと思ったんだ。

 そうしたらよ、よりにもよって元の魔皇子は転生者でよ、しかも日本出身だからさあ大変だ。

 すっかり魔皇子先導での米作に料理にと派手にやりだしたんだ。


 しかしよ、転生者で日本人とか。


 そんなところまで似せなくて良いだろうと思ったけど、現在そうだから仕方が無い。

 そんな訳でオレの事は遠い親戚であり、砂糖を上納する代わりに場所を借りての酒造りをしている事になっているんだけど。


「ねぇ、アレ、まだある? 」


倉庫マジックボックス】ドサドサドサン。


「やったわ、切らしてどうしようかと思ってたの」

「次は相当先になる。そいつで100年はいけると思うが、その先は何とかしてくれ」

「近い品は何とかなりそうなのよ。ただ、本物みたいなのは無理ね」

「交易品になりそうか? 」

「それは確実ね。きっと無くてはならない品にしてみせるわ」


 そうなのだ。


 魔皇子となっているが、実は女性なのだ。

 だからずっと覆面していたらしく、親父に聞いたら極秘って、やれやれ。

 彼女は今、夜も安心なアイテムの作成をやっており、現地素材を使って確立させ、後の交易品にするつもりなのだ。

 もちろん、殺されるまでも作っていたが、あの時はちょうどナマリであり、体調が悪かったから逃げられなかったらしい。


 ナマリで勘弁してくれ。


 男にあの単語はちょっと精神にクルからさ、まあそれで流してくれ。

 それはともかく、女と知って献上した品がいたく気に入り、自作の品の品質向上に役立つと共に、使うのはやっぱり品質が高いほうが良いからと、今さっき追加で取りに来たと、そう言う訳だ。

 数年分渡しておいたんだけど、時の流れは残酷だねぇ。


 まあそのうちここの時間も遅くするらしく、そのうちそこまでの差も無くなるとは思うが。

 やはり逆が酷い事になるから不評のようで、数倍ぐらいにするらしい。

 今さっき渡したのはでかい塊になる。

 実はやはりあんな品で枠を大量に消費する気にならず、24枚入りが1万入る容器に詰めてそれを今、5つ出したんだ。


 え? 3370年分だって?


 それがさ、魔皇子だけじゃなくて他も欲しがっちゃってね。

 しかも魔皇子の子供が今10人で、そのうち女が5人なんだ。

 ずいぶん、子沢山だと思うよな。

 それがさ、魔族は1度に必ず1人しか生まれず、双子は絶対にないんだ。

 魔力を凝縮して相手の身体に挿入するイメージと言うか、腹に押し当てて流し込むと言うか。

 つまり受胎して1ヶ月で産んで、また受胎して1ヶ月で産んでって連続で妊娠出来るんだ。

 だから魔皇子はそれを連続で……


 別にR指定が付くような話じゃないよな。


 いわば親の分身みたいな感じになるのかな。

 父親の魔力に母親の魔力が合わさって、1ヵ月後ぐらいに新たなる生命が産まれるって感じか。

 だもんで父親の魔力が強力だと、それだけ丈夫で元気で才能豊かな子供が産まれると。

 魔力の凝縮物を仕込んで1ヶ月前後先、出産という形で濃縮魔力の物体をアソコから出すんだ。

 それが人の形になるんだけど、魔力の塊だから抵抗が無くてさ、出産の痛みとか苦しみは全然無くて、いきなり少年少女の形になるんだ。

 ただ、その1ヶ月の間はオリモノみたいなのが酷くてさ、毎日使わないと漏れまくりになっちまうらしいんだわ。

 つまり、妊婦専用の位置取りになっているんだけど、それじゃあ何でそんなに妊婦が多いのかって話だよな。


「パパぁ」


 い、いやね、だからさ、単に魔力が強い相手として選ばれただけであってだな。

 種族繁栄の為にって言われてさ、そこらの女連中が大挙してな、魔力寄こせってそれはもう大騒ぎになっちまってな、はふうっ。

 だからそこら中、妊婦だらけになっちまってさ、魔皇子が使っているソレを見て、自分も使いたいと言い出したんだ。


「何だ、リリィ」

「魔力ちょうだい」

「まだ子供は早いだろ」

「もう2才だよ」

「まだ2才だ」

「ちぇぇぇ」


 いくら何でもませすぎと思うかな?


 だけど魔族は産まれて数日で歩き出す存在だ。

 元々、少年少女で産まれる関係上、1年もすれば当たり前に生活も可能とする。

 だから2才で子作りと言うのも別に珍しい事じゃないんだけど、オレが嫌なんだ。

 だってよ、確かに長いけど、向こうでの意識は16才なんだ。

 なのにこっちでは孫が居るとか、止めてくれと言いたい訳だ。


 あーあ、何でこんな事になったんだろ。



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