90 魔助
「おめぇ、魔族だよな」
いきなりそれかよ。
確かに元の身体を使ってはいるが、フードを深く被っているんだし、そうそう見えないはずなんだが。
「あんな膨大な魔力、人間が行使出来るかよ」
ああ、しまった。
あれはオレ用に拵えた魔法だから、消費の事なんて考えに入れず、ただただ治療効果優先の魔法なんだった。
だからやたら魔力を食うんだよな。
「それが何か」
「いや、うちは勇者の国とは違って、そこまでの事はねぇが、珍しいと思ってな」
「他にも居るとは思うが」
「そりゃあな。けど、治療魔法を使う魔族ってな、初めてお目に掛かったぜ。しかもとんでもねぇ効果のな」
「オレ達の一族ではそう珍しくもない」
「ほお、まだおめぇみたいなのが居るってのか」
「だが、奥地からは出ないぞ。忙しくてそんな暇は無いんでな」
「じゃあなんでおめぇは出ているんだ」
「まあそれはちょっとした理由だが、今は言えねぇな」
「ならよ、忙しい理由ぐらいはどうだ」
「一応は機密事項なんだがな」
「オレはな、あんだけの効果の魔法を初めて見てよ、こりゃ有名になると思ったんだがな」
「口止め料か、食えないおっさんだ」
「くっくっくっ、察しの良い奴は嫌いじゃねぇぜ。で、何でだ」
「ある植物の育成にな、膨大な魔力を使うのさ」
「そいつは砂糖だろ」
「やれやれ、困ったおっさんだ」
「国の割り当てが少なくてな、研究してはいるんだが、なかなかにはかどらねぇらしいんだわ」
「その植物は特定したのか」
「それらしき植物は見つけたが、これがどうにも育たないらしいんだわ」
「まあ、色々な秘伝が使われているからな」
「その技術指導ってのはダメか」
「無理だな」
「なら、報告書に記す事になるだろう。オレの命を救った奇跡の回復魔法の事を」
「助けた奴に恐喝されるのは初めてだよ」
「おめぇの魔具をな、登録するってのでどうだ。検査無しでよ」
「断る」
「そうか、なら、仕方がねぇな。おめぇの魔具は禁止だ」
「別に構わんよ。オレのは魔具じゃない、魔助具だ」
「なんだそれは」
「新たなる分類さ。オレの道具は魔助具としての最初の作品になるといいが」
「魔力を消費すれば魔具、しなければ魔導具、他の分類など意味がねぇよ」
「不味い水を美味くする魔助具だ」
「なん、だと」
「魔力の行使は必要なく、時々交換する品を買うだけで、くそ不味い水がそれなりに飲める水になっちまう。さあどうだ、これをどっちに分類する」
「うっ、そ、それは、道具、いや、魔具にも魔導具にも使うとなると、しかしそれは」
「魔助具だろ、クククッ。さて、広場で屋台の権利でも借りて、売りに出すからな」
「探索者ギルドの許可が無いと迷宮では使えないぞ」
「別に構わんよ。オレは一般用に売るだけだ。使用者が何処で使うなんてのはオレには関係無い話だ。邪魔したな」
「待て、待ってくれ」
【暗示誘導】
やれやれ、こんな奴、助けるんじゃなかった。
まさか命を助けてやって脅されるとは、それだけ探索者ギルドの権力がでかいって事か。
となると、これは新たなアルバイトの道もあるな。
よし、転移装置の魔導具でも開発してみるか。
帰り道、使えは一気に、入り口に。
売れるだろうが、これも別に迷宮だけのものじゃない。
指定の場所にマーカーを設置して、そこに戻るアイテムにする予定だから、町の入り口に設置すれば中で迷子になっても平気だと。
山でも洞窟でも、極論すれば家の中に設置しておけば、何処に出かけても帰りは一瞬だ。
だから盗賊御用達になりそうなアイテムだけど、使用者の事までは考えないのが普通だ。
それで罪に問うならナイフの製造者すら罪人になっちまうからな。
さて、面白くなってきたな。
抜け道アイテム、次はどんなのを開発しようかねぇ、クククッ。
☆
「うおおおお、すげぇぇぇぇ」
「おいおい、本物かよ」
「オレの安物の魔具の水が、やたらうめぇぇ……ううううっ」
「おいおい、泣く事はねぇだろ」
「だってよ、オレ、もうこの水の不味さに辟易しててよ、それが無くなると思ったらもう泣けてきてよ」
「けどよ、そんなすげぇ効果なら、高いんだろ」
「まあ、安くは無いな」
「金貨5枚までなら何とかするからよ、頼む、売ってくれ」
「試作品ならいいよ。その代わり、どれぐらい使えたか、どれぐらいで味が悪くなったか、そういうのを教えてくれたらね」
「ああ、ちゃんと記録はする。だから良いな」
「こいつが本体でな、こいつが交換用の道具だ。本体は長持ちするが、交換用のはあんまり保たない。それがどれぐらいで味が落ちるかってのが知りたい」
「あんた、店は何処なんだ」
「崩れ通りのドン詰まり。町の端のあばら家さ」
「ああ、いっちゃん土地の安い場所だな」
「なんせ最近、流れてきたばかりだしな」
「よし、これで早速」
「次のは何時作れる」
「急ぎはするが、そうそうは作れんぞ。試作品の結果を見て作るからよ」
「お前、とっとと飲みまくって記録しまくりやがれ」
「もったいねぇだろ、そんなの」
「なら、寄こせ。オレが飲んで記録してとっとと終わりにすっからよ」
「オレが買ったんだ」
「ちっ」
「それならな、この屋台を貸してやるから、水屋をやれ。美味い水を売るんだよ」
「あ、そうかっ、よし」
「さてと、準備をしておくから、記録を頼むぞ」
「ああ、任せてくれ。飲ませる奴に聞いて記録は取るから」
「そう言う事ならオレ達も協力するぜ。オラ、1杯いくらだ」
「えと、銅貨1枚じゃ」
「バカかおめぇ、試作品でも金貨5枚だったんだろ。銀貨5枚は取らなきゃ割りに合わねぇだろ」
「おいおい、僅か100杯程度で使えなくなる程、オレの道具は安くないぞ」
「そんなに使えるのかよ」
「そうだな、1杯銅貨10枚で売ってみるか」
「そんなに使えるなら魔導具のほうにも使えるな」
「いや、それぐらい使えるはずなんだが、そこは結果次第だ」
「よし、ほれ、銅貨10枚だ。水を寄こせ」
「あ、ああ……よし、ほれ」
「ゴクッ……うおおおお、なんてぇ美味さだよ」
「おい、オレにも寄こせ。ほら、10枚だ」
よしよし、宣伝効果はバッチリのようだな。
後は任せるから好きに売って好きに儲けて、後は税金を頼むな。
おおやけの場所で売ると、それが面倒なんだよな。
屋台の権利は別に、売れなきゃタダなんだから、帰りに払うだけだ。
本来ならアレの代金からの収益の2割を払う必要があるが、あくまでも代行って事だからオレは不要だ。
水売りの仕事をあいつと交代して、その道具を譲り渡しただけになる。
だから水が売れたらちゃんと税金を払えよ。
そんな口八丁で広場の役人をすり抜け、崩れ通りドン詰まりのあばら家に辿り付く。
もっとも、あばら家なのは見てくれだけであり、中はそれなりにしっかりしている。
それにしても金貨5枚とはまたやけに高く売れたものだな。
それだけ不味い水に辟易している者が多いって事か。
だがな、これは全ての魔技を敵に回すアイテムだという事が分かってないようだな。
クズ魔具でも国宝でも、同じく美味い水になるとしたら、誰が高い魔導具に手を出すかという事だ。
さーて、砂糖に続く第2弾、魔族領産の魔助具の始まり始まり、クククッ。




