09 料亭
行きつけの料亭に向けて、裏路地を入っていく。
ここらは夜の繁華街。
昼間は閑散としているが、夜になるとあちこちの店が開店する。
そんな中の店なんだけど、さすがに表からは補導されそうな感じだ。
夕方から開く店ではあるのだが、オレの年齢では一番乗りでもギリギリの時刻だ。
それはともかく、裏路地の一角の木戸をトントン……カチャ……「どうも」
「おう、またボンか、よぅ来たのぅ」
「お邪魔します」
ここには門番のようなお爺さんがいる。
なので恐らく、政治系のお客さんが主に使っているんだろう。
早い時刻なので許可してくれたんじゃないかと思っている。
だからオレもこんな時刻に来るんではあるんだが。
「あらまぁ、いらっしゃい」
「いつもの」
「ほんとに気に入ってくれたのね」
「もう中毒だよ」
「くすくす、ありがとうね」
金払いが良ければ身元などは気にしない。
それが料亭の本分らしく、オレの事についても一切詮索しない。
どっかの金持ちのポンポンだと思っているのかも知れないが、真実などを教える筋合いもない。
ああ、今日も美味そうだ。
造りも新鮮で、ワサビの香味も鮮烈だ。
あっさりとした衣のテンプラも素晴らしい。
どんな油を使っているのか、後味が本当にサッパリしているのだ。
そしてこの漬物もいい。
ご飯はつやつやと光っているし、甘みのある味は癖になる。
この魚、何だろう。
知らない魚だけど凄く美味しいな。
口をパカッと開けた、朱色と言うかオレンジと言うか、そんな体色の魚。
煮付け向きの魚なんだなあと思いながらも、その味に堪能する。
それにしても、筑前煮はやはり良いな。
煮物と言えば筑前煮ってぐらい、オレのマイブームだったりするんだけど。
こんなガキが相手だと言うのに、手抜きは一切無い感じだ。
ああ、このシイタケ、肉厚で絶品だ。
出汁をよく吸っていて、堪らん味だ。
タケノコも先端の柔らかいのを使っているんだな。
ああ、贅沢だけど美味しくて幸せだ……ふうっ。
お茶も美味しい……ご馳走様でした。
全ての料理を味わい、飯も食って満腹。
今は1万のコースだが、高校に入ったら2万のコースにしてもいいな。
それとも特上の5万にするか……まあ、まだ未成年だから控え目にしておくべきか。
そんな事を思いながら町を歩いていると、ゲーセンの前でうろうろしているミツヤと出会う。
どうやら小遣いが尽きたらしい。
もう夜なんだから帰ればいいのにとも思うが、どうしても攻略したいゲームがあるとか。
仕方が無いので小銭を渡し、勢い込んでゲーセンに走るミツヤを見送り、オレは家に帰る事にした。
土曜の夜だけの息抜きか……
まあオレも同じ息抜きをしたんだけど、使い道が違うのは今は内緒だ。
そのうちあの店を紹介してやってもいいが、やはり社会人になってからが望ましいだろう。
仕事もしてないのに金があるとか、怪しまれるに決まっているからだ。
もっとも、ネットで稼いだという言い訳も、高校に入ればやれるかも知れない。
義務教育を抜けたらかなり緩くなるだろうし、それからなら構わないと思うのだが、あいつが下手にそれを真似したら厄介だ。
オレは確実な予測があるからやれる事だが、素人がそう簡単に儲けられる世界じゃない。
例の長期予測は、秋まで地味な値動きだけど、秋の中盤から年末までうなぎ登り。
そのまま新年を越すと思わせて、年末に暴落って感じになっていた。
余りに派手だから、タマゴ追加で細かく予測したんだ。
だから途中の値動きもかなり詳細に分かっている。
まあ、終わった後で即座に熟睡になっちまったのも、やはり当然だろうけど。
数日後、じわりじわりと株価が上がり始めた。
まだ早いはずなんだけど、オレの資金の影響かも知れない。
もしくは、何かの操作かも知れない。
そうやって飴をしゃぶらせて増長させて、ここぞって時に抜け駆けで売るってのが仕手の本領だろう。
オレはただその上前をはねるだけだ。
市場からはその株だけがひたすら求められているはずだ。
自動購入にしてあるから、株価がいくらであろうとも、市場に出れば買い取る事になっている。
だからこの前少し下がった時に放出された株も買ったろうし。
買い取り額はかなりになっているが、まだまだ余裕はある。
どのみち資金が尽きても関係無いし。
問題は暴落寸前に、仕手の連中より先に売れば良いだけの話だ。
いわばゲームみたいなものだから、ただその駆け引きを楽しむだけだ。
儲けがどうのこうのなんて、そんなの実際、どうでも良い事なのだ。
ともあれ、12月にいくらになっているか、それを楽しみにしておこう。
全て売り切る事が出来るか? 仕手らしき存在を出し抜けるか? この駆け引き、癖になりそうだ。
実際、仕手の連中は堪ったもんじゃないだろうが、そんなの知るかよって感じだ。
いやぁ、面白いなこれ、クククッ。