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さすらいの魔皇子2   作者: 黒田明人
高1 5月休
89/119

89 事故

 


 客が来ないねぇ……まあ、別に良いけどな。


 さて、美味しい水のペットを基準にすると、まだ少し落ちるな。

 花崗岩から湧き出るってのがヒントになって、流水経路に花崗岩から溶け出る成分を混ぜ込むようにして、何とかそれっぽい味になりはした。

 だけどどうにもわざとらしい味と言うか。

 魔法で作る水が不味いのは純水だからだ。

 つまりエイチツーオー100パーセントの水が美味いはずがない。

 雑味とも言われる様々なミネラル分が程好く混ざり込めば良いんだけどな。


 この程好くってのがなかなかに難しい。


 混ぜ過ぎると硬水になっちまうし、少な過ぎると純水だ。

 カルシウムイオンとマグネシウムイオンをそれぞれ含ませる過程は巧くいっているんだが、後もう1味がどうにもなぁ。


 オレは今、魔具を作っている。


 水を作る魔導具なんてのはそれはもう、全ての魔技が作っている。

 そんなのに興味は無い。

 だからオレが作っているのは、水が美味くなる魔具、すなわちフィルターである。


 魔具だから使い捨てになるフィルターなので、成分を程好く混ぜ込む為の工夫を今やっているところだ。

 形状としては茶こしを参考にした。

 ただし、それはフィルターを支えるだけでなく、最後の1味に該当する花崗岩を備えている。

 すなわち、花崗岩を擁する茶こしのような物に専用のフィルターを装着する事により、しばらくの間はそれを通過した水は美味くなる。


 んで、不味くなったら交換と。


 交換するのは混ぜ込む為の専用フィルターであり、茶こしのほうは半永久的に使えるようになっている。

 まあ、朽ちたら交換になるとは思うが。

 カルシウムとマグネシウムはそれぞれ、結晶の大きさと流量の関係が判明し、後は他のミネラル分をやっている。

 参考にしたのは成分表……美味しい水の。

 後はノーパソのデータから分子を参照して、脳裏に仮想立体図形を構築し、結晶を構築すると。

 つまり、魔法の修練の一環なのだが、そこに科学が混ざるのは致し方ないところ。


 ああ、化学のほうかな。


 もう少し流水経路を調整して……ゴクリ……うむ、まあまあかな。

 今後、味の追求はするとして、ひとまずこれで売りに出してみるか。


 そうと決まれば大量生産とばかりに、材料をわんさか出して一気に構築。

 捨てなくて良かったオークの素材。

 まさかオーク素材にマグネシウムが多量に含まれているとはな。

 後はカルシウムだけど、これは簡単だろう。


 骨系のモンスターである。


 ただし、あんまり雑魚なのは役に立たない。

 ほら、雑魚ってすぐに崩れるだろ。

 つまり、カルシウムが足りない骨なんだわ。

 だからそれなりに強いモンスターの、しかも背骨を使う必要があったんだ。

 幸いにして亡者の町と呼ばれる、既に滅びた町にわんさか居てよ、大量回収になったのは必然ってとこだろう。

 後のミネラル分は実は、魔石を粉にして生成している。


 モンスターの血液でも良いんだけど、成分が薄くて大量に必要になる。

 その点、魔石は凝縮されている感じなので、粉にするだけで様々なミネラル分が得られる。

 もっとも、使用したのは普段、飴として食っている魔石だけどな。


 大量に拵えた、茶こしとそれに数倍の専用フィルターなんだけど、これって別にどんな世界でも使えるんだよな。

 魔具と言いながらも別に魔法を使う必要は無い訳だから。

 だから厳密にはこれは、ただのアイテムになるんだけど、その手のアイテムの事を道具と呼ぶぐらいしか名称が無いんだ。

 魔具や魔導具のサポートになる位置取りの道具、これを魔助具と名付けよう……なんてね。


 具を付けたのは単に、魔女と音が同じだから。

 まあ、別にそれは日本語訳での場合だから、現地で売る分には問題じゃない。

 ただ、日本でも売れるかも知れない品なので、後々の事を考えてだな。


 まあそれは冗談だけど。


 道具という分類だから付けたに過ぎない。

 かくして魔助具『美味水ろ過具』ああ、ネーミングセンスが欲しい。

 それはともかく、そいつを1個だけ持ち、後は【倉庫マジックボックス】に入れておでかけだ。

 どのみち客は来ないんだし、閉めておけば問題無い。

 中には何にも無いんだから別に盗賊が入っても何も盗れない事になるばかりではなく、罠があるから捕縛になっちまうだろうな。

 何とかホイホイみたいで嫌なんだけど、そういう存在を捕縛するのはオレのメシの問題だ。

 んで、ついでに血の気の失せた首を差し出せば、金一封になるかも知れんと。

 まあ、魔技の店に入るような盗賊は、目的がちゃんと決まっている。

 だから将来的に魔助具が売れるようになれば、大挙して襲ってくれるだろう。


 そうなればオレもメシに困らなくなると。


 対外的にはアイテムの材料にした、これでいけるんだ。

 実際、血液を使用するタイプのアイテムもあり、罪人の血液を使用したアイテムなんてものも巷には流通している。


 まあ増血剤の類だけどね。


 あれ、不味いんだよね、とっても。

 前に興味から食ってみたんだけど、余りの不味さに捨てちまったんだ。

 何でかなと思ったらさ、防腐剤みたいなのが大量に入っていて、それがまた消毒剤のような味なんだ。

 ほらあの歯痛で歯に詰める、黒い丸い、ほらあれ、ロシアを征すると言われたあれ、そうあれの味なのだ。


 それも初期の味のきついほうの。


 それはもうクレゾールを飲んでるみたいな気がしてさ、後口に盗賊が消えたのはいわば必然と……まあいいや。

 いかんな、どうにも話が逸れちまう。

 いやね、陳情じゃないんだからさ、こうも時間待ちとかやる意味は本来は無いんだけど、魔具を売りに出す前には探索者ギルドに提出してさ、使用に耐えるかどうかの検査が必要なんだとさ。

 ほら、迷宮で使うアイテムだから、使用中に爆発するとか、そんなのは迷惑だからって決まってるらしいんだけど、それの順番待ちがさっきからずっとなんだ。

 なんせ毎年のように魔技崩れがここに来て、それぞれオリジナリティ溢れるゴミ魔具を開発してさ、それをギルドの職員に披露して、合格すれば当座の資金になる。

 そしてそれを受けて水の魔具作りの資金にしようって、毎年その手の申請がやたら多いとは聞いていたが、こんなに時間待ちになるとは思わなかったんだ。

 しかもだよ、ここで待ってないとダメだって言うから酷いだろ。

 推定待ち時間を店で待機にしようかと思ったら、待ってないと順番は回って来ないとか抜かしやがんの。

 もうね、魔具持参の奴らが多すぎて、殿様商売になってるみたいなんだよね。


 嫌なら来るなっていう。


 ああ、やっとオレの前の奴が部屋に入って行ったな。

 やれやれ、やっと次かと思っていたら、いきなり爆発音が響き、バタバタとそこらの職員が慌てて走り出す。


 あーあ、運が無いな。


 あの野郎、失敗作を持ち込みやがったのかよ。

 そりゃ並の魔力持ちなら耐えても、試験の為の要員の魔力は少なくないと聞いている。

 そんなのが安全の為に、少し余分に魔力を流すんだ。

 安全係数が無かったらそんなの、良くて破損、悪くて爆発だ。


「お待たせしました」

「あっちは良いの? 」

「ええ、今、治療師が治療を行っておりまして、すぐに解決すると……」

「ダメだぁぁぁ、足りねぇぇぇぇ」

「しばらくお待ちください……コーツさんはどう」

「ダメだ、オレの魔法じゃ」

「そんな」


 あーあ、心臓の近くに破片食らって、今にも死にそうだな。

 仕方が無いからスルリと部屋の中に、制止を振り切って入り、おもむろに破片を引き抜き【治療セラピー

 ドクドクと出ていた血が止まり、周囲の肉が盛り上がり、切断面を覆い隠し、皮膚は新たに形成され、その傷跡を消していく。


 ふうっ、かなり食うな。


 オレの魔法は一度唱えたら、すぐに回復するって訳じゃなく、連続使用で高速回復って効果になっている。

 なので瀕死でも長く使えばいずれ回復するんだけど、普通の奴らじゃ魔力が足りない事になる。

 本来は1回唱えて自然に治ってくれるのが理想なんだろうけど、オリジナル魔法のせいか、そんな驚異的な魔法じゃない。

 自己治癒能力の超強化みたいな魔法なのは仕方の無いところだろう。

 なんせ自分に使う為に開発したのだから、戦いながら意識を回復に向け、自己治癒能力を上げて戦っていたんだ。

 その魔法を他人に使うんだから、1回で治るなんて効果になるはずがない。

 オレの魔法はオレが必要とする過程で拵えたものが殆どなので、どうしてもそういう形になるのである。


 それはともかく。


 何とか癒えたようなので、またしてもスルリと抜けて順番……あー、飛ばされたぁぁ、てめ、この野郎。


「だって君、順番抜けたでしょ」

「ちょっと中に用があっただけだ」

「おいおい、諦めな。この行列は便所すら許容してくれねぇ、それはそれはシビアなもんだ」

「ちっくしょー、見殺しにすれば良かったぜ」

「おいおい、そいつは酷くないか。ええ、命の恩人さんよ」

「ほえっ? ああ、さっきの」

「ちょいと来てくれ」

「ああもう順番飛ばされたから時間あるし、まあ良いかな」

「そいつは心配するな。特別優遇にしてやるさ」

「おいおい、それは酷いだろ」

「ふんっ、ギルマスのオレに文句があるなら、永久登録禁止にしてやっても良いんだぜ」

「ううう、そう、言えば、アンタ、は」

「ふん、裏仕事ばかりで知名度はねぇが、オレがここのヌシだ」


 濃い、濃いよこの人。

 しかも妙に暑苦しいし。

 場所を間違えたようだ。

 別の入り口の支部に行こう。

 そろーりそろーり……むんず。


「何処に行く、さっさと来い」

「用事を思い出して」

「良いから来い」

「はうっ」



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