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異世界体験が、ですので念の為。
下に戻って調査した結果、金貨の残骸を発見した。
どうやら地層の逆転現象を起こしたようで、そっくり地下数十メートルに存在していたんだ。
だけどさ、もういいやと思ってそのまま放置したんだ。
遥かな未来、もしかしたらここにも人類が進出して、地下の残骸を見つけてさ、太古の金貨鋳造の失敗の跡なんて調査結果が出たりしてと、そんな考古学のほうに意識が流れてさ、そういうのも面白いんじゃないかと思えたんだ。
まあ、魔王討伐の命題を抱えたこの世界じゃ、その確率は限りなく低いけど、次の管理がもしかしたら優秀で、巧い事活用するならそれでも良いと思ってさ、そのまま置いておいたんだ。
そうしたらさ、あの熟練俯瞰さんがやってくれちゃってさ。
違反だと言ってたのに、なんでオレの為にそれを犯すかな。
少なかったけど充足感を得て、荒野の一角にテントを張って、魔物避けを据えて眠ってさ、起きたら周囲に鉄の塊がわんさか置かれていたんだよ。
この世界でオレの他にそんな事をやれる存在と言えば、熟練俯瞰さんしか居ない訳で、そしてそれは明確な違反だ。
《何でこんな事をした……何の事だ……金貨の残骸からの分離だ……いやな、たまたま金貨みたいな物質を地中に発見してな、最近どうにも腕が鈍っているように思えてな、ちょっと修練してみようと思ってな、だから邪魔なら適当に処分しといてくれ……お人好し……ふふふっ、人の事を言えるのかよ……ふん》
そんな裏技があるのかよ。
確かに言われてみれば抜け道のような話だ。
そりゃ勝手にやるのは違反でも、管理が未熟なら代わりにしなきゃならん事もあるらしい。
となればその腕の鈍りは拙い、とくればその修練と言われれば、違反だからとは言えない。
言うなら管理が未熟の時、そいつに毎回要請しても良いって事になるからな。
そんな無駄な労力を毎回呼び付けられてするなど、それぐらいなら黙認しといたほうがお得だ。
聞けばマナ換算にして、実に50億もの量を必要とする世界構築だ。
混ぜた力でも5億の力を必要とする。
そんなの持ってる管理は滅多に居ないらしく、大抵は新規参入の時に借り受けての構築になるらしい。
それは長い年月世界を保たせて、少しずつ返していく事になるらしいんだけどな。
だからそんな膨大なエネルギーを、俯瞰の違反摘発で浪費するバカは居ないって訳で、自然黙認になるって話だ。
だからさ、オレはありがたく【倉庫】に入れたんだけど、あんな大量の金属とかもうどうでも良いと思ってて。オレは意趣返しはしたものの、キレイサッパリ消えちまって、かえってラッキーぐらいに思ってたんだ。
なのにその処分をしてくれたものだから、収納しなくちゃならなくなったと。
有難迷惑とは到底言えないが、心の中では余計な事をって……仕方が無いから何かに使うとするか。
でもさ、1000トンの鉄の塊って、実は使い勝手が悪いんだよな。
オレは量が増えるから仕方なくそうしようかと計算して、実はもっと小さくするつもりだったんだ。
1000トンだと個数は123750個になるんだけど、そうすると99999+23751の2枠になる。
どのみち、金貨の枠が空いたから、10枠ぐらいは使って小分けしようと考えていたところにアレだ。
そうしてまたぞろ荒野での作業。
確かに俯瞰さんの練習にはなったかも知れんが、オレの練習になってないんだよな。
そもそも、それがやりたいから始めた分別作業なのに、寝ている間に先を越されたって感じだ。
だから荒野にでかい板……いわゆるパレットのようなものを構築し、小分けの大きさで山にして収納しようと思ったんだ。
そしてノーパソで大きさを確定……2.3331065539235
ええいもう5メートル角の塊をザックリと縦横高に切断して載せりゃいいやと思い、そのまま載せたんだ。
そしたらバラバラと崩れて……うわぁぁぁ……ううむ、未熟だな。
どうにも熟練俯瞰さんのようにピッタリには構築出来ず、切断面が斜めになったらしい。
もうこの辺りで面倒になったんで、1枠分の1000トン塊はそのままで、端数だけザックリ切って入れたんだ。
バラで……そうしたら2枠で何とか収まったんで、そろそろ宿の更新かなと思ってたら、お呼び出しの時間になっちまってた。
《あれからもうじき3年になろうが、まだやっておるのかの……そっちはどんな感じ?……もうとっくに新規交代じゃ。新たなる存在を迎え、世界はゆっくりとではあるが、今は平穏じゃ……じゃあもうじき帰るね……うむ、後の調整の段取りも出来ておるからの、ただ戻るだけで良い……了解です》
オレこの3年間、何してたんだろう? 大した事してないぞ。
勇者どころか逆に国を消したぐらいだし、クククッ。
前代未聞、召喚勇者、国を消すの巻。
あーあ、歴史書に変な記述が成されそうだな。
くれぐれもバレないようにしないと。
☆
それから始まる送り返し作業。
熟練俯瞰さんにも連絡を入れ、いよいよ帰ると告げる。
また来いと言われて、もちろんと答えると、ニヤリとされたのがどうにも……嫌でも来るとバレてるし。
そんなこんなで、3つのグループはそれぞれ【暗示誘導】で倒して帰還の意識のままに、それぞれまとめて【転送】した。
その後で我らが、3本山田も合流を果たし、すっかりリハビリの終わった面々は元気良く共に……
《かなり慣れたな……面白ぇなこの通信ってな……すっかりかつてのオレぐらいになってんな……全然だぜ。魔法も知れてるしよ……三本はノーマルのままか……嫌がったんだから仕方ねぇさ……よし、帰るぞ……おっしゃ》
3人の意識を飛ばし共に【転移】
そしてここは元の教室の中であり、周囲の時は限りなく遅く、既に作業が始まっていた。
オレとミツヤはその様子を眺め、ミツヤへの理解は深まっていく。
結局、当初にオレが思ったとおり、邯鄲の夢にする計画らしく、本来は全て元に戻す予定が、3つのグループの面々の身体とこちらの3本のみになり、オレ達は修行の成果を残しての戻りとなった。
どうやらシナリオの関連で、戦いの経験を夢で体験していく感じになっており、今回の召喚の夢は本来、別の場所で発生の予定だったとか。
それをわざわざ橋本達を巻き込んだのは、あの俯瞰の意趣であったと。
確かにオレとミツヤも共に行くのもシナリオのようだったが、京都のあの屋敷のメンバーが本来共に行くはずであり、それと3つのグループの4つ巴になるはずだったとの事。
本来、そこまでの悪感情も無いはずが、仕手の関係でこじれた為、あそこで仲間になる予定が崩れ、仕方が無く車で迎えに行かせ、改めて仲間になるシナリオに乗せようとした寸前、それをオレが意趣返しに攻撃を仕掛けて検挙されて費え、どうしようもなくなって教室でなし崩しに飛ばしたと言うのが真相らしい。
メインに超越者が入っている事を知りながら、人形扱いして強引に流れに乗せようとしたのが今回の事態に繋がったとして、彼は今、禁固刑になっているとの事。
まあ、上の刑罰の基準とか知らないが、少しシナリオに拘り過ぎたのが拙かったんだろうな。
そんな訳でまた、元の生活が戻ってきた訳なんだけど、これがまた実に退屈なのである。
まだ続きます。




