83 砂糖
結局、ミツヤには、木林生ビールの6本ケースを100ケースくれてやり、イール・パイを箱ごと渡し、最後に出したアンコ団子を1ケース100本入りのを渡した。
他にも美味しい水の追加に、菓子パン各種を100個ずつくれてやる。
それで空き缶は回収するように言い、金属を再利用するからと告げておいた。
もっと大量でも良いんだけど、帰った後に自分であれこれ買う楽しみを奪いたくないからな。
後は一度、向こうに帰ってあいつらにも食わせてやれと、ミツヤを送り出す。
ギルドからはもう抜けると言っていたが、断りゃ良いんだよと継続をさせておいた。
あんなのでも宿の料金には有効なんだし、使えるうちに使えと言っておいた。
義務を断ってクラスを下げたりしても良いから、とにかく在籍だけはしておいて、脱退させられるまで使えと。
確かにそうだなと、ミツヤはその方面でも開き直る事になる。
この世界本来の熟練俯瞰に連絡し、かつて殺された魔皇子の蘇生は無理かと聞いたんだけど、身体構築を勝手にやるのは罪だからと言うので、それは造るからと、転生で偶然に同じ立ち位置になったってのだけやらせる事になる。
そうして元親父の意識を精神体で探り、そのイメージのままに【人造】で構築する。
そこに魂が投入され、晴れて復活が叶ったと。
後は教育とばかりに無難な性格に調整し、九死に一生を得たという記憶を差し込む。
そしてオレの事は遠い親戚と認識させ、隠棲先からの訪問って事にする。
そしてオレの飛行魔法の情報を消し……大変だったけど……そうして朝、親父に状況を説明する。
「それではあやつが」
「ああ、元通りさ。今度は殺されるなよ」
「うむ、もう2度と失いはせぬ」
「オレは遠い親戚って事になっている。だからもう、あいつがそのまま引き継ぐ事になる」
「あやつは空を飛べぬがの」
「そいつは消してある」
「当時も思うたが、とんでもない研鑽よの」
「爪を隠し過ぎて悪かったな。なんせそれ以前の人生ってな、爪を出して殺されたのが2回だ」
「それなれば致し方あるまいよ」
「故郷はもう消えたと思ったが、ここにあったんだな」
「そう思うてくれるのじゃな」
「もう、オレは行く。だから最後に……親父、会いたかったぜ」
「ワシもじゃ」
取り返しが付かない時間の果ての出来事と諦めていたってのに、こうしてまた魂を感じる事が出来るなんてな。
ああ、懐かしいと言うのはこういう感じだったんだな。
うん、この感じを覚えておこう。
この波も忘れないぜ。
どんな世界に行ったとしても、この波は絶対に忘れない。
だからまた逢いに来るからよ、恋しくなったらさ。
「じゃあまたな、親父」
「うむ、また来るがよい」
☆
そうしてまた世界を巡る。
小悪党っぽい中買い商人をからかいながら。
そんな中、ミツヤの言葉が蘇る。
糖分を得る機会が無かった?
この世界、砂糖が高いのか?
商会で【暗示】で聞いてみると、それはそれは高いらしい。
香辛料も高いけど、それと似たような価格らしい。
砂糖と言えば1キロの袋を確か2ページぐらい入れてある。
塩も同様だけど、塩はそこまでの価格じゃないらしく、だからこそ塩漬け串肉なんてのも思い付き易かったんだな。
そうと決まれば砂糖を売るぞとばかりに、100グラムが入るような陶器のつぼを買い集める。
釉薬にロクなのが無いのか質の悪い陶器しかないようだが、それでも素焼きのつぼよりはましだ。
1個銀貨2枚のつぼを可能な限り買い求め、それに砂糖を詰めて売ろうと考えたのだ。
そうしてつぼの数は何とか1万揃え、1トンの砂糖を分配した。
後は5キロぐらい入るでかいつぼも20用意し、100袋の砂糖で満たした。
「これを見てくれるかな」
「この白い粉は一体何だ」
「これですくって手の平に……ほれ、舐めてみろ」
「うん? 毒では無かろうな……なっ、こ、これは」
「白い宝石だ」
「うむむ、確かにこれは白い宝石。ここまでの精製、とんでもない品だな」
「どれだけ出せる? 」
「ううむ、そうだな……金貨5、いや6……」
「6枚は少なくないか」
「いやいやいや、そうじゃない。よし、金貨75枚でどうだ」
「これが金貨75枚か」
「確かにこれだけの量、本来はもっと高いだろうがな、買い手をまずは見つけねばならん。少量ずつあちこちに配るのでな、それで何とか売ってはくれんか」
「なら、残りの9999個はもっと高いのか」
「なっ……そんなにあるのか」
「5キロのつぼ入りもあるぞ」
「買う、買うぞ、ありったけ買う。よし、この際だ。金貨100枚だ。で、でかいほうは何倍かは知らんが比率で払う。これで良いな」
「かなりになるが足りるんだろうな」
「全部でいくらだ」
「金貨1100万枚だ」
「うっ、そ、それはさすがに」
「なら、でかいつぼだけにするか? それなら100万枚で済むが」
「どれだけある」
「5キロのつぼが20だ」
「ううむ、20もあるとはな。よし、何とかしよう」
「先に商品を渡すから、売って金にして払え」
「それで良いなら助かるぜ。高く売って残りも買うからな」
「期待しているぞ」
さーてと、魔界産と吹くのはいつにすればいいかな、クククッ。
こういうレア物の産地に指定して、交易という名目で流通させれば、下手な侵略は他の国に邪推を与える。
すなわち、魔王がどうのこうのじゃなく、その産地の産物が欲しいからだと。
んで、侵攻の話が出て、産物の流通が止まれば、そんな噂を出す国は総すかんを食らう。
さて、大量に砂糖の袋を渡しておこうかね。
ここの俯瞰もそれなりの奴のようだし、たまに訪れて密かに売る役目ぐらい渡してもいいよな。
《それはまた面白い役回りだな……王宮の中に入る大義名分は出来るし、うろついていても何も言われない……確かに王宮に入れるメリットはでかいが、どれだけ持って来た……何トンでも預けておくから、少しずつ長く渡すようにしてくれるか……金は取らんのか……親父に進呈と伝えておいてくれ……魂の記憶か……10キロぐらい入るつぼに、毎年10個ぐらいで……毎年100キロか、良いだろう……オレは遠い親戚筋って事になってるから、遠い世界で作っていると思わせておけばいい。そしてそれを貢ぐのだと……成程な、ならばそうしよう……超越者持ち込みの品だ、誰に言われても問題無い……ふふふっ》
そうして1キロの袋の砂糖をつらつらと青いシートの上に積み重ね、そういう山をいくつか拵えて……
「とんでもない量だな」
「1山1万、それが30で30万、300トンあれば3000年分はあろう」
「増量要求も考えての事か」
「当然、それは言ってくるさ。既得権益ってなそういうものだろ」
「見越されて、それに気付けず増長し、なのにそれすら見込まれているってか」
「倍になっても1500年、3倍でも1000年。それぐらいになったら止めても構うまい」
「ふむ、それぐらいの繁栄なら、争いはなし崩しになるかも知れんな」
「召喚はしても適当に修練させるだけなんだし、名目としての討伐なら問題無いさ」
「仮想敵国、だけど交易先か、皮肉だな」
「まあ、バカンスという事で」
「ふふふっ、受け取ろう」
ずっと忙しくやってきたんだろうから、ほんの数百年のバカンスぐらい良いだろう。
上がそれを出さないのなら、オレが無理矢理やってやる。
借りた特典と超越者の身分で、大量持込の品を世界に流させてやる。
さて、流通させまっせ。
魔界産の砂糖と思わせる為に大量にまずは流通させ、後々は魔族領との交易品にしてやるぜ。
100グラムのつぼの砂糖を金貨100枚で販売する。
【暗示】を使うからパイプ要らずの商談となり、あちこちの貴族連中に一通り売れた後、そいつにプレミアが付くようになる。
なんせ甘味の少ない世界、なのにいきなり現れた強烈な甘味。
ある貴族は紅茶にそれを少し入れ、それが好きになり毎日欲しくなる。
またある貴族はパン造りの職人に命じて、パンに少し混ぜさせ、結果、菓子パンもどきが出来上がり、それが好物になる。
そんな風に色々な食品とのコラボがなされ、切っても切れない重要な位置を占めるようになる。
しかしいくら少しずつの使用とは言え、貴族連中に売りつけたのは僅か100グラム。
そのうちに以前、売りつけた商会からの品が出回るようになり、貴族連中は競ってそれを買い求めようとし、結果的にプレミア商品となったのである。
どうしても譲らない貴族連中に対し、オークションの提唱がなされたのは、いわば必然だったと言えるだろう。
全ての貴族がそれに賛同し、5キロの砂糖つぼ20個は全てオークションに掛けられる事となり、あの商人はホクホク顔でその落札を待った。
ところがそこにハプニングとでも言うべき事態が発生する。
オークションに掛けられるはずの砂糖つぼの数がやたら増えていたのである。
水増しをしたのは当然、本人なのだが。
「一緒に出していただけるという事で」
「しかしこれ程の量とは」
「え、多いですか」
「いやいや、多い程、ありがたいものですよ」
「まだまだありますので」
「え、そんなに? 」
「もし、落札された方が追加で欲しがるようなら、落札価格でいくらでも出せると打診願えますと」
「それなら落札後の取引の際、それを話しましょうぞ」
「お願いします」
てな訳で、持込のつぼはそのまま追加買取分に回される事になる。
本来は落札者との取引になるはずが、落札価格での追加購入の話が何故か参加者に漏れ、そう言う事なら落札価格で良いから欲しいと騒ぎ始めたのである。
5キロつぼの落札価格は金貨12500枚。
到底、砂糖の価格じゃないと思われそうだが、金に余裕があって甘味の少ない世界において、これだけの甘さの商品はそれだけ破壊的な威力があったようである。
では何故、金に余裕がある貴族が多いのに貧乏国なんてものが存在するかだが、貴族が金を持つからこそ国にそれが還元されていない証拠になる。
つまり汚職が横行し、中抜きが常態化しており、中間職がふんだんにあり、庶民からの収益は様々な貴族の手が触れながら王宮に到達するようになっていた。
手が当たるたびにそこには中抜きが発生し、庶民からの収穫物は目減りしていく。
結果、膨大な中抜きが発生し、自らの領地からの収益にプラスして、中抜きでの収益で貴族は肥え太ったのである。
それはこの世界のシステムが悪いとでも言えば良いのか、貴族はそれぞれに兵士を持ち、周辺のモンスター討伐などを行っている。
本来ならば中央集権でやるべきなのに、貴族がそれぞれに力を持ち、それを国に貸し出す事でまたぞろ収益を得るシステム。
そんな中、魔王討伐をしようとするとどうなるか? この世界では国と国の戦争になる、魔王討伐イベント。
貴族に依頼するしかない、どうか兵を出してくれと。
まあ表面的には命令だろうと、実質的にはお願いだ。
本来ならそこまで魔王に対してどうのこうのは無いはずだけど、そこにこの世界の命題がある。
すなわち、魔王討伐イベントを起こすべく作られた世界と言う命題が、国を富ませない原因になっていたのである。
確かに勇者の召喚がありはするが、魔力を貯めるのに相当に時間が掛かる。
しかも、貯めていく過程で少しずつ魔力は漏れていき、結果的に必要量の数倍の魔力を必要とするようになる。
それはこの世界の質が悪いせいで、自然界に存在する水晶の質も悪くなっていった結果、漏れやすい水晶が当たり前に認識されており、
だからこそ無駄な魔力が漏れまくり、大気に潤沢な魔力が充満し、それがモンスター発生の原因になっているとは気付かず、人は勇者召喚を
しようとするのである。
つまりこの世界は、勇者召喚の行為により、大気にマナを含ませ、それで大気のマナ供給をさせようとした世界となる。
確かに他にも含ませる方法はありはするが、まさか世界を救わんとする行為がモンスター発生の一端を担うとは、実に皮肉な世界と言えるだろう。
こんなシステムを平気で施工するのが管理と言う存在であり、だからこそ管理連中は元の同類を下に見るようになっていったのである。
話が思いっきり逸れたので戻すが、高価な砂糖はそれでも全ての貴族の要求を満たし、ここに数百万トンの砂糖が世界に撒き散らされた。
全世界のあらゆる貴族連中が、代々貯めておいた膨大とも言える資金を以ってしても、全て買い切れなかったと言われる程の量の砂糖。
それが何処から現れたか、それを人は考えるようになっていた。
そしてその場所が知れる、と同時に世界に衝撃が走る。
各国は激しく反発するも、貴族連中は動かない。
それもそのはず、貴族連中は既に差し回しと自称する者との取引をやっている最中だったからである。
「まさかこれが魔族領の産物とはな」
「今まで貯めておいた品だが、これからはそこまでの量は出せん」
「構わぬよ、しばらくは今回の量があればいけよう。追加分は少なくとも、買えるだけでありがたいものだ」
「国の王は色々言うだろうが、我らとて生活があるのでな」
「魔族とは魔力の強き者、その者達によって作られる甘味とはな」
「我らの食事の事が原因なのは知っているが、それとて無垢なる者は求めぬ。世には盗賊が横行しているからな」
「どのみち殺す者達が相手ならば、我らもそこまでの嫌悪はせぬ。家畜にとってみれば、我らとてとんだ仲間殺し。まだ区別しておるだけましというものじゃ」
「そればかりと言う訳でもない。得られぬならば得られる量で耐えるものだ。無碍なる行為は望むところではない」
「そう言う事ならば我ら一同、国を動かすもためらわん。表向きには対抗でも、内向きは友好も可能だ」
「年に数十が精々だろうが、それでも構わぬか」
「充分とは言わぬが、あるだけでもありがたいのは確かじゃ」
「後の交易、楽しみにしておきまする」
「それはお互い様じゃ」
かくして各国は表向きには対抗のまま、内向きでは交易の契約を締結したのである。
「あやつがやってくれたの、とんでもなくありがたき事を」
「これが今年の貢物でして」
「あやつは元気にしておるかの」
「ええ、届けて喜んでくれると良いと」
「そうかそうか、うむ、喜んでいたと伝えてくれるかの」
「はい、必ずや伝えましょう」
(これが目的か。まあいいだろう、これぐらいの芝居。バカンスの恩に比べたら、何ほどの事も無いさ)
キバヤシイチバンシボリ




