80 魔王
実はミツヤは今、ソロをやっている。
だからこそオレは詐欺紛いの魔導具屋をやって遊んでいるんだけどな。
とにかく技能を磨くのとあいつらに供給するのと宿の件と王宮への配達を頼んだんだけど、なにより戦いが面白くなったようなので任せている。
オレも戦い始めたら止まらない性質だからよく理解出来るけど、そう言う訳だからやれるだけやっとみろと送り出したんだ。
あいつも裏の話をかなり聞いたらしく、もし、死んでもまた蘇るって知っちまって、だから本当にゲーム気分で狩りをしまくろうと思ったらしい。
いわばシナリオを逆手に取ったようなものだけど、シナリオメンバーだからこそ受けられる特典をフルに活用しようとするのは別に悪い事じゃない。
まあ、ミツヤが死んでそのままにすると、オレが暴れると軽く……力の試しをやりたくなると言っただけだよ。
それでまぁ、ミツヤの生存保障が付いた訳なんだけど、そういう訳でミツヤは死の恐怖を乗り越える為の修練……ものも言い様だと思うだろ。
それをやっている最中になるんだけど、オレが近くにいたら【復活】を使っちまうから、あえて別行動にしているって訳だ。
やはり死の恐怖を乗り越えるには、瀕死になって激痛の中でそれを体験し、身体が死んだ後にどうなるかを身をもって体験するしかない。
それを何度か体験すれば、あいつもきっと慣れてくる。
そうしたら精神体で保持するコツなんかも分かってくるだろうしで、そうやって少しずつ進化していく。
オレがかつて通った道筋をミツヤも辿る事になる。
だからその邪魔をしたくないんだよ。
過保護にすれば簡単に技術は進化するだろうけど、依存はあいつの為にならない。
独力で獲得したという自信、これがあいつの成長の糧になると思うからこそ、今はあえて手を離している。
確かにオレのほうが長生きだけど、あいつと上下関係になりたくないんだよ。
対等でありたいからこそ、対等になれる機会を奪いたくないと、ただそれだけの事なのさ。
オレは相棒が欲しいんであって、従う存在が欲しい訳じゃない。
仲間が欲しくても部下は要らないと、まあそんな感じかな。
そんな訳で今オレは、魔族領に来ている。
当然、身体は当初のものを使用中であり、だからこそ周囲の奴らも何も思わない?
あれ、何か用か。
「城にご足労願いたい」
「オレが何かやったか」
「滅相も無い、お客人」
「どうして余所者と分かった」
「今時、そのような風体、王族以外でなどあり得ぬ事」
「まあいい、行こうか」
あれぇ、変な事になっちまったな。
確かにそこらの奴は、髪は銀に近い奴は居ても、オレみたいな真銀の髪は居ないけどよ。
それに瞳もそんなに赤い訳じゃないけどよ、まさか両方を兼ね備えた存在が王族だけとかって言われてもよ。
そりゃ確かにかつてはそうだったけど、この世界じゃそうじゃない訳で……どうするんだよこれ。
なんかヤバい感じがするんだけどよ。
王宮まで、まるで……良く言えば護送、悪く言えば連行と、そんな感じで連れられていく。
周囲は魔族だらけで、今更逃げられ……いや、力ずくなら可能だけど、そうじゃなければ無理そう。
仕方が無いのでそのまま連れられて、王の間に送り込まれる。
眼前には王様が立っているんだけど、どうにも何と言うか、どう言えば良いのか、ええと。
「おお、まさしくその風体は王族の証」
「今は違うけど、かつてはそうだったのは確かだな」
「今は違うと? なれば何を致しておる」
「勇者」
「まさか、召喚されたと申すのはそなたの事かの」
「かつてのオレの国は滅び、世界は崩れた。それからどれぐらい過ぎたのかは分からず、違う世界で平穏に暮らしていたというのに、いきなり召喚されて勇者と言われてもな。かつて魔王を親に持つ存在を勇者扱いとは片腹痛いが、成り済まして人間で遊ぶのも悪くないと思い、あちらこちらでそれをやっていたところで、ちょいとかつての思い出のつもりでの寄り道だ。騒がせるつもりはなかったが、可能なら当時を忍ばせて欲しい」
「心行くまで滞在なされよ」
「ありがたいな。もう顔も忘れた親だが、恐らくはアンタのような親だったんだろうな」
「ワシにもかつて子が居たが、人に殺されてしもうての、その報復を少し派手にしたせいか、勇者などを呼ばれて困っておったが、まさかそなたのような者が召喚されるとはの」
「ふむ、そう言う事ならしばらくの間、魔皇子に成り済まして人間で遊ぼうか、クククッ」
「からかうだけかの」
「さすがに殲滅は拙かろう。あれらは食料、尽きては滅亡になるだけだしな」
「ほんに魔族なのじゃな」
「ああ、あれらの血は美味いよな」
「じゃが、なかなかには得られぬがの」
【倉庫】
「お近付きのしるしだ」
「ほお、これが勇者の……おお、これは、まさか」
「幼少の頃、動けるようになるまではこれを飲まされたものよ」
「ほんに違う世界なのかの? 我らと同じ伝承ぞ」
「偶然だろ」
「そうかのぅ、まあよい。好意には感謝するぞぃ」
ゴクリゴクリと美味そうに……まあ、オレの飲んでた残りで悪いな。
ちょっとだけ残ってたのを渡したんだけど、渡さなければ晩飯の予定の……げふんげふん。
「はぁぁ、久しぶりに良き物を飲めたの」
「それは幸いだ」
「して、そなた、元の名は何と申す」
「かつての名か……ええとな、少し待ってくれ。かなり古い記憶だからな」
えっと、初期の名は重要フォルダのような場所に……ええと……
「ダイア=ドエル・フォン・グラントスだ」
「おおおお、これは奇跡か」
「何だと」
「親の名は覚えておるかの」
「確かゲルニス、んで、宰相はソアロに大臣がベルゼビット」
「間違いない。おぬしはワシの子じゃ」
「おいおい、人間に殺されたんじゃないのか」
「それはこの世の話じゃ。ワシが申しておるのはその前の事じゃ」
「記憶があるのかよ」
「おぬし、ワシを裡に抱いてくれたじゃろう。あれでの、どうやら特別になったらしいのじゃ」
「誰だ、そんな事を吹き込んだ奴は」
「世直しと言うておったな。壊れる世界を治して回ると」
「じゃあ壊れなかったのかよ」
「そう言えば、おぬしの事を弟子と申しておったがの」
「うげ、まさか、あいつが、あいつがそうなのかよ」
「知っておるのかの」
「悪い、考えをまとめたい」
「部屋に案内させようの」
まさかだろ。
知らない奴に借りたと思い込んでいた、下の世界体験勝手って特典。
まさかオレを起こしたあいつが持っていたとはな。
つまりあいつは初代の天で、あの世界は確かに復活も可能とは言っていたが、本当に復活させたんだな。
そりゃ親父も宰相も大臣も、裡に抱いたから記憶は残している。
他の奴らはそのまま殺したから記憶なんかも散乱して……だから記憶を残したまま転生になったって事か。
つまり、オレの裡からこっそり抜いたんだな、親父達の魂を。
全然気付かなかったぜ、そんな事。
そしてこの世界に誘致したって事か。
こことあの世界は匂いが違う。
だから違う世界なのに変な郷愁を感じて、干渉波だと気付いたんだ。
どんな新人が使っても、普通はそう簡単に気付けない。
だから熟練のはずのマルチも気付けなかった干渉波なんだけど。
匂い……まあ、雰囲気と言うのか、波と言って良いのか。
世界の根幹の形と言うべきなのか、とにかく違うと分かるものだ。
そうだなぁ、同じマンションの同じ部屋でも、施工者が違うと違う部屋と認識する、みたいなものか。
施工者によって、使う材料が違えば、それぞれの匂いも異なる事になる。
だけどそっくりなのは確かであり、それは微妙な違いに留まる。
オレはあの世界で数千年過ごしたからこそ、違いに気付けたのかも知れんがな。
まあもっと熟練すれば分かるんだろうけど、ビギナーなのに分かるのはそういうせいだろう。
それはともかく。
今更、親と言われてもな。
当時は爪の隠し過ぎですっかり落ちこぼれ認定されていて、弟が魔王になってしまったが、今なら……はぁぁ、そうだなぁ。
どうすっかなぁ、今更? 冗談だろ。
まあ、少しの間かな、滞在してもいいさ。
けどな、かつてはそうでも今はもう違うんだ。
だからそう長くは無理だからな。




