78 洗脳
いやぁ、どんな教育をされたのか、知る気にもならないよ。
何を言っても逆らわないんだよ。
あの、秀才君達がだよ、足を舐めろと言ったら舐めようとするんだよ。
慌てて止めたけど、どうなっているんだよ。
「なあ、ミツヤ」
「聞くな、怖いから」
「やっぱりか」
「洗脳だろ、これ」
「そうじゃないかと思ってた」
《お前、何してんだよ。人形になってるぞ……いや、心が壊れそうなんでな、あえて人形にしてあるんだよ……お前が付いてて何で社会のルールを無視させた……いや、たまたま抜けててな、戻ったら既に心が壊れかけていてな、慌てて全員を人形にしたんだ……修練も良いが、限度を考えろよな……いや、面目ない……リハビリは自分でやれよ……はぁぁ、仕方が無いか……身体が欲しいか……まさか、作れたりするのか……おいおい、身体構築ぐらいはやれるぞ……どんな超越者だよ。やっぱり管理、やれるぞお前……嫌だね、そんなの……もったいねぇな……まあいい、造るからイメージ寄こせ……うへぇ、授けかよ》
専門用語が出るのは結構だけど、推測して理解するしかないんだぞ。
授けって何だ? 仕方が無いな。
まあ、やってればそのうち分かるだろ。
波を感じてイメージを受け取り、【倉庫】の魔物肉を活用して【人造】
造ったら橋本から抜けてするりと入る様は、やっぱり熟練を感じさせる。
「やあ、何て呼べばいい? 」
「誰だこいつ。てか、何だ、今の」
「マルチと呼んでくれ」
「それはワンコの事か」
「ぐ……イメージの中にあったのか、くそ、省くつもりが」
「なあ、誰だって聞いてるだろ」
「マルチだと言っただろ、今。何を聞いていた、ミツヤ君」
「何でオレの事を知ってるんだよ」
「くすくす、僕の事を忘れたのかい」
「うえっ、その口調は……けど、橋本はここに……はぁ? どうなってんだよこれ」
「可能なら説明を頼む。規則違反なら無理にとは言わんが」
「いやいや、構わんぜ。話していけないのは世界内存在に対してだ。世界を越えたらそいつはもう超越者。だから大抵の事は許容される。まあ、抜け道だけどな」
「なら、頼む。オレは説明が苦手でな」
「感覚派ならそうだろうな。よし、可能な限りは話してやる。しっかり聞いとけよ、ミツヤ君」
「その前に服を着ろぉぉぉ……寄って来るなぁぁぁ……抱き付くなぁぁぁ」
「そっちの気じゃなく、オーラ食ってるな、この食いしん坊が」
「くっくっくっ、バレたか」
【倉庫】
「ほれ、。こいつをやろう」
「魔石か、ふむ、確かにこれでもいけるな」
「100個入りだ、大事に使え」
「ああ、そうさせてもらおうか」
「こいつも同じなのかよ」
「この性質はな、別に吸血鬼の性質って訳じゃなくてな」
「ああ、説明はしておく。だからお前は服を出してくれ」
【倉庫】
「ほいよ」
「よし、まずは服を着てからだ」
「ちなみに相方の名は? 」
「ソフトだ」
「ああ、柔いか」
「お前も素質があるのかもな」
「冗談はよしてくれ、ただの方言だろ」
「くくくく」
☆
階下に降りて1人増えたと通告し、串肉25本で追加契約。
どうやら商会で売りに出された串肉を見たらしく、1本が金貨1枚だったらしい。
つまり、塊1つ銀貨20枚で高いけど、それで1回分の夕食スープにでもなればお得だと、購入の予定でいたらしい。
なので渡りに船な申し出に、二つ返事になったとこういう訳だ。
どうやら塩漬けにしたらしく、塩味と香辛料が程好く効いて、スープの具に最適らしい。
刻んで細切れにしてスープにすれば、1串で5回分のスープになると、すっかり別の用途になっていた。
1万5千本入手した商人は、儲けが無いような感じになっているが、それは【暗示】のせいだ。
本来はその半値で仕入れるつもりが、うっかり売価で仕入れる羽目になったのだ。
なので慌てて値上げをしているらしいが、果たしてどれだけ上乗せ出来るかな。
それはともかく、オレはあいつらに対し、金貨5000枚ずつの貸しが出来た。
日本円にして5億ずつのアドバンテージ、さてどうするつもりかな。
リハビリをする前に串肉作りでもやらせようかな、残っている魔物肉で。
それとも何か他の作業でも……そう思った時に閃く。
ミツヤのボックスに入っているモンスターの解体をやらせようと。
オレのはスキルでもう解体されているが、ミツヤは倒すだけ倒してボックスに入れ、必要で必要数だけの解体って具合なので、殺したままの状態の
モンスターがわんさか入っている。
それを解体させようと思ったのだ。
そして素材を売らせようと。
下級1クラスでも素材は売れる。
それは他のグループの下請けに入る事もある関係で、分配をもらったりするからだ。
そうしてその売りでも何度かやっていれば、僅かに貢献にはなる。
まあ、依頼の1割か5パーセントか、それぐらいの割りだけどな。
それはともかく、売ればいくらかの金になる。
どのみち金などどうにでもなるが、それを言っても仕方が無い。
あいつらも金を返す手段があるほうが良いだろうと、マルチとも相談してそれをやらせる事になった。
まずは全て解体してからの話と、ミツヤのボックスの中のモンスターを3人のボックスに移動させる事から始めたのだけど……
「おいおい、どんだけ狩ったんだ。いくらでも出てくるじゃないかい」
「まだまだあるぜ。てか、コージのほうが多いんだけど、コージ、お前のほうはどうするんだ」
「ああ、あれはまたそのうち身体構築の材料にでもするさ。そこらの人間ぶっ殺して材料にする訳にもいくまい」
「素材は出すんだろ」
「あれもな、そのうち何かアイテムでも作ってみようと思っていてな、そん時に足りないと困るんでな」
「魔導具とか造れるのかよ」
「そいつは調べてみてからの事だが、魔法の構築式を羊皮紙に書き込むスキルならあるからよ、それの燃料を魔石にやらせたら、それっぽいのは造れそうな感じはする。だからオレはそいつをやろうと思っている」
「じゃあ、狩りはしねぇのかよ」
「気分転換ぐらいかな。まあ、今回のイベントはお前の修行って事で良いじゃねぇか」
「それならそれで良いけどよ」
「オレが本気で暴れたらこの世界、無くならないか心配でな、クククッ」
「いや、さすがにそれはねぇだろ」
「ミツヤ君、余計な事は言わないように」
「うえっ、嘘だろ」
「君とは使用エネルギーが違うのだよ。可能不可能を試されて、もし可能だったらどうするつもりなんだ。オレは嫌だぞ、こんな世界と運命を共にするのは」
「興味が出てきたな、クククッ。試してみて良いか」
「ダメだ、絶対に試すな」
「なら、魔導具造りだな」
「ああ、そうしてくれ。そんなお試しはな、もっと熟練の管理の居る世界にしてくれ」
「あれ、ここは違ったのか」
「今な、この世界担当の熟練俯瞰は他の事に掛かり切りになっていて、上にいるのは新米だ」
「こっちがメインシナリオじゃないのかよ」
「それがな、3つのグループの奴ら、早々に死んじまいやがってな。今、死んで登った魂の選定と、その死の記憶の消去に調整にと、大忙しらしいんだわ」
「情けねぇな。工作員の訓練受けてそれかよ」
「それが仇になったんだろうな。三つ巴の抗争になって、ボロボロで終わったらしい」
「そういうのは国を分けるもんだろ、普通。なんで全員同じ国なんだよ、全くもう」
「くくく、やはりお前は管理になれる。そういうアレンジは普通、軽い罪になるもんだが、後のトラブルを予感して被れる奴こそが世界を長く保てる奴だ。
その素質ありだよ、お前はよ」
「オレならシナリオなんかは無視させて、好きなように暮らさせるな。それが罪だと言うのなら好きにしろと言うだけだ。そしてオレもその世界の中で好き勝手に生きていく」
「降りるのは罪だし、シナリオを放棄するのも罪だが、世界は存続すればそれで成功だ」
「ならそれでいいさ。後でオレがどうこうなったとしても、世界で過ごす奴らには関係の無い事だ。世界は出来た途端、管理の手を離れてしかるべきだろ。災厄を何とかするのも世界の連中のするべき事だが、天変地異ぐらいは何とかする、これで良いんじゃねぇのかよ」
「お前が管理になったら、その世界の奴らは幸せだろうな。是非はともかくな」
「まあ、もしなれるにしても遥かな未来だろ。オレはまだ世界の中をうろうろしているネズミに等しい。精々、猫にバレないように巧く立ち回るさ、クククッ」
(その謙虚さこそが既に資格とは、オレの口からは言えんが、ここの管理よりも確実に意識は上だぞ。こんな奴だからこそ与えられたのか、あの特典は。となると、将来は管理どころじゃ……ま、まさか……けど、能力的には……授けと……次元……や、やっぱり……つ、つまり、こいつ、いえ、この方は将来の……つまり、次の……)
(ええ、そうなって欲しいと願っていますよ。ですが、試しは必要です。その性根、その言が真実かどうか、その試しはどうしても必要なのですよ)
「それでお前、上に行けるとしたらそれを望むか」
「ああ、望むぞ」
「そうか、ならいい」
(あああ、望むのですか……残念ですよ。望みし者、それにあたわず。望む者はなれないのが掟。本当に残念ですよ)
こいつらと同じ職場ってのも興味があるから、上の世界に行けるのは望むけどさ、こいつらを束ねる職なんてのは絶対に嫌だな。
なんせそんなの自由が無いだろ。
大体さ、平穏であって欲しいって合言葉にするとか、つまりは自分で介入がやれないからこそ願うんだろ。
命令だけして動けない立場とか、オレは絶対に嫌だな。
やっぱりオレは下っ端でいいさ。
そんな責任とか肩の凝る話、冗談じゃねぇな。
好き勝手に動いて、上司の胃に穴を開けるのがオレの本分だ、クククッ。
なんてな。




