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さすらいの魔皇子2   作者: 黒田明人
異世界 2年目
77/119

77 奴隷

  


 宿と追加で交渉し、あいつら3人1部屋で1年という契約に変更させる。

 既にミツヤからのオーク肉が大量に食料庫に入り、早速今夜の食事に活用されているとなれば、それを全て引き上げてもいいんだぞと言えば、嫌も応もないんだけど、そこはあえて口に出さない。

 渋る宿の女将に対し、香辛料を1袋、中の匂いをかがせる。


 途端に目の色の変わる女将。


 この国では香辛料は高嶺の花の位置取りで、だからこそあの串肉も高く売れる……武力の背景があればだけど。

 こいつを付けてやるからどうだと言えば、オーラの色はだんだんと青と黄色が混ざっていく。

 つまり、喉から手が出る程に欲しいんだけど、足元を見られるのは嫌だと。

 それでも嫌なら食料庫のオーク肉も引き上げて、こいつを持って他の宿に行くと言えばもう、なけなしの女将のプライドは消えちまう。

 所詮は本物の商売人であり、そこに拘るべきプライドは存在しない。

 つまりプライドがあるように見せるのも商売人の腕であり、だからこそ高く売れる商売もやれるのだ。


 けど、立ち位置が違うから無理だって。


 表面上は渋々、内心は大喜びで契約は成立する。

 それはもうオーラの色が顕著に変わり、女将の上機嫌を表現している。

 なので追加で軽く、あいつらの待遇は落とさないようにと、一刺し。

 これをしておかないと、食事のランクが落ちたり、宿の部屋の掃除が滞ったりする。

 あいつらからの苦情が無ければ、また来年も香辛料込みの契約にしても良いと言ってやる。


 これでもう安心だ。


 後はあいつらが自滅しない事を祈るだけだ。

 だけどなぁ、多分、無理だろうと思うぞ。

 そもそも、バイトの経験すら無いんじゃないのか?

 バイトの暇があれば講習、夏は夏期講習、模擬試験に塾にと、そんな暇、無かったろ?

 文化祭の催し物のつもりでやると、どうなっても知らないぞ。

 それすら勉強にさいていた可能性もあるぐらい、勉強一筋の人生を送ってきたんだろ、進学校の生徒さんよ。


 商業系の学校ならいざ知らず、進学校の生徒にいきなり屋台とか、無理があるに決まってる。

 まあこれも経験だと思って、世の厳しさを学ぶといい。

 そう言う点ではいい経験になるんじゃないかな?


 ☆


「うしっ、おーわりっと」

「お、オークは終わったか」

「うへぇ、そこに居たオーガの群れは何処に行ったんだよ」

「素材になってボックスに決まってるだろ」

「早」

「素材に分解する魔法も開発したんでな、そいつで生きたままいきなり分解だ」

「とんでもねぇ魔法だな。それ、人間にも使えるんじゃねぇのか」

「ああ、やれるぞ、試してやろうか、クククッ」

「うげぇぇ、冗談じゃねぇぇ」

「クククッ、オレはされても困らない。なんてな、そういう技能も果てには獲得も可能になるぞ」

「そんなとんでもない事すら、可能になるって言うのかよ」

「殺されても死なないようになるには、そういう技能も必要だろ」

「真の意味での殺されても死なない奴ってか、とんでもねぇな」

「磨け磨け、磨けばそのうち到達する。先を考えずにひたすらやっていれば、気付いたらそうなってるさ」

「それがお前の境地なんだな。おしっ、やってやるぜぇ」

「あれからもうどれぐらい過ぎたかな」

「えとな……えっと、あの町の時が半年だから、こっちで2ヶ月、あっちで……かれこれ1年が近くねぇか」

「よし、宿の更新をしに戻るか」

「あいつらも宿にタダ泊まりだけで生きていける環境にしてやってんのに、変な儲けを考えなきゃ良いんだけどよ」

「宿に串肉を売っていれば、楽に儲けられるよな」

「そうだぜ、あれを刻んでスープに入れりゃ、そんだけで1食になるんだし。なのに屋台やってたら今頃は……」

「屋台が今まで継続していたりするかよ。売り上げの1割、出さないと脱税だ。さあ、初日からトラブルだ」

「それはいくら何でも気付くだろ。場所をタダで貸すとか、普通あり得ないしよ。縁日でも場所代ってあるらしいし、街でも借りたら金は掛かるしよ」

「勉強一筋、バイトの経験無し、そんなのが知ってる事か? バイト歴の長いミツヤさんよ」

「うっく、そうだったぜ。あいつら……やべぇぇぇ」


 結論から言うと、宿には誰もいなかった。


 女将に聞くと、数日後、いきなり戻らなくなったらしく、空き部屋になった部屋は他に貸し出し、なので差額がどうのこうのと揉み手を始めたぐらいだ。

 丸儲けになったと思って喜んでいたら、オレが戻って大慌てってとこだろう。

 なので追加でもう1年、つまり契約のやり直しを要求する。

 まあ、魚心あれば水心と、串肉を100本提供したんだけどな。

 香辛料たっぷりの串肉を見て、またぞろ目の色が変わったのは言うまでもない。

 いくら焼いてあっても塩漬けにすれば、数ヶ月は保つのだから。

 少しずつスープに入れれば、それだけでおかずになる。

 後は固い黒パンでも出しておけば、それだけで1食になるのだから、欲しがらないはずがない。


 宿に何人泊まっているかは知らんが、串とは言ってもでかい塊が5つだ。

 1本使えば数十人分のスープになる。

 100本もあれば塩漬けにしても3ヶ月、それだけおかず代が助かる事になる。

 なのでそれで契約成立なんだけど、さて、あいつらは何処に行ったんだろうな。


 なんて、白々しかったか、クククッ……奴隷でした。


 奴隷商館の親父に話を聞くと、事情はすぐに知れた。

 軽い【暗示インプリント】で何でも話してくれたのだ。

 それによると、広場の屋台で派手に美味い串肉を売り始め、客がわんさか集まって大儲け。

 そのうちに商会の奴らが仕入れだと来て、かなり良い契約になったとか。


 たまたま、良心的な商人に当たったらしい。


 そうして全ての串肉を売りさばき……推定1人金貨10枚になったかな……そのまま帰ったらしい。

 しかも帰りに飯屋に寄って、飲み食いしてほろ酔いで宿に帰り、明けて呼び出し食らってそのまま取調べ。

 どうやら儲けの3割だったらしく、さすがは貧乏国だと思ったものだ。

 それはともかく、3割はアコギだと争いになり、勇者という事で国の仲介が入ったものの、追徴金を払う事になる。

 卸金貨4枚、売り上げ金貨10枚、差額金貨6枚、そしてその3割の税金と、残った額の半分が追徴金だったとか。

 なのであいつらの儲けは1人金貨2枚銀貨10枚にしかならず、飲み食いでどれだけ使ったかは知らないが、恐らくは足りなかったんだろうな。


 国の税吏と話を付けてやるという、巧い話に乗っちまったらしいから。


 確かに追徴金を払えば金の問題は終わるが、罰則が無くなる訳じゃない。

 確か脱税はムチ打ちか何かだったはずだけど、それの免除を望んだんだろう。

 表の素人が安易に裏の話に乗るなど普通はあり得ないが、そこは実社会を知らない青二才。

 性善説のまかり通るぬるい世界の生まれだけあって、好意に感謝でもして乗っちまったんだろうな。

 待っていればそのうち連絡が入るとでも漏らしたんだろう。

 もしかしたら勇者ってのも話した可能性もある。


 そうなれば金づるだ。


 勇者と言えばマジックボックスって名前の祝福アーティファクトを持っている。

 そんな奴らを手にすれば、大量の商品を何処にでも簡単に運ぶ事が出来る。


 そうなればその収益は計り知れない。


 後は巧い事、あいつらを乗せようとして、大量仕入れで大量の儲けってのを持ちかけるだけだ。

 オレから大量に仕入れて商人に売れば、役人との裏取引で掛かった経費は簡単に取り戻せて大儲けになると。


 けどな、なんでお前達を経由しないといけない?


 そんな事、ちょっと考えたら分かりそうなものだが、やはり欲で頭がぼけてたんだろうな。

 半年ぐらいしたら戻ってくるだろうという、甘い目算で契約をして、戻って来ないから奴隷に落とされて、買い取って現在に至るらしい。

 教育に手間取ったが、今ではすっかり従順になり、夜の勤めもこなせます。

 なので是非お買い求めくださいと、ご機嫌な調子で抜かす商人。

 隷属の首輪ってのもあるんだそうで、散々痛め付けたらしいな。

 チラリと見たけど痩せてやつれて目は死んでいるわ、服はまともに着てないわ、寄り添って抱き合っているわで、元の面影も無いぐらいだ。


 中の人は他で修練をしているようで、放置は可哀想だろ、クククッ。


 金額を聞いてみると、1人金貨5000枚との事。

 やはり勇者というのを知っていて、マジックボックスだけの値段らしい。

 つまり本人達に価値は見出せず、ボックス料金がそのまま価格になっている有様。


 金貨袋は残り23袋、つまり2300枚しかない。

 全員で1万5000枚など、到底捻出出来ない。

 しかも、奴隷の場合は値切りが利かない実質価格。


 となると、何か商売でもやるしかない。


 あいつらを売った商会に赴き、更なる事情を聞く。

 いきなり串肉の話になるのに辟易したが、銀貨40枚と言ってやると止まる。

 さすがに高いと抜かすから、通常売価は金貨2枚だと言ってやる。

 美味い肉のでかい塊が5つ、貴重な香辛料、1個40枚5個で金貨2枚、これを高いと言うならアンタ、商売に向いてないよと言ってやったのだ。


 喉手なオーラを隠せよ、クククッ。


 半額にしてやると言えば、それで話は進む。

 つまり、肉の塊1つが銀貨20枚で、5つ刺してあるから金貨1枚な訳だ。

 1本で金貨1枚、1万5千本で金貨1万5千枚。


 ほい、出来た。


 端数用の枠に2万本あったから、そのうちの1万5千本で終わった話。

 商会に串肉を1万5千本卸す代わり、あいつらを引き取ってオレに寄こせという契約は成立し、晴れてあいつらは解放。


 されません、残念でした。


 この際だから骨身にしみこませてやろうな。

 しばらく奴隷してろよ、お前ら。

 そのほうが将来的に挫折を感じても、折れない丈夫な樹になるぞ。

 たまに聞くからな、エリートさんが挫折して自殺とか。

 奴隷経験が将来に生きるなら、これも人生経験だ。


 そんな訳であいつらは、しばらく奴隷という名の人生経験を積むことになる。



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