76 合流
翌日、あいつら3人と合流し、それぞれの状況を聞くものの、どうにも哀れな事になっていた。
神殿通いの橋本は、粗末な格好をしてやつれている。
どうやら衣服を金に替えたらしく、そこまで追い詰められていても信仰に縋っているようだった。
もう既に殆ど神殿の下働きみたいになっており、粗末な食事を支給されているとか。
木本と山本は、ゴブリンは何とか狩れるものの、やはり人殺しをしているんじゃないかという観念が消えず、どうにも慣れない様子。
確かに殺せば真っ赤な血を吹いて、何やら叫んで倒れて動かなくなる。
2本足で歩く他の生命など、あちらの世界では人間以外には滅多にお目にかかれない。
だから余計に連想してしまうのか、技量はともかくとしてまずは心が反発するようだった。
なので一計を案じる。
そんなに殺しが嫌なら、無理に殺す事もない。
そいつはオレ達がやってやるから、お前達は町で色々と作業をしてくれと、分担作業を申し出る。
渡りに船と飛び付く3人だが、そいつはオレ達にとっても都合が良い。
人間と一緒に狩ると、うっかり食事風景も見せられない。
それに、隔絶した力とか、見せれば怖がられるだけだ。
そのうち向こうに帰るつもりだが、その時の調整の度合いにも関わる。
そんな人間の根幹に関わる事柄を消す作業に比べたら、オレ達だけが殺しをやっていたって事のほうが簡単だ。
なんせ、負い目になるからな。
オレ達だけに手を汚させていたって言う……
それが普通の人間の感性であり、オレ達と違うにしても見せる事はない。
精々、隠れて辛そうにしていれば、向こうが勝手に罪悪感を負ってくれる。
そしてやらせるのは串肉売りだ。
あの膨大な量の串肉を売らせようと思ったのだ。
もちろん、容器に入ったほうじゃない。
結局、何ページかは容器に入れたものの、先に容器が尽きちまって、まだまだ串肉はあるんだよ。
軽く計算してみたんだけど、さすがに数百年……いや、千年超えてるか……それの集大成ってのは凄まじいな、我ながら。
ざっと11億2千万本の串肉だよ、参ったな。
これでもまだ減らしたほうなんだよな。
世界を出る頃にはもっとあったと思うと、オレ、あの世界で一体何してたんだろうと思うよ。
ハント⇒解体⇒串肉⇒ハント⇒解体⇒串肉
ひたすらこればかりって……
まあ、気分転換のように色々買い物もしはしたが、それでも串肉がメインの生活って、かなーり変だよな。
後、串肉未満の魔物肉も大量にあるんだけど、あれもそのうち串肉にしないといけない。
それはこの世界の魔物との相違が問題なんだけど、どうやら管理の腕前によって味が異なるらしいな。
オレが居た世界はかなりしっかり作られていて、長く長く保たせた挙句の滅亡だったようで、なのでモンスターの肉もあんなに美味いんだとか。
本当の新米が構築した世界とか、美味いはずのドラゴンの肉も、単なるトカゲの味しかしないらしい。
まあ、トカゲとか食った事ないんだけど。
それはともかく、例の長持ち容器のほうに串肉を200本ずつ入れたのを各自に持たせ、それを銀貨5枚で売らせる計画。
値切りに対応し、銀貨2枚までは負けていいが、あんまり負けると給料がそれだけ減るぞとやってやった。
つまり、仕入れ値を銀貨2枚に設定し、銀貨5枚で売るなら単価にして銀貨3枚の儲けだが、銀貨3枚で売るならば1本につき銀貨1枚しか儲からないと。
オレなら銀貨2枚、銅貨50枚ぐらいの薄利多売をやるんだが、果たしてこいつらはどういう結果になるかな。
ミツヤに聞いてみると、2本で銀貨5枚で売りゃ、本数も捌けて儲けになるだろとあっさりと返す。
オレと同じ結論を返すミツヤに対し、他の面々は儲けてやるぞと息巻いている。
どのみちボックスだから腐らないが、それぞれに金貨4枚分の貸付をしたようなもの。
今度はカンパじゃないからちゃんと返してくれよ。
広場での屋台申請も終え、3人は交代で串肉を売る。
1人が呼び込み2人が網に串肉を載せ、パタパタと扇いでみたりしている。
もっとも、既に焼いてある串肉なので、そんな事をする必要は無いんだけどな。
下手にボックスから出すと時間経過で冷めちまうし、古くなると味も落ちるし腐敗もする。
確かに香辛料を使っているから長持ちするが、それにも限度があるから気を付けろよ。
病人なんか出しちまったら、いくら勇者と言えども何らかの罪に問われる事になるだろう。
後な、権力者に注意しろよ。
全て寄こせ、高い負けろ、ボックスを寄こせ、生意気だ、我に仕えろ……街での商売にはこういうトラブルも付いてまわる。
商売などやった事も無いあいつらに、プライドを捨てる事が出来るかが問題だ。
今まで優等生でやって来たのなら、その手のプライドはあるはずであり、頭ごなしに言われたら、反発したい年頃でもある。
それらの難関を乗り越えて、果たして商売がやれるのか?
町での作業なら簡単と高を括っている面々だが、所詮は実社会を知らない青二才。
さあどんな事になるのやら。
まあ、最悪、串肉食ってれば生きてはいける。
1本には塊が5個なので、朝1個、昼2個、夜2個で串1本分。
1日1本で後は安いパンとかでしのげば、宿はオレ達が供給しているんだから生きてはいける。
商売がきついならそうやって、生きていけば宿の期限の半年は生きていける。
カンパの金も残っているだろうしな。
そこで下手に欲を掻き、1人分の宿代の払い戻しを受けて、もっと宿のランクを落とすのはお勧めしない。
そういう宿に泊まる場合、交代で不寝番でもしないと、目覚めたら奴隷になってましたって、悲惨な事になるかも知れないぞ。
今まで苦労知らずの生っちょろい身体だし、そっちの趣味の奴に襲われるかも知れん。
そういう危険を排除するからこそ、普通の宿の料金はそれなりの価格になっている。
それを削る以上、自己責任での防衛は必須になる。
果たしてそこまでの危機管理が出来るかな?
異世界ってのをただのファンタジー世界と考えていると、とんでもない目に遭うだけだ。
世界は変わってもそこで暮らすのは人間だし、人間は他人をすぐに羨み、妬み、貶める。
くれぐれもボックスを見せびらかさんようにしろよな。
屋台の裏でこっそり出すとかして、人に見せないようにしないと、召喚された勇者だとバレちまう。
そうなったら他の国も黙ってないぞ。
精々、誘拐されないように気を付けるんだな。
その意味もあって強くならないといけないから、嫌でも戦いをする意味はここにあるんだが、そんな事には気付けないんだろう。
まあ、陥ってみれば分かるさ。
しかしな、召喚はいいが、お前らどうして王宮に助けを請わん。
戦えないならどうして兵士に教えを請わん。
金が無いならどうして王宮に食事を請わん。
宿代が無いならどうして請わん。
それはプライドだろ?
だからお前達の商売は失敗する。
殿様商売でどこまでやれるか、試してみるといい。
それをするには強さが必要なのを知るといい。
弱者が値を保持して売るなど、あり得ないと言っていい。
高いから値切れと力ずくで言われて、それでも突っぱねられるのはそこに強さがあるからだ。
それを嫌がっての町仕事。
そんな奴らじゃ値は保持できんよ。
大方、10本銀貨1枚ぐらいに値切られて、争いになって捕らえられ、脅されてみんな取り上げられ、奴隷にされて……そんな未来が見えてくるぞ。
まあそうなったら買ってやろうな。




