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さすらいの魔皇子2   作者: 黒田明人
異世界 1年目
76/119

76 合流

 


 翌日、あいつら3人と合流し、それぞれの状況を聞くものの、どうにも哀れな事になっていた。

 神殿通いの橋本は、粗末な格好をしてやつれている。

 どうやら衣服を金に替えたらしく、そこまで追い詰められていても信仰に縋っているようだった。

 もう既に殆ど神殿の下働きみたいになっており、粗末な食事を支給されているとか。

 木本と山本は、ゴブリンは何とか狩れるものの、やはり人殺しをしているんじゃないかという観念が消えず、どうにも慣れない様子。

 確かに殺せば真っ赤な血を吹いて、何やら叫んで倒れて動かなくなる。

 2本足で歩く他の生命など、あちらの世界では人間以外には滅多にお目にかかれない。

 だから余計に連想してしまうのか、技量はともかくとしてまずは心が反発するようだった。


 なので一計を案じる。


 そんなに殺しが嫌なら、無理に殺す事もない。

 そいつはオレ達がやってやるから、お前達は町で色々と作業をしてくれと、分担作業を申し出る。

 渡りに船と飛び付く3人だが、そいつはオレ達にとっても都合が良い。

 人間と一緒に狩ると、うっかり食事風景も見せられない。

 それに、隔絶した力とか、見せれば怖がられるだけだ。

 そのうち向こうに帰るつもりだが、その時の調整の度合いにも関わる。

 そんな人間の根幹に関わる事柄を消す作業に比べたら、オレ達だけが殺しをやっていたって事のほうが簡単だ。


 なんせ、負い目になるからな。


 オレ達だけに手を汚させていたって言う……

 それが普通の人間の感性であり、オレ達と違うにしても見せる事はない。

 精々、隠れて辛そうにしていれば、向こうが勝手に罪悪感を負ってくれる。


 そしてやらせるのは串肉売りだ。


 あの膨大な量の串肉を売らせようと思ったのだ。

 もちろん、容器に入ったほうじゃない。

 結局、何ページかは容器に入れたものの、先に容器が尽きちまって、まだまだ串肉はあるんだよ。

 軽く計算してみたんだけど、さすがに数百年……いや、千年超えてるか……それの集大成ってのは凄まじいな、我ながら。


 ざっと11億2千万本の串肉だよ、参ったな。


 これでもまだ減らしたほうなんだよな。

 世界を出る頃にはもっとあったと思うと、オレ、あの世界で一体何してたんだろうと思うよ。

 ハント⇒解体⇒串肉⇒ハント⇒解体⇒串肉


 ひたすらこればかりって……


 まあ、気分転換のように色々買い物もしはしたが、それでも串肉がメインの生活って、かなーり変だよな。

 後、串肉未満の魔物肉も大量にあるんだけど、あれもそのうち串肉にしないといけない。

 それはこの世界の魔物との相違が問題なんだけど、どうやら管理の腕前によって味が異なるらしいな。

 オレが居た世界はかなりしっかり作られていて、長く長く保たせた挙句の滅亡だったようで、なのでモンスターの肉もあんなに美味いんだとか。

 本当の新米が構築した世界とか、美味いはずのドラゴンの肉も、単なるトカゲの味しかしないらしい。


 まあ、トカゲとか食った事ないんだけど。


 それはともかく、例の長持ち容器のほうに串肉を200本ずつ入れたのを各自に持たせ、それを銀貨5枚で売らせる計画。

 値切りに対応し、銀貨2枚までは負けていいが、あんまり負けると給料がそれだけ減るぞとやってやった。

 つまり、仕入れ値を銀貨2枚に設定し、銀貨5枚で売るなら単価にして銀貨3枚の儲けだが、銀貨3枚で売るならば1本につき銀貨1枚しか儲からないと。

 オレなら銀貨2枚、銅貨50枚ぐらいの薄利多売をやるんだが、果たしてこいつらはどういう結果になるかな。


 ミツヤに聞いてみると、2本で銀貨5枚で売りゃ、本数も捌けて儲けになるだろとあっさりと返す。

 オレと同じ結論を返すミツヤに対し、他の面々は儲けてやるぞと息巻いている。

 どのみちボックスだから腐らないが、それぞれに金貨4枚分の貸付をしたようなもの。


 今度はカンパじゃないからちゃんと返してくれよ。


 広場での屋台申請も終え、3人は交代で串肉を売る。

 1人が呼び込み2人が網に串肉を載せ、パタパタと扇いでみたりしている。

 もっとも、既に焼いてある串肉なので、そんな事をする必要は無いんだけどな。

 下手にボックスから出すと時間経過で冷めちまうし、古くなると味も落ちるし腐敗もする。

 確かに香辛料を使っているから長持ちするが、それにも限度があるから気を付けろよ。

 病人なんか出しちまったら、いくら勇者と言えども何らかの罪に問われる事になるだろう。


 後な、権力者に注意しろよ。


 全て寄こせ、高い負けろ、ボックスを寄こせ、生意気だ、我に仕えろ……街での商売にはこういうトラブルも付いてまわる。

 商売などやった事も無いあいつらに、プライドを捨てる事が出来るかが問題だ。

 今まで優等生でやって来たのなら、その手のプライドはあるはずであり、頭ごなしに言われたら、反発したい年頃でもある。

 それらの難関を乗り越えて、果たして商売がやれるのか?

 町での作業なら簡単と高を括っている面々だが、所詮は実社会を知らない青二才。


 さあどんな事になるのやら。


 まあ、最悪、串肉食ってれば生きてはいける。

 1本には塊が5個なので、朝1個、昼2個、夜2個で串1本分。

 1日1本で後は安いパンとかでしのげば、宿はオレ達が供給しているんだから生きてはいける。

 商売がきついならそうやって、生きていけば宿の期限の半年は生きていける。


 カンパの金も残っているだろうしな。


 そこで下手に欲を掻き、1人分の宿代の払い戻しを受けて、もっと宿のランクを落とすのはお勧めしない。

 そういう宿に泊まる場合、交代で不寝番でもしないと、目覚めたら奴隷になってましたって、悲惨な事になるかも知れないぞ。

 今まで苦労知らずの生っちょろい身体だし、そっちの趣味の奴に襲われるかも知れん。

 そういう危険を排除するからこそ、普通の宿の料金はそれなりの価格になっている。

 それを削る以上、自己責任での防衛は必須になる。


 果たしてそこまでの危機管理が出来るかな?


 異世界ってのをただのファンタジー世界と考えていると、とんでもない目に遭うだけだ。

 世界は変わってもそこで暮らすのは人間だし、人間は他人をすぐに羨み、妬み、貶める。

 くれぐれもボックスを見せびらかさんようにしろよな。

 屋台の裏でこっそり出すとかして、人に見せないようにしないと、召喚された勇者だとバレちまう。

 そうなったら他の国も黙ってないぞ。

 精々、誘拐されないように気を付けるんだな。

 その意味もあって強くならないといけないから、嫌でも戦いをする意味はここにあるんだが、そんな事には気付けないんだろう。


 まあ、陥ってみれば分かるさ。


 しかしな、召喚はいいが、お前らどうして王宮に助けを請わん。

 戦えないならどうして兵士に教えを請わん。

 金が無いならどうして王宮に食事を請わん。

 宿代が無いならどうして請わん。


 それはプライドだろ?


 だからお前達の商売は失敗する。

 殿様商売でどこまでやれるか、試してみるといい。

 それをするには強さが必要なのを知るといい。

 弱者が値を保持して売るなど、あり得ないと言っていい。

 高いから値切れと力ずくで言われて、それでも突っぱねられるのはそこに強さがあるからだ。


 それを嫌がっての町仕事。


 そんな奴らじゃ値は保持できんよ。

 大方、10本銀貨1枚ぐらいに値切られて、争いになって捕らえられ、脅されてみんな取り上げられ、奴隷にされて……そんな未来が見えてくるぞ。


 まあそうなったら買ってやろうな。



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