74 相談
夜になり、あいつに連絡して町外れ。
オレとあいつは共に、精神体で皮の状態……
《かなりの技量だな……所詮は促成栽培さ……それだけでも無さそうだが、まあいい……ちょっと連れてくる前に向こうの様子を聞くぞ……次元持ちならそれも可能ってか……そんなに凄いのねぇ、実感はねぇけどよ……レアなスキルと言われている。オレも欲しかったが、ああ、得ようと思わないとってか……ああ、まあ、連絡してみる……頼むな……分岐する意識で、来い、斉藤さーん……おおお、やるのぅ、おぬし……あ、凄い、通じてる……こちらは提訴の準備が整うておる。後は移動じゃが、やれるのじゃろうの……ちょっとミツヤを鍛えてる。終わったら戻るぞ……ほっほっほっ、余裕じゃの……じゃあ、こっちに誘拐するのは拙いな……うむ、捕縛になるのでの、二度手間になろうの……終わったら全員連れて戻る。待っててね……ほっほっほっ》
よしよし、これで問題はこっちの管理だけか。
山本の中の人……名前は聞かないほうが良いんだろうな。
工作員みたいな任務だろうし、だからこのままでいくしかあるまい。
彼と相談して【誘致】するのは止めにして、しばらく待機になる。
ついでだから修練するらしいが、まあ頑張ってみるといい。
他の奴らの世話も頼んでおき、金貨袋を1つ渡しておく。
《まだあったのか……宝物庫に複数だ……抜け目が無いな……町の有志に貰ったとでも言っておけ……成程、勇者への貢物ってか……ここの管理、少し脅してみるか?……そうだな、話を聞いてみよう。事によると知らない可能性もあるしな……良いか、バックには管理殺しの超越者が控えてて、しかもそいつは初代のお墨付き持ちだと言うんだぞ……お前、他人の為には何でも使うんだな……宣伝は嫌だけど今回はトラブルだろ。そんなの構っていられるかよ……性根は良いんだな、安心したぜ》
むず痒くなったからとっとと戻り、身に潜って精神を癒す。
はぁぁ、もう……さすがに魔法連打は効いたなぁ。
無意識のセッティングと発動、無意識での素材の分類収納、無意識での軌道修正か。
無意識と言うだけで、精神力は消耗してんだから、疲れるのは疲れるんだよな。
けど、かつてはこれをひたすらやってたってのに、相当に鈍っているんだな。
まあそれに耐える身体じゃなかったのもあるんだろうけど、それを差し引いても鈍っているな。
ミツヤが戦いに慣れたら、一緒に数年世界を巡ろうかな。
どのみち、それぐらいの余裕はあるだろうし、無ければ無いで調整ぐらいはしてくれるだろう。
それも無理なら存在を消して、離れた場所でのんびりすればいい。
オレの下が出来るかも知れんのなら、最悪、消えても問題あるまい。
金はもう渡してあるんだし、マンションもくれてやっている。
後は斉藤さんに頼んでおけば、死ぬまで安楽に暮らせるだろう。
ミツヤのほうも3男だし、特に消えてもそこまでの事もあるまい。
共に世界から出る事すらも容易かも知れんな。
まあ、それは帰ってからのお楽しみって事で、今は精神を休めよう。
ああ、本当にこれは、久しぶりの気だるい疲れ……
☆
(ふうっ、かなりやれるようになったけど、何か凄いなこの体力と言うのか。あれを飲んでからかな……基礎体力を上げるって言ってたけど、あれって普通の血じゃないのかよ。そうかも知れないな、だってこんなに力が溢れる感じだし……おっと、よっと、せーの、ほいっと、よーしよし。囲まれてもかなり余裕が出て来たな。よし、飯にするか、と言っても盗賊の事だけどな、くっくっくっ……串肉も美味いけど、これが最高だぜ。これさえ飲んでたら腹も減らねぇし喉も渇かねぇ。だから串肉はあのままボックスでいいや。まあ、水はたまに欲しいけど……んぐんぐんぐ、ぷはぁ。さーて、またやるぜ。ふうっ、いい気持ちだな)
すっかり開き直ったミツヤは、盗賊を少し飲んではボックスに収め、また狩りの後で飲むと言った感じにしていた。
なので盗賊はもう、早く殺してくれとそればかりを願うようになっており、意識が消えたらあっさりと身から離れる。
そうしたらまた次の盗賊の出番となり、ミツヤはそれをひたすら継続する。
飲めば飲む程に元気になり、今ではもう暑さ寒さも苦にならず、疲れも殆ど感じないようになり、連続でひたすら狩れるようになる。
夜は戻って寝るものの、朝から夜までひたすらの狩り。隣で熟睡している奴をチラリと見て、今日も頑張るぜと告げて彼は今日も狩りに行く。
その頃、他のメンバー達は、あくまでも人間ベースでの狩りをやっていた。
いくらかの特典はあるものの、それは単なる魔法の才能に留まり、それも覚えるのが困難とあって、誰も魔法は使えない。
元々、グレムリンやレミングやシルフの関係者達は、工作員の訓練は受けていても、相手がモンスターとなると勝手が違う。
そこらの一般人よりは戦いになりはするものの、近代兵器の無い現代人の彼らには、かなり荷が重い作業になっていた。
それでも何とかレベルを少しずつ上げていき、ゴブリンぐらいなら単独で狩れるようになった頃、他のメンバー達と諍いになる。
獲物の取り合いから始まった諍いは、互いの命を削る戦いに発展し、チャンチャンバラバラが始まっていた。
彼らは気付いていない。
ここが異世界で、怪我すらもそう簡単に治らない世界だという事に。
衛生観念などはなく、簡単に破傷風になってしまう世界だという事に。
そうして、異世界人と比べて、免疫が低いという事に。
争いは一応の決着が付いたが、皆は揃ってけが人状態となる。
巷で薬を買おうと思っても、やたら高いし効くのか効かないのか分からない怪しい薬。
ポーション系はあるものの、疲れを癒す効果しかない。
医者を見つけて治療を頼むも、かなり原始的な治療で嫌気が差す。
しかも、衛生観念が無いから、手などろくに洗わずに治療をされそうになり、抗議しても通じない。
結局、自分達で治療する事になるも、救急用品などは皆無な為、包帯すらも手に入らない。
仕方なくそこらで布を買い、水を買ってそれを洗い、干して切ってとかなり大変そう。
なんせ色々と息巻いているうちに、オレ達のメンバーは消えており、一緒に武器や金も消えたのだ。
だから貧乏スタートな3組は、最初から苦労する羽目になっていた。
雑魚を狩って粗末な食事を得て、何とか1日生きていく。
そんなその日暮らしな生活を余儀なくされ、誰も彼もが召喚した王様を恨むようになる。
そうして遂に王宮になだれ込み、王様を脅そうとして兵達に取り押さえられ、そこで変に暴れたものだから、成敗されてしまったのである。
生き残りはそのまま牢屋に繋がれ、また他のメンバーの生き残りが入ってくる。
そうして数人だけ残った3つのメンバーのなれの果ては、牢屋の中でも争いが始まり、不潔な環境の中で病で全滅した。
元オレ達のメンバーは、あの豪華な宿を出る羽目になり、有志からの金との触れ込みの金貨を当てにして、安い宿で過ごすようになる。
3人に33枚ずつの分配って事になり、1枚で食事を色々買ってそれぞれは別れる。
1人は粗末な宿で神殿通いとなり、毎日毎日帰してくれと祈るようになる。
他の2人もそれをしようと思うが、ゴブリンを何とか狩れるようになりたいとも思い、祈ったり狩ったりを始める。
そうして3つのグループも消え、彼らの生活も1ヶ月が経過しようとしていた。
そんな中、かつてのメンバーを発見する。
背中には何らかの獲物の素材を担ぎ、どこかの建物に入っていく姿。
石田……2人はその後を付け、そこが冒険者ギルドなのを知る。
こんなのあったのかよと、2人は今更ながらにそれを知り、自分達も入るぞと息巻く。
冒険者は初級、下級、中級、上級、最上級と分かれていて、初級は1ランクから10ランクに分かれている。
後は100ランクごとに上のクラスに登れるようになっていて、それぞれに試験をクリアしなくてはならない。
そして初級は討伐依頼を受ける事が出来ず、採集や町の手伝いで上げるしかない。
そうして町やギルドへの貢献を経て、初級試験をクリアして戦える事を証明すれば、晴れて下級になるのである。
どうしてここまで厳しくなっているのかと言えば、殆どの冒険者が町の出身って事もあり、家族が悲しみに暮れるトラブルを嫌い、過保護とも言える措置を要求したせいである。
それでもこの制度の導入後は、トラブルでの死傷者も減り、冒険者を家族に持つ者達は、この制度に感謝しているのだ……それが例え、面倒なシステムだとしても。
それはともかく、2人は初級1ランクにそれぞれ登録し、ミツヤに話しかける。
(おい、久しぶりだけど、狩れてるのか……おう、余裕だぜ……そうなのかよ……今な、おっと、どうだった……あ、はい、認められました……おっし、これで中級だぜ……うっ、もうかよ……彼はオークの群れを退治しましてね。その貢献が認められたのですよ……1人でかよ……あんなの雑魚だろ……マジかよ……金が無いのか……なかなか狩れなくてよ……なら少しカンパしてやるぜ。ほれ、金貨30枚、これでいけるだろ……悪いな。オレ達、あんなに……クラスメイトだろ、それに部員だしよ……悪かった。オレ、あん時、変になってて……オレも、酷い事を言っちまって……また合流するか?……頼む、もうあんな事は言わないから……オレも、謝るから……コージに聞いてみるさ……あいつ、どうなんだ……強いぜ、あいつはよ……戦えるのか……オレの親友舐めんなよな)
カンパの金で2人の装備を整えさせ、干し肉や野宿用品と言った、狩りのあれこれを揃えさせる。
例え初級だと言えども、中級が指導員として随伴するなら、初級でも狩りは出来るようになっている。
そうして戦える事を証言すれば、初級の例え1ランクだとしても、一気に下級に登れるようになっている。
そんな訳で、ミツヤは2人を監督し、ゴブリン相手の戦いを検分する。
少しぬるいと感じたミツヤは、彼らをしばらく鍛える事とし、下級になってからコージと合流って話にする。
それと言うのも、今はあいつはオレを鍛えて、その疲れから眠っているのだと……
☆
ふぁぁぁ、よく寝たな。
オレ、どれだけ寝てた?
ま、まさかまた、数百年……嘘だろぉぉぉ。
「何を1人で騒いでんだ、コージ」




