07 貸金
「コーちゃん、お友達が来ているわよ」
「あれ、どうしたんだ、ミツヤ」
「ちょっと相談があるんだけどよ、部屋に上がっていいか」
「ああ、いいぜ」
ミツヤからの相談、それは今までに無かった相談内容。
オレはこいつとそれだけはやりたくなかったが、こいつはそれをしようとしている。
こういうのはこじれると絶縁にもなる危険な事なので、オレはやりたくはなかったんだ。
だけどミツヤはそれを敢行した。
確かに理由もあった。
家の仕事での赤字、家族の病気、冷たい両親、進学への反対、上の兄弟の学費、その他諸々。
ミツヤは賢いというのに、高校すら進学を許されないとか、今時あり得ないような話。
それどころか小遣いも減らされ、バイトの金は家に入れろと言われる始末。
到底、中学生に要求されるような事じゃない。
どんな親なのかと思うぐらいなんだけど、それでもミツヤは高校を目指している。
その為の資金を貯めている中で、今のままではどうにもならず、親に一時金を貸してのその場しのぎ。
つまり、バイト料を家に入れて今の困窮を助ける事で、後々の高校費用を出させる作戦とか。
だからまとまった金が今あれば、後が楽だからと言われても、どうにもそんな金は作れない。
親もそれを知っての無理難題に近く、見返してやりたいらしい。
そこで見つけた金づるがオレと間違えた事なども話した。
ネトゲの話はサイトで見た情報だったらしく、ゲーセンでの時間が現実を忘れられる時間だったらしい。
勉強はそんなに必死にやらなくてもそれなりの成績だったようで、近所のレストランで皿洗いのアルバイトもやっていたらしい。
学校に内緒でひたすら貯めていたのだが、それが最近バレたとか。
義務教育内の不正就労とか言われて、アルバイトをクビにされたとか。
それで余計に苦しくなって、レース場に行ったんだと。
やれやれ、将来の学費を貯めている苦学生のアルバイトを禁止するとか、青少年保護条例なんてくそったれな条例、貧しい奴はそのまま搾取されろってか。
はぁぁ……仕方が無いな。
「ほい、これを使え」
「郵便貯金かよ……うおおおっ」
「そいつを貸してやる」
「本当に良いのか、コージ」
「高校卒業したら働いて返せよ。オレの結婚資金なんだからよ」
「お前、そんな相手が居るのかよ」
「居たら貸すか」
「うっ、ぷぷっ……」
「煩いな」
ミツヤは何度も礼を言い、オレは激励して送り出した。
さて、ネットバンクの100万と手持ちの20万が現在資金となった訳だが、早急にレースやらないとな。
色々な方法を試した結果、何とか潜り込めた。
単身赴任の父親の名前を借りるのは拙いが、迷惑を掛けなければ問題あるまい。
早速にもネットバンクとの連結をする。
数日で買えるようになるらしく、それから少し稼がせてもらおうと思っている。
そうだな、1千万あればいいか。
特別会員は年額1万円の会員料金が掛かるが、そいつは年齢確認が無いんだ。
メアドとネットバンクの口座だけあればやれるらしい。
ただし、一般会員からの移行しかやれないらしく、そこでオレの名前に名義変更する予定なのだ。
数日借りた親の名義から自分の名義に変えた特別会員。
前日に全レースに1万ずつ投入し、学校が終わって帰ったら確認する。
口座額が2847万になっていた。
いきなり達成だが、ここで調子に乗ってしまう。
翌日のレース予測を立て、全レース100万ずつ投資。
てかさ、あんまり簡単に増えるからさ、つい……やっちまったと言っていいだろう。
ああ、タマゴの消費がでかいし、この精神疲労は堪らない。
入力した後はそのままベッドで朝までぐっすりだ。
親にはお年玉を貯めて買ったと言ったこのPCだが、確かに基本価格は安かったが、色々オプションを付けたのは内緒だ。
レースサイトの履歴を消し、パス付きのフォルダにサイトのURLと会員番号。
パスワードは暗記してあるが、非常用に引き出しの中に覚書を入れてある。
ああこれ、税金が絡むか。
まあ、申告は3月なんだし、それまでに何か考えればいいか。
どっちみち、色々と税金が掛かるなら、この際、もっと稼いでおくべきかも知れないな。
いざ、足りないとか言われるのも嫌だし。
本当にもう、税金なんてものが無ければ、もっと地味にやれるのに。
なんてね。
税務署のせいにしてやれ、クククッ。
実際、面白いのは確かなんだ。
そりゃギャンブルなんだから、過ぎればヤバいけどさ、元々があぶく銭な訳だ。
だから消えちまっても別に惜しくは無い。
まあこのままの調子でやれるなら、確実に増える事にはなるだろう。
だけどそれを表に見せる訳にはいかない。
けど、予測が当たるのは面白い。
いやはや、困ったもんだ。