66 辞退
そのさりげなさを装った、意識の向けようは何だよ。
まるで危険人物みたいに……まあ、連続殺人犯だけどさ。
頼むよ、山本の意識の奥で寝ているお前、連絡しといてくれよ。
佳代さんの意識の奥で寝ている彼女、お願いだよ。
そんな一挙手一投足を監視されると、気が休まらないんだよ。
それはともかく、特待生クラスの特典は以下のとおり。
1 寄宿舎特別室の使用
2 特待生メニューの注文
3 生徒会への優遇勧誘
4 各種試験の受験優遇
5 校外活動での支援優遇
6 進学先への優遇斡旋
7 学長からの会食招待
という訳で、全て辞退する事にした。
だって面倒だし。
そして辞退したのはオレだけであり、他の者達はその恩恵に与ったと、そこまでは良いんだ。
けどな、全て辞退した者に与えられる更なる特典とか、そんな罠みたいなのは止めてくれよ。
生徒で遊んでんのかよ、学長さんよ。
オレと友達になった、同じ特待生クラスの彼。
名前は橋本裕也。
彼の学章は『1-S』なんだけど、オレは『1-SS』になっている。
つまりさ、全て辞退したらこうなったんだ。
そしてさ、その恩恵だけど、ミラサンしてても何も言われないんだ。
オレさ、高校デビューって訳じゃないけど、変な校風に少し嫌気が差して、もう県立に移ろうかと本気で思ってて、なのに何も言われないんだ。
思い切って授業で寝た振りしてみたんだけど、教師も何も言わないんだ。
まさかと思って学長に聞きに行ったんだ。
そうしたら言われたよ。
『欲を断ち切れたのはおぬしで2人目じゃ。見事なり。褒美としてこれからの3年間、大抵の事には目を瞑ろう。犯罪以外は構わぬから、遅刻なり欠席なり、好きにするがよい。まあ、出席日数はクリアすれば、後は何とでもしてやろうぞ、はっはっはっ』
自己中やってんじゃねぇよ。
そんな好き勝手、許される訳無いだろ。
そう思ったんだけど、最初のクリア者は総理経験者とか言われてさ、家が裕福だったからたまたまクリアしただけとか、お前は平民上がりだから余計に偉いとか、時代錯誤な事を色々言った挙句、上流階級から見合いの相手に選ばれるかも知れんとか、将来は政財界に関われるかも知れんとか、なんかもうオレが嫌な事をつらつらとまくしたてられて、本気で転校を考えたんだ。
そして転校したいって言ってやったら、目を丸くしやがって。
そこまでの奴は初めてじゃ……とか、更に気に入ったとかもう、天邪鬼かよこのおっさんって、はぁぁ、もう何とかしてくれよ。
そして今は『1-SSS』オレは車かよっ。
「お前、また隠してんのかよ」
「良いだろ、このAシール。何をしても構わんと言うから、校章に細工も構わんって事だしな、クククッ」
「しっかし、そんな事になってたとはよ」
「もう県立に変わろうぜ。こんな変な学校、将来がヤバそうだぜ」
「まあ、お前がどうしてもと言うならまぁ、そうだなぁ」
「ああ、それ、無理だよ」
「何でだよ、橋本」
「だって受理してくれないよ。特待生クラスの放出とか、あの学長が絶対に許すはずがないよ」
「じゃあ退学だ」
「おい、待てよ、早まるなよ」
「それも受理されないだろうね。だから退学して他にって手も使えない。在学したまま他の高校は無理だからさ」
「横暴だな」
「確かに義務教育は抜けたけど、学生は何かと不自由なものさ。諦めちまいなよ、特待生さんよ」
「木本か、交代しようぜ」
「嫌なこった。オレは一般学生で満足してんだ。そんなクラスとか肩が凝るぜ」
「オレも一般になりてぇ」
「くっくっくっ、残念だったな」
「そういや、部活、もう決めた? 」
「帰宅部」
「あ、くそ、それだけは羨ましいぜ。全員参加の部活、それもフリーなんだろ」
「ご苦労さん、オレは帰宅部ですから」
「あーくそ、そこだけ代わりてぇ」
「ミツヤは何にするんだ」
「魔術研究会」
「何だそれ」
「ああ、あの、オカルトクラブかよ」
「実はよ、だーれも入らないんだってよ。だから部員はオレだけだぜ」
「んじゃ、活動は自由って事かよ」
「まあ、期末に成果みたいなレポート提出は要るけど、特に何をするって訳でも無いらしいな」
「おしっ、オレもそこに入るぞ」
「僕もそうしよっと、くすくす」
「ふん、入ってやる」
「くっくっくっ、決まりだな」
「言い出しっぺが部長だぞ、良いな」
「任せた」
「お任せ」
「はぁぁ、仕方ねぇな」
「ミステリークラブが無かったから決めたんだろ、ミツヤ」
「くそ、廃部になってやがったんだよ。探偵クラブがよ」
「ああそれ、この前の事件で変に関与して、それで潰れたって話だよ」
「くそぅぅ、誰だよ、あの事件起こした奴はぁぁ」
すまん、オレだ。




