64 警告
あれから何度か電話がかかり、そのたびに証言しろとしつこく言われ、嫌だ嫌だと断った。
確かに最初は録音で逃げたけど、それからしつこいぐらいに電話がかかり、煩いから断る事にしたんだ。
そしてもう着信拒否しておいたんだけど、そうしたら代理人とかで、どっかの弁護士みたいな人がやって来た。
その挙句、警告とか抜かしやがって……
「いいかね、君も被害者なら彼らと共に行動をすべきだ。そうしないと主催側と見られて不利になるよ」
「そう思うなら起訴なり何なりしろよ。受けて立ってやるから」
「やれやれ、生兵法はなんとやら。ちょっと言葉がいけるからと、えらくなったつもりかい? そんな頭でっかちじゃ世の中渡っていけないよ」
「くどいな、それにそれは暴言に該当する。言質取られたくないなら言葉には気を付けたほうがいい」
「主催からいくらもらったんだい」
「言い掛かりだ」
「それなら仕方が無いね。君も主催側として起訴の対象になる。折角、いい学校に受かったのに、そんな裁判は致命的だろうね」
「それも脅しと分かっての言葉か? とてもひまわりと天秤には思えんぞ」
「それは侮辱と受け取るよ。追加で起訴になるね」
「さてな、オレは花の名前と計量器具の話をしただけだ。職業の話じゃないから気にするな」
「そんなのが通じればいいけどね。こちらはプロだ、君みたいな素人じゃ太刀打ち出来ないよ」
「そんな事を言っているけど、勝てるよね、斉藤さん」
「無論じゃ。何処の馬の骨かは知らぬが、この斉藤が後ろ盾になるのでの、存分に向かって来るが良い」
ふん、こちらを舐めてアポとか取るから準備されるんだ。
脅したいなら唐突に来て、勢いよくまくし立てないとダメだろ。
大体、こんなマンションに住んでいるのに、もう少し背後関係を調べたらどうなんだ。
それともこれもシナリオの関連で、シルフ以外からの攻撃とかなのか?
オレは関係者じゃないから、混ぜるなと言っているのに懲りない奴らだな。
《これも攻撃かよ……悪い、外国の勢力は制御出来なくてな、何とかしてくれ……消しても良いのかよ……それは困る……じゃあどうしろと言うんだよ……何とか暗示とか使えないのか……はぁぁぁ、仕方が無いな……安定期に入れば好きにしても良いからよ、今だけ堪えてくれ……それはいつだよ……数年で終わるはずだ……数年も耐えるのかよ……悪いが、ここはそういう世界なんでな、どうしても嫌なら他の世界に行ってくれ……何だよそれ、参ったなぁ……頼むな……はいはい》
しゃあないな、まあ、斉藤さんは恐らくそうなんだろうし、ここは大っぴらに……【催眠誘導】
「知っておったのかの」
「知りたくはなかったさ」
「そうか、済まぬの」
「感謝は変わらないよ」
「そうかの」
「これからも頼むね」
「良いのじゃな」
「もちろんさ」
確定か。
けどな、そのほうが斉藤さんも動き易いだろ。
こんな手合い、とっとと調整したいのに、オレが知らなかったらおいそれとはやれない。
それで二の足踏んでたんじゃないのかよ。
ほれ、オレがこいつと周囲を止めたら、一気に何やらやりだして、色が変わる変わる。
いやはや、鮮やかな手腕ってなこの事を言うんだろう。
到底、オレなんかの出る幕じゃないって感じだ。
すっかり相手は怖じていて、ペコペコして小さくなって逃げていく。
ミツヤも他の奴らも眠そうなツラになって、速やかにベッドに潜りに行く。
「鮮やかだな」
「年の功じゃ」
「たった150年の生兵法とは訳が違うな」
「ううむ、たったそれだけかの」
「そりゃ存在開始から数千年だけど、世界内存在だからな」
「それは恐るべき才能じゃて」
「今回のを含め、転生みたいなのは何度かやったけど、最初の2回は人間のまま、3回目に異国の魔族の皇子になって2000年ちょっと。
そこから短期間でうろうろして、変な星に押し込まれて150年、そして現在に至るだ」
「変な星とはあれかの、氷の世界で獣人の星かの」
「あれ、知ってたり? 」
「あれは修練世界じゃからの」
「やっぱりそうなんだな」
「本来はあそこでひたすら毎日を繰り返し、少しずつ上への理解を深めるのが目的じゃな」
「大地にマナを注ぐ係をひたすらやらされて、毎年の記憶の更新で同じ事の繰り返し。オレは【表層】を据えて、その奥底で上に居る存在を特定し、それに対抗する手段を150年間磨いて倒して脱出したんだ」
「あれを倒すのかの。あれは確かに熟練者の表層意識ではあるが、そう簡単に倒せるものではないぞぃ」
「倒して食って情報を獲得した時に、特典を借りたんだ。下の世界体験勝手ってのを」
「それはの、初代の天の帝の約定での、あれに逆らえる者はおらぬのじゃ」
「そんなすげぇ相手かよ、貸してくれた人ってのは」
「今も何処かの世界の片隅で、超越者をやっておるはずじゃ、おぬしのようにの」
「そんなシナリオとかしなくても、世界は世界で続くだろうに。何でそんな事をやるんだ」
「安定度の事もあるがの、それでもそういう慣例になっておっての、誰もが継続を望み、道筋に沿わせようとする。困ったものじゃ」
「あれか。他人より凄い世界にしたくて、自慢する為か」
「ほんに困ったものよの。世界はあるがままに流れるをよしとするのが理想じゃのに」
「芸術家がやりたいなら1人でやってろよって感じだな。人形遊びが好きなのにも困ったもんだ」
「ほんにの」
何でも話してくれるんだな、こんなオレに対して。
つまり信じてくれている訳だ、みだりに他に漏らさないと。
まあその手段もあるんだろうけど、信じてくれる以上、それを裏切りはしないさ。
今だから言えるが、これも特典貸してくれた人の思惑のような気がしてならない。
あちこちの世界で実情を知り、熟練者に導かれて新米に翻弄されて、その対処を知って磨いて至れと言われているような気がした。
それならそれでやるだけだ……与えられた機会は有効に利用させてもらうさ。




