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さすらいの魔皇子2   作者: 黒田明人
中学 卒業式
64/119

64 警告

 


 あれから何度か電話がかかり、そのたびに証言しろとしつこく言われ、嫌だ嫌だと断った。

 確かに最初は録音で逃げたけど、それからしつこいぐらいに電話がかかり、煩いから断る事にしたんだ。

 そしてもう着信拒否しておいたんだけど、そうしたら代理人とかで、どっかの弁護士みたいな人がやって来た。


 その挙句、警告とか抜かしやがって……


「いいかね、君も被害者なら彼らと共に行動をすべきだ。そうしないと主催側と見られて不利になるよ」

「そう思うなら起訴なり何なりしろよ。受けて立ってやるから」

「やれやれ、生兵法はなんとやら。ちょっと言葉がいけるからと、えらくなったつもりかい? そんな頭でっかちじゃ世の中渡っていけないよ」

「くどいな、それにそれは暴言に該当する。言質取られたくないなら言葉には気を付けたほうがいい」

「主催からいくらもらったんだい」

「言い掛かりだ」

「それなら仕方が無いね。君も主催側として起訴の対象になる。折角、いい学校に受かったのに、そんな裁判は致命的だろうね」

「それも脅しと分かっての言葉か? とてもひまわりと天秤には思えんぞ」

「それは侮辱と受け取るよ。追加で起訴になるね」

「さてな、オレは花の名前と計量器具の話をしただけだ。職業の話じゃないから気にするな」

「そんなのが通じればいいけどね。こちらはプロだ、君みたいな素人じゃ太刀打ち出来ないよ」

「そんな事を言っているけど、勝てるよね、斉藤さん」

「無論じゃ。何処の馬の骨かは知らぬが、この斉藤が後ろ盾になるのでの、存分に向かって来るが良い」


 ふん、こちらを舐めてアポとか取るから準備されるんだ。

 脅したいなら唐突に来て、勢いよくまくし立てないとダメだろ。

 大体、こんなマンションに住んでいるのに、もう少し背後関係を調べたらどうなんだ。

 それともこれもシナリオの関連で、シルフ以外からの攻撃とかなのか?

 オレは関係者じゃないから、混ぜるなと言っているのに懲りない奴らだな。


 《これも攻撃かよ……悪い、外国の勢力は制御出来なくてな、何とかしてくれ……消しても良いのかよ……それは困る……じゃあどうしろと言うんだよ……何とか暗示とか使えないのか……はぁぁぁ、仕方が無いな……安定期に入れば好きにしても良いからよ、今だけ堪えてくれ……それはいつだよ……数年で終わるはずだ……数年も耐えるのかよ……悪いが、ここはそういう世界なんでな、どうしても嫌なら他の世界に行ってくれ……何だよそれ、参ったなぁ……頼むな……はいはい》


 しゃあないな、まあ、斉藤さんは恐らくそうなんだろうし、ここは大っぴらに……【催眠スリープ誘導ナビゲート


「知っておったのかの」

「知りたくはなかったさ」

「そうか、済まぬの」

「感謝は変わらないよ」

「そうかの」

「これからも頼むね」

「良いのじゃな」

「もちろんさ」


 確定か。


 けどな、そのほうが斉藤さんも動き易いだろ。

 こんな手合い、とっとと調整したいのに、オレが知らなかったらおいそれとはやれない。

 それで二の足踏んでたんじゃないのかよ。

 ほれ、オレがこいつと周囲を止めたら、一気に何やらやりだして、色が変わる変わる。

 いやはや、鮮やかな手腕ってなこの事を言うんだろう。


 到底、オレなんかの出る幕じゃないって感じだ。


 すっかり相手は怖じていて、ペコペコして小さくなって逃げていく。

 ミツヤも他の奴らも眠そうなツラになって、速やかにベッドに潜りに行く。


「鮮やかだな」

「年の功じゃ」

「たった150年の生兵法とは訳が違うな」

「ううむ、たったそれだけかの」

「そりゃ存在開始から数千年だけど、世界内存在だからな」

「それは恐るべき才能じゃて」

「今回のを含め、転生みたいなのは何度かやったけど、最初の2回は人間のまま、3回目に異国の魔族の皇子になって2000年ちょっと。

 そこから短期間でうろうろして、変な星に押し込まれて150年、そして現在に至るだ」

「変な星とはあれかの、氷の世界で獣人の星かの」

「あれ、知ってたり? 」

「あれは修練世界じゃからの」

「やっぱりそうなんだな」

「本来はあそこでひたすら毎日を繰り返し、少しずつ上への理解を深めるのが目的じゃな」

「大地にマナを注ぐ係をひたすらやらされて、毎年の記憶の更新で同じ事の繰り返し。オレは【表層シェルフェイス】を据えて、その奥底で上に居る存在を特定し、それに対抗する手段を150年間磨いて倒して脱出したんだ」

「あれを倒すのかの。あれは確かに熟練者の表層意識ではあるが、そう簡単に倒せるものではないぞぃ」

「倒して食って情報を獲得した時に、特典を借りたんだ。下の世界体験勝手ってのを」

「それはの、初代の天の帝の約定での、あれに逆らえる者はおらぬのじゃ」

「そんなすげぇ相手かよ、貸してくれた人ってのは」

「今も何処かの世界の片隅で、超越者をやっておるはずじゃ、おぬしのようにの」

「そんなシナリオとかしなくても、世界は世界で続くだろうに。何でそんな事をやるんだ」

「安定度の事もあるがの、それでもそういう慣例になっておっての、誰もが継続を望み、道筋に沿わせようとする。困ったものじゃ」

「あれか。他人より凄い世界にしたくて、自慢する為か」

「ほんに困ったものよの。世界はあるがままに流れるをよしとするのが理想じゃのに」

「芸術家がやりたいなら1人でやってろよって感じだな。人形遊びが好きなのにも困ったもんだ」

「ほんにの」


 何でも話してくれるんだな、こんなオレに対して。

 つまり信じてくれている訳だ、みだりに他に漏らさないと。

 まあその手段もあるんだろうけど、信じてくれる以上、それを裏切りはしないさ。

 今だから言えるが、これも特典貸してくれた人の思惑のような気がしてならない。

 あちこちの世界で実情を知り、熟練者に導かれて新米に翻弄されて、その対処を知って磨いて至れと言われているような気がした。


 それならそれでやるだけだ……与えられた機会は有効に利用させてもらうさ。



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