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さすらいの魔皇子2   作者: 黒田明人
中学 卒業式
63/119

63 通訳

 


 カランカランカラーン


 あんまりミツヤが言うから、つい調子に乗って福引を引いちまったんだ。


      ★


「これ、今日までになってるんだ。なぁ、凄ぇ勘でやってくれよ」

「何それ? 福引? ああ、商店街の。僕、外れのタオルだったよ」

「特等はヨーロッパ2週間の旅とか時間が無いだろ」

「いやな、もうツアーとか組まれていて、入学式までに戻れるんだからよ」

「2名になってるじゃねぇか。誰と誰が行くんだよ」

「当たる心配とか凄いね。ミツヤ君と行っておいでよ、僕は良いから」

「いや、パスポートも無いから無理だろ」

「1ヶ月あれば取れるって聞いたぜ。今が1月末だから、出発は3月。ほら、余裕だろ」

「こんなの当てたら大騒ぎになるだろ。地味にやる計画はどうするんだよ」

「それがよ、親が妙に薦めるんだ。だからこんなにくれてよ」

「うわ、1万円で1枚、10枚で福引券なのに、そんなにも」

「とにかく、5等でも6等でも良いから、当てろ当てろと煩くてよ」

「5等は商店街の割引券、6等はお食事券か。こりゃ地域振興の一環に貢献しろって話じゃないのか? 」

「そんなの自分達でやれよって話でさ、ドドーンと特等狙ってくれよ」


      ★


 真っ青なの見つけてつまんだら、ミツヤがヒョイと掴んでそのまま係員に突き出したんだ。

 それをハサミでチョンチョン切って、傍にあった鐘を持って上下に振ったんだ。


 そしてでかい声で……『大当たりぃぃぃ、おめでとうぉぉぉぉぉ』


 やってくれたな、ミツヤ。


 オレはそいつを避けておこうと思っただけなのに。

 とにかく、薄い青を探そうとして、真っ青なのをより分けていたってのに……参ったな。

 いきなり住所と氏名を聞かれ、係員が役所に走り、出発までにパスポートを取得するって大騒ぎになったんだ。

 胸糞悪いから残りの9枚も、それなりに青いのを引いてやったんだ。

 そうしたら1等2枚、2等2枚、4等5枚になっちまい、思いっきりやっちまったって思ったけどもう遅い。

 仕方が無いから騒ぎを抑えようと、【暗示インプリント誘導ナビゲート】したのは言うまでもない。

 結果、1等の商品券100万円2枚は両親に渡り、2等のフランス料理のフルコースは山本と佳代さんが食べる事になったんだ。

 そして4等の1000円の図書券50枚セットが5つは、参考書やら資料やらにこれから使う事にして、共同資産としてリビングに置いてある。

 まあ、早速、佳代さんが欲しかった色々な資料を買い出しに出かけてたけど。

 うっかり福引も引けないと、あれからもう絶対にやらないと誓ったんだ。


 そして出発は3月中旬、つまりもうじきだ。


 私立合格で家の心証も良くなったとかで、ミツヤが家に呼ばれてアレコレやって、戻って福引で大騒ぎ。

 準備は全て向こうがしてくれるから、オレ達は着の身着のままでも構わないって事になっていたんだ。

 とりあえず着替え最小限で身軽に参加って事にして、必要は現地で買うって話でまとまっていたんだ。

 そうして卒業式も終わり、いよいよオレ達はヨーロッパに旅立つ事になる。

 山本と佳代さんが居残りになるが、そのまま彼氏彼女の関係になってくれたら大歓迎だ。

 アッチの気は気の迷いって事で、ノーマルな恋に目覚めて欲しいと願っている。


 それは良いんだが。


 どうにも新春福引は全国規模でやったらしく、特等になったのが全国で24人になっていた。

 その中にオレ達も混ざったんだけど、オレ達以外は皆大人だ。

 つまり、共通の話題が無いって事で、どうにもオレ達だけであちこち巡る事になりそうだ。

 そして旅は以下の通り。


 1 成田か関空発で現地空港。

 2 そのまま各国を巡る。

 3 列車を多用して移動する。

 4 ホテルに泊まる場合は朝食だけは食わせてやる。

 5 昼と夜の飯は各自で食え。

 6 日程は全て自由行動だから、好きに見て回れ。

 7 最終日は航空機の中で眠れ。


 これ酷いだろ。


 朝食は13回あるのに、昼食も夕食も0回なんだぜ。

 しかも添乗員は付くらしいけど、言葉がどうなのかは全く不明だ。

 現地で合流らしいけど、こっちからは各自で行くしかないってどうなってんだ。

 合流するまでの言葉は誰が面倒を見るんだ。

 まだオレはいいよ、語学が趣味だから。

 ミツヤも英語はいけても他の言語は無理だ。

 確かに空港までの送りはやってくれるらしいけど、航空機に乗ったら最後、後は自分の判断で動かなくてはならない。


 普通、ツアーってそんなもんじゃないだろ。


 しかも途中で止められないらしく、今更嫌と言っても困ると言われ、オレ達は半ば無理矢理に機上の人となったんだ。

 まだその時は良かったよ。

 ミツヤも英会話の腕試しか何か知らんけど、アテンダントさんと何やら会話してたし。

 問題は現地に着いてからだ。

 オレ達はそれらしき人を見つけたんだけど、この人のオーラの色が変なんだ。

 確かにツアー主催の旗の下に行って、ベテランの通訳で4カ国語いけるから安心ですよと、ここまでは日本語だったんだ。

 そしてもうじき通訳さんが来るから、後はその人の指示に従ってくれれば良いからと、にこやかに彼女は去って行ったんだ。

 確かに顔はにこやかだったけど、オーラは黄色くて、少し赤が混ざってた。


 だからその通訳が心配だったんだ。


 そのうちに他のメンバーもさっきの彼女に連れて来られ、ここに通訳が来るからその人が案内もしてくれる。

 だから困ったら彼と相談して決めてくれと、またしてもにこやかに赤混ざりの黄色いオーラのまま去っていったんだ。

 それとなくオレは聞いたよ、貴方達はこちらの言葉をどれだけ喋れますかって。


 その結果は無残なものだった。


 オレとミツヤを省き、英語5人、ドイツ語カタコト1人、フランス語カタコト1人……日本語オンリー残り。

 これでやって来た通訳が日本語が喋れず、4カ国の言葉がイタリア語・フランス語・スペイン語・ロシア語って人選間違えてるだろ。

 せめて英語は喋れる人材にしろよ。

 だもんで英語の人も全滅で、フランス語のカタコトの人は本当にカタコトで意味は通じず、全員の視線はオレに注がれたんだ。

 だってオレ、その通訳さんと流暢に会話し、彼の言語能力とか色々聞いてたからさ。


 そして始まったんだ、オレの通訳が。


 確かに彼は色々と情報も持っていて、あれやこれやと説明はしてくれる。

 それをオレが彼の横で日本語にしていくんだ。

 皆は珍しい風景や面白そうな景色を楽しんで、あれは何か、これはどういう意味かと聞いてくるんだ。

 それを通訳さんに聞いて、また日本語で解説をする。


 そんなのをひたすらやって楽しめるかよっ、くそぅぅぅ。


 まあ、お陰で各地の情報にも詳しくなりはしたが、オレはツアコンになりたい訳じゃねぇぇ。

 旅行に来たってのに何でツアコンの真似をせにゃならんのだ。

 おまけに通訳にはひたすら勧誘されまくるし、だからツアコンにはならんと言ってるだろ。

 大体、自由行動だらけなのに、通訳さんの後をぞろぞろ付いて回るもんだから、オレも休める暇も無い。

 好き勝手に見て回れってツアーなのに、誰も好き勝手に見て回らないんだよ。

 だから通訳も仕方なくあれこれ説明はするけど、それを全て日本語にしているのはオレだ。


 大体彼、通訳がメインで案内人じゃないらしい。


 ツアコンが本当は付くらしいんだけど、予算の都合でカットされたらしい。

 酷い話もあったもんだと、さっきから通訳とあれこれ愚痴の言い合いになっていて……

 彼もこんな代理店との契約を打ち切りたいって愚痴り、それなら日本語覚えたら日本での仕事に苦労しないぞと言ってみたり。

 覚えたら仕事を紹介してくれるかとか聞かれ、勢いのままに任せておけと答えてみたり。

 なんかもう投げやりになっていて、案内も適当なものとなっていき、オレも適当にアレンジ加えて変な案内になっていた。


 そしてツアーの面々も訴えてやるとか息巻いていて。


 まあ、タダでの旅行だからと、大半は諦め顔だったけど、オレが一番損じゃねぇかよ。

 そのオレが我慢してるのに、訴える? 好きにしろよ。

 オレはもう縁切りしたいぐらいなんだし、起訴とかやる気も全く無い。

 協力はしないから自力で通訳と交渉して起訴なり何なりの証拠集めしろよな。

 だから息巻いている奴らの話を通訳には全くまともに伝えてない。

 本人達は帰国後、彼を証人にするつもりらしいけど、彼はただの愚痴だと思っている。

 連絡先もわざと間違えて伝えたから、それでオレに何か言うならその時は真剣に反訴してやろう。

 大体、同じ旅の身分で、オレにだけ苦労をさせておき、勝手にそんな事を決めてオレに余計な事をさせる。


 そんな権利、あるのかよ、あんたらに。


 だから旅の事以外は適当に流し、何とか旅は終わりに近付いた。

 最終日の直前、やっと空港に到着し、通訳と共にお疲れさんの応酬となり、途中で両替した現地通貨を渡し、激励して別れたんだ。

 そしてそのまま機上の人となり、オレ達は日本に帰国した。


 その翌日、ツアーの起訴組から電話が入ったけど、オレの返事は決まっていた。


 スイッチオン。


『おかけになった電話は、電波の届かない場所にあるか、電源が入っていない為、かかりません。もう一度番号をご確認のうえ……』


 ツーツーツー


 知るかってんだ。



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