61 符丁
さて、あれが善なる存在と仮定して、それが望む事は何だろう。
波乱は望まないとなると、求めるものは平穏か。
つまり、世の中が平穏なら良いって事だよな。
世は全て事も無く平穏であって欲しい、なんて思ってんじゃないのかな。
「ミツヤよ、お前の求める事はなんだ」
「え、いきなりなんだよ」
「山本はどうだ」
「え? 夕食の事? 」
「佳代さんどうかな」
「え? アタシはえへへへへぇ」
「オレはな、世は全て事もなく、平穏であって欲しい」
うおおお、真っ赤に染まりやがった。
まさかこれって合言葉か何かかよ。
しかもあのヤバい奴とのそれだとすると、いかん、これはマズった。
「あれ、どうしたの? 2人共」
「緊急規定」
「対象拘束」
流せ流せ……くそ、拙い……混合版の……【魔反】はふうっ。
「まさか、返されるとはね」
「済まん、推測がヤバい筋だったようだ。他意は無いんだ」
「けど、知ってたって事だよね」
「それは分かるさ。存在開始して既に数千年だし」
「まさかそこまでとは」
「後な、特権を借りている。下の世界体験勝手、聞いた事無いか」
「うっ、そ、それは」
「ミツヤの時間、止めてんのか」
「部外者だからな」
「世界内存在だからだろ」
「そうとも言うな」
「佳代さんは仲間か」
「知ってたのね」
「腐女子を名乗るのも良いが、もうちょっと色気に反応してくれよ。そんなオシベを見るようにされてもな」
「色々甘かったみたいね」
「さっきの台詞は単に、あの人が善なる存在なら何を望むか、ってのを想像しただけだ」
「接触したのか、あの方に」
「とてつもない存在感を感じたよ。恐らく本気になったらオレは、一瞬で消滅させられるとね」
「それは合ってるな」
「ねぇ、ホントに管理潰したの? 」
「本当だ」
「何かされたからよね」
「色々とな」
「つまり、上からのちょっかいでの反撃になるのね」
「何も無いのにいきなり攻撃とかするかよ。当時、オレは管理って名前すら知らなかったんだから」
「知らしめようとして、反撃受けて消し飛んで、情報取られて散々な管理ってか」
「まあ、新米ならそんなもんでしょ」
「あれで新米かよ。倒すのに相当苦労したってのに」
「いやぁ、普通は超越者が倒すとか無理だから」
「つまりこの世界には通報者が居るんだな」
「気付けないでしょ、アタシ達より熟練だからさ」
「気付きたくない相手なら居るぞ」
「え、まさか」
「立ち位置で分かるだろ。シルフとオレの両方に関係しているのはたった1人だ。ただ、気付きたくは無いがな」
「そうか、そう言う事なら問題はあるまい。オレはこのまま潜って眠るが、お前はどうする」
「そうね、アタシも最近連続だから、ここで休暇にするわ」
「そういうのは役得になるのか」
「そうとも言えるし、保険とも言える」
「まあ、サボりみたいなものよ」
「それが許される職場か」
「興味があるなら後々ね」
「ああ、もっともっと熟練した後だな。こんなビギナーじゃ足手まといだろうし、せめて勧誘されるぐらいは力を付けんといかんだろうな」
「資格はありそうだがな」
「とにかく、あの台詞はただの推測だから、別に合言葉を知ってる訳じゃないから安心してくれ」
「いや、だから、もう遅いって」
「お前、それ、肯定してるぞ」
「あ……でも、どっちみち」
「心配無いさ。重要なら外に出す気は無い。てかこれ、ただの符丁だろ、仲間か敵かの」
「御自らお決めになられた符丁だからな、特別にして至高なのだよ」
「それであんな顕著な反応か、それは逆に貶めてないか。もっと普通に流さんと、宣伝しているのと同じだぞ」
「言われちゃったわね」
「ああ、まだ浅いか」
こりゃまたとんでもないな。
その成熟度たるや、そこらの人間の比じゃねぇな。
オレみたいな半端者の言でも、簡単に認めやがる。
こんなのがあの存在の手下なら、ますます逆らう気にならんな。
その理由も無い訳だし。
やれやれ、参ったな。
この件はオレもフタをしとこう。
そうしないと体験がますますつまらなくなる。
斉藤さんにも普通に相対出来なくなりそうだしな。
それは困るからフタだ。
さて、寝るか。




