60 観察
結局、校門を出る前にあいつらは軒並み捕縛に至る。
それと言うのも顧問のほうに音声が流れ、それに従って通報になったからだ。
スイッチを切るのを忘れていたオレのミスだが、やっちまったものは仕方が無い。
素直に諦めて帰宅した。
しかし、帰宅しなかった者達がいる。
それはかつて【暗示誘導】を食らった者達の事である。
彼らはまさに誘導されるように繁華街に赴き、そのまま服を脱いでいく。
男も女も同じように脱ぐので、そこらで派手な騒ぎになっていた。
そうして始まる路上大乱交。
ヤの付く自由業の方たちは、それに乗じて参加する始末。
すっかり三つ巴の乱交となり、機動隊まで出動しての大捕り物になっていた。
就職内定や進学が決まっていた者達は、軒並み取り消しとなるばかりでなく、その将来は暗い。
気付いても自分がそんな事をやらかした記憶は無く、従って反省の色は全く見えない事になる。
彼氏彼女の未来がどうなるかなんて、そんな事はどうでもいい。
そもそも、もう忘れているのだから。
「たらいも」
「ここに本当に? 」
「ああ、家賃無し、家庭教師だけ」
「じゃあ、実利ってこれの事とか」
「学費とか生活費とか色々な」
「それも凄い話だね」
「あ、佳代さん、口座作れた? 」
「ネトギンね、ちゃんとあれも入会したから」
「クンカクンカしても良いからな、オレのパンツ」
「うへへへへぇ」
「コージはそういうの平気なのかよ」
「別に気にならん。たっぷり堪能してくれ」
「はぁぁ、それが最高の報酬よ」
「風呂上りはバスタオル1枚でうろつくからな、好きにスケッチでも鑑賞でもしてくれ」
「わお、やったね」
「僕も良いからね」
「あわわわ、いいねいいね」
「うぐ、オレもカマワンッ」
「ミツヤ、無理してないか、カタコトになってるぞ」
「恥ずかしくないのかよ」
「いやな、オレ、家で素っ裸で寝る事もあってな。だから取り繕ってもきっと、竿とか見られると思うんだ」
「うへへへへぇ」
「そのキモい笑いをやめろよ」
「良いさ、別に。ツラと名前を変えてくれるなら、薄い本のモデルにでも何にでもなってやるさ」
「わお、理解あるね。おねーさんは嬉しいわよ」
「ミツヤ、風呂上りに絡みのモデルやるか」
「マジかよ」
「やってやって、スケッチするから」
「晩飯が豪華ならな」
「うん、交換条件ね。バッチリ仕上げてあげるから、期待してるわよ」
「成程、そういう訳かい」
「ああ、美味い飯が食いたいなら、身体で払え」
「うんうん、この方式、大賛成。腕によりをかけてご馳走を作るからさ」
「ちなみに何もしないとお茶漬けになるぞ、ミツヤ」
「いえ、おかゆぐらいは作るわよ」
「くそぅ、やってやる、やってやるとも」
「楽しそうだね、そういうのも」
「今しかやれない事だろ。おっさんが3人とか、キモいだけだ」
「あはははは、確かにね」
そしてこれからここで過ごす事になる。
個室はそれぞれに決め、リビングは基本的に下着でうろつく事を推奨とする。
つまり、オレ達が肌を露出する事で食事の待遇が良くなると。
オレは風呂上りに何も付けずにうろうろし、早速スケッチが始まった。
「うげ、お前、パンツぐらい履けよ」
「オレは風呂上りは大抵これだぞ」
「マジかよ、しかもでけぇし」
「それは関係無いだろ。それとも使って欲しいか? 」
「いいねいいね、そーいう会話、気分出るわぁ」
「ミツヤ、風呂入れよ。何ならオレが背中洗ってやるぞ」
「1人で入る」
「出たら絡みするぞ、今夜はすき焼きらしいから」
「してくれたら国産牛肉、しないなら輸入牛肉」
「うぐぐぐ」
「オレは山本と国産を食う」
「あいつも承知したのかよ」
「肩を組むぐらいなら構わんとよ」
「それぐらいならオレも」
「そのうち、キャビアを自前で用意してもらうぞ」
「え、え、え、それってちなみに? 」
「ディープが見たいならご馳走しろ」
「うわぁぁぁぁ、ゾクゾクするわぁぁぁ」
「フルコースを作る自信があるなら、ミツヤを口でイカせてやろう」
「ゴクリ、ううううう」
「お前、もしかして男色の気が無いか? 」
「その程度の事でおたつくのか、情けねぇぞ、ミツヤ」
「しかしよ」
「オレはミツヤこそ、病み付きになりそうで怖いんだけどな」
「なるかよ、そんな事」
「ミツヤの貞操を賭けても良いが、オレはそれが心配なんだ」
「変な事を言うなよな」
あれも恐らく違う味がするはずだ。
だからな、それを知ってお前がどうなるかが問題なんだ。
血液よりは難易度が低いからな、そっちに走らない保障は無いんだよ。
オレは既に割り切ってるが、ミツヤは果たして別の種族と割り切れるか。
山本は心配無い。
あいつは既に割り切っている。
そうだよな、上の存在さんよ。
あいつは元々、あんな雰囲気じゃなかった。
なのに最近、そうなった。
つまり、憑依か何かをしたって事で、オレに対するアクションと思った。
だから水を向けた結果、話に乗ってきた。
必要があるからそうしたんだろうし、それは超越者の監視任務。
推測ではあの敵わない相手の手先の可能性が高い。
またぞろ管理を消されては敵わんと、監視が付いたって事だろう。
まあ、向こうが何も言わないって事は、言って欲しくないって事でもある。
必要が無ければオレもとぼけているし、あれば通信で何とかなる。
手の内に入っても当たり前に過ごすって事は、それだけの腕前があるって事だ。
そんなの相手にこちらからアプローチを掛けるのは、そりゃ無謀ってもんだ。
更に言うなら佳代さんもちょっとな。
腐女子って触れ込みは良いが、色が無さ過ぎるんだよな。
いかにガキでも男の裸を見てその反応は、さすがに人間の女じゃないだろ。
2人の間で通信でもやってんのか、たまに色が変化するんだよな。
しかも共に黄色のマダラと来たもんだ。
そりゃ疑惑を持つなというのが無理ってもんだ。
表面はにこやかに、なのにオーラは黄色。
なのに話に乗ってくるとなると、何かの思惑でしかない。
まあこういう思考は【表層】の底じゃないとバレるだろうけどな。
仮想人格はミツヤとじゃれてるが、底ではこうやって検証をしているのさ。
こういうのはあの星で散々やったんだし、たった150年の研鑽でもこれぐらいはやれる。
だからあんまり舐めるなよな。




