59 卒業
調子っ外れの表現に、誤字っぽいのを使いました。
「あの恒例の歌、英語で歌うとか」
「うっく、あれをかよ」
「良いかもね」
「歌えるのかよ、山本」
「うーん、何とかかな」
「オレは歌えるぞ」
「ダメだ、歌うな」
「青ゲバ糖と死、和菓子の恩、押し絵の二羽煮も刃や逝く戸背」
「歌うなと言ってるだろ」
「何でだよ、前にも止めて」
「お前の歌は有害だ」
「くすくす、確かに音程がおかしいね」
「ソングウェポンだろ」
「そう言われればそうかも」
【吸収】しながら歌うからだろうけど、気分が乗るんだよな。
その分、周囲の奴らの気分は低下するだろうけど。
多分、観光バスで歌ったら、オレ以外はバス酔いになるかもな。
けどなぁ、あれを攻撃スキルと言われるとさすがに凹むぞ。
「よし、あの訴え女の結婚式で歌ってやろう」
「可哀想だろ、止めてやれよ」
「まあ、機会があるかどうか分からんけどな」
「酷い……それも訴えてやるわ」
「お前、被害妄想が過ぎないか。入試の事もだけど」
「親戚の人に相談して、もうじき裁判になるわ。覚悟しとくのね」
「おいおい、やっちまったのかよ」
「そいつ、もうじき捕まるから」
「証拠も無いのによくやるぜ」
【もしもし、青山です。あ、斉藤さん、ああ、来ましたか、はい、対応お願いします。はい? ええ、もちろん対抗です。最高裁まで争いますよ。いえね。今ここに居るんですけど、凄い鼻息でしてね、反省の色も無いのでとことんです。はい、うん、その口座からよろしく。はい、では】
「今、うちの顧問からな、検察の話が来てな、反訴する事になったから、最高裁までよろしくな」
「何よそれ」
「言っただろ、検察動かしたらうちの顧問弁護士が反撃すると。勝てると思うなら好きにしろ」
「嘘よ、勝てると言ったのよ」
「そりゃ正直に言わないからだ。お前の一方的な主観で相談するから、そりゃ勝てると思うだろうが、そんな証拠は何処にも無い。大体な、そんな疑惑、学校側の管理不行き届きと言ってるようなもの。こっちは入試関連の奴らも巻き込んで弁護団を形成するからな、それでも勝てると思うなら好きにすればいい。言っとくが、資金は余裕だからな、示談で終われると思うなよ」
「あーあ、やっちまったな」
「そんな、嘘よ、そんなの嘘よ」
「今更そんな事を言っても遅いさ。実社会の機関を動かしたら、何を言っても遅い。学生気分で調子に乗ったんだろうが、社会は甘くない。精々、前科持ちにならんようにしろよ」
「覚えてなさい、後悔させてやるから」
「そいつは恐喝だな。罪が重くなるぞ」
「ふん、そんなの誰も言ってない」
「それが学生気分と言うんだ。オレはお前との会話は全て録音済みだ。だからそいつも証拠として提出する」
「そ、そんなハッタリ、あるはずがないわ」
「今も録音してんのか」
「一般会話は問題無いさ。後は田口の苛めの会話とかもあるし、徳本の罵詈雑言も録音している。他にも今まで苛めた奴らの会話は全て録音してあるから、卒業後にゆっくりと起訴していこうと思っている。高校に入っていきなり裁判になって、退学になっても自業自得だ。オレはやられたままで放置するつもりは無いんでな、やった奴ら、覚悟しとけよ」
「てめぇ……そんな事をしてやがったのかよ」
「この野郎、そんな事を許すと思うなよ」
「生きて出られると思うなよ」
「ああ、殺してやる」
「おい、青山を生きて学校から出すな」
「おう、殺してやるぜ」
「おい、お前ら、正気かよ」
「また録音が増えたな。今度は殺人予告に共同正犯に色々だ」
「ふん、そんなの殺した後で証拠隠滅するだけだ」
「悪いがそいつは無理だ。送信しているからな、顧問弁護士のパソコンに。だから殺すならうちの顧問ごとだ。弁護士に手を出したらもう、どうにもならんぞ」
「そんなハッタリ効くと思うな。学校を出たらお前の最後だ。卒業しても家に帰れると思うなよ」
ああ、獲物が大量だ、嬉しいねぇ、クククッ。
殺人予告と共同正犯は合計7人となり、卒業式の後で殺すと予告。
オレは平気なツラで式に臨もうとするが、周囲の奴らは気が気じゃない様子。
「お前、どうするんだよ」
「え? 何が? 」
「あいつらだよ、ヤバいだろ、あんなの」
「そうかなぁ、大した事無いだろ。あんなの言うだけさ」
「警察に通報したらどうだよ」
「オレ、警察、嫌いなんだ」
「好き嫌いの問題じゃないだろ」
「いや、だからな、警察は、オレも、そのな、つまりな」
くそぅぅ、オレは連続殺人と言えないのが辛い。
だから警察と関わりたくないってのに、分かってくれそうにない。
参ったなぁ、ちょっと【暗示】で突いただけなのに、潜在的に色々思ってたみたいだな。
放置してたら半殺しになると思ったから、ちょっと欲望を解放させてみただけなのに。
あれで是が非でも殺すつもりになってくれてるし、あれでもう言い逃れは利かない。
半殺しじゃ傷害で止まるけど、殺人予告はそうはいかん。
しっかりと少年院に入ってもらわないと、後々生活の邪魔になるのは困るんだよ。
少年院の中なら突然死しても、オレのせいじゃないだろ、クククッ。
ああ、楽しみだねぇ。
ちゃんと少年院に入ったら、深夜に訪問してやるから、たっぷりと楽しませてくれよ、クククッ。
ご機嫌で式に臨み、元気に歌おうとしてミツヤに口を抑えられながらも式は終わる。
「また歌えなかった、仰げば尊し」
「だからお前の歌はヤバいんだって」
「そんな事より、どうするの? 彼ら、本気みたいだよ」
「うん、返り討ち」
「それも本気なのかい」
「伊達に毎朝、5時に起きてトレーニングしてないよ」
「うわぁ、君って色々と対策が凄いんだね」
「義務教育の間は、色々と肩身が狭いけど、卒業したらもう自由だ。だからずっと我慢していたんだよ」
「じゃあ、後で下宿の件、頼むね」
「今夜、ミツヤ、セッティング頼む」
「お前は対決かよ」
「ヤリ過ぎないように気を付けないとな。うっかり殺したら大変だ」
「お前、色々と猫被ってたんだな」
「ミツヤの先輩の件とかか」
「そういやあれっ切りだけどな」
「今頃、東京湾に沈んでないか? 」
「うへぇ、マジかよ」
「お前を先に帰してな、オレは金持ってバッくれたんだ。だからあいつが責任を取らされたら、どうしてもそう言う事になるだろ」
「マジかぁ」
「あの時、オレは変装してたけど、ミツヤはどうだった? 」
「変装? そんな事してたのかよ」
「用意は周到だぜ」
「ヤベェ」
「クククッ」
「大変そうな話だね」
「ああ、裏の博打の話」
「うわぁ、だから警察が嫌いなんだね」
「ミツヤと一緒に競輪とか」
「うっく」
「意外や意外って感じでもないけど、興味なのかな」
「いや、実利さ」
「そうなのかい」
「とにかく、ミツヤ、下宿の件、進めてくれ」
「ほいきた」
「さあ、オレは今から運動だ。たまには運動もしないとな」
「知りたいような、知りたくないような」
「さあ、やりまっかいな。ほな、また後でな」
「どうにも心配無さそうなのが逆に怖いね」
「クククッ、素人には手ェは出さへんでな、心配はいらへん」
さてさて、どんな手合いになっているのやら。
おーおー、校門に7人揃って息巻いてますな。
お前らなぁ、周囲の奴ら、脅してんじゃねぇよ。
通報されるだろうが。
頼むからオレを刺す前に補導されるんじゃねぇぞ。
今日は特製の【偽装】やってんだからよ。
ちゃんと刺したら真っ赤な液体を【倉庫】から出してぶちまける準備もしてんだ。
なのに……あーあ、サイレンの音が……誰だよ、余計な事しやがって。
オレの準備がぁぁ……参ったなぁ。




