48 元旦
新幹線は静岡まで、走り出せばそこまで時間は掛からない。
それは良いのだが、貧乏旅行で初日の出ってよ、最初から日程越えのつもりかよ。
あれで年末に帰ってたらこいつ、どうするつもりだったんだろう。
「なあ、ミツヤ」
「何、コージ」
「日程が延びなかったらどうするつもりだったんだ」
「いや、あはは、まぁ、深夜喫茶とかあるだろ」
「大晦日にそれは侘しいな」
「仕方無いだろ、うちの親、本当に色々と煩くてよ」
「オレのせいか」
「いや、そうじゃねぇよ」
「偏差値45のオレと付き合うなとか、言われてねぇか? 」
「いや、だからな、オレはお前とつるみてぇんだ。そんなのに親とか関係あるかよ」
「そうか、それで言えなかったんだな。オレと旅行って話が」
「義務教育終わったらもういいからよ、オレは家を出る予定だ」
「そうか、それならオレと一緒に学生マンション暮らしだな」
「うえっ、いーのかよ」
「実はな、地元の高校になっても、独り暮らしがしてみたいと既に親に打診済みだ」
「そんなら……」
「何処のガッコになっても、マンションは確定や」
「やったぜぇ、これであの家ともおさらばだぜ」
「そんなに堅苦しいのか」
「そういやお前、知らなかったんだな。うちの家さ、旧家とか言われてよ、昔はあの辺りの地主とかで、だから色々としきたりとか煩くてよ」
「だから転校して来たオレとか」
「はぁぁ、もう時効だろ。だから許してくれよ、なぁ」
「身分とかあったのか」
「時代錯誤だけどな、だから言葉遣いとかも煩くてよ、そんなのの無いお前が気楽でよ」
「上に居るのか」
「3男だから家は関係無い。だから中学出たら好きにしても良いって言われてんだ」
「働きながら高校のつもりだったのかよ」
「そのつもりでバイト先も色々とな。夜なら割りも良いし」
「そんなんパスや。ワイが全部面倒見たる」
「本当に良いんだな」
「心配すな」
「済まんな、コージ」
飛び込み年末での旅館はなかなかに苦労したが、金さえ出せばそれもクリア。
ここでも顧問弁護士が活躍し、オレ達はなかなかに上等な部屋に宿泊。
斉藤さんには悪いけど、彼のケータイ番号はまさに、オレ達にとっては福音にも等しい。
だから諦めて、また連絡が来るのを待ってて欲しい。
「サービス価格って、くっくっくっ」
「斉藤さんに感謝やな」
「顧問弁護士マジ便利だな」
「将来、斉藤さんに弟子入りして、司法修習生だな」
「そうか、その手があるか」
「高校出たら大学行くか? 行くなら修習生しながら通えば良いぞ」
「その前にお前の稼ぎが知りたいぜ」
「まあ、マンション暮らしになってからやな」
「どうにも想像を超えている気がしてるんだがよ」
「オレもな、とまどった挙句に弁護士事務所だ。万や億なら自前で処理してたさ」
「うっく、マジかよ」
「国債にして残りは税金って言われてな、証書は預かってもらっている。だからあれはもう忘れているんだ」
「そんなにとんでもない事になってたとはな、全然気付かなかったぜ」
「運ちゃんも言ってたけど、身の丈を超える金は不幸を招く。だからな、それなりの金のつもりで過ごすんだ。んで、いざって時にはそれでクリアすると」
「そうか、あるからって豪勢にしたらダメって事か」
「そりゃお前は旧家の出だから可能かも知れんが、オレみたいな平民の出ではそんな大金、身に付くはずがないだろ。親にすら内緒にしているのも、親が知ったら仕事とかすぐに止めて依存になると思ったから、少なく申告してるのさ」
「旧家と言っても名前だけだからよ、うちも多分変になっちまうな」
「まあ、話はオレが付けてやるから、その辺りは問題無いぞ」
「顧問弁護士最高だな」
「おうよ、難癖付けたら裁判やぁ」
「くっくっくっ」
ここでも口止めのつもりか、料金以上にサービスが良く、オレ達は新年を2人で祝った。
ミツヤは特にウナギに目が無いようで、ウナギ寿司を大量に食っちまい、胸が悪くなって寝ていたり……やれやれ。
いくら好きでもさすがに50貫は、オレも見ていて気分が悪くなったぞ。
あんな脂の多い魚、大量食いは無理だろ、普通。
ああ、もしかしたら身体が求めているのかもな、真っ赤なアレが得られないから。
オレもな、渡すのはすぐなんだけど、今は自覚も無いようだし、飴で何とかして欲しいと思っているんだよ。
自覚さえすれば、後は好きなだけ飲ませてやるから、それまでは飴でなんとかしてくれ。
飴と言っても魔石だけどな。
「初日の出、食い過ぎ寝坊で、見ぬ男」
「うぇぇ、そんな初俳句かよ」
「実際、寝てたろ」
「ウナギ食い過ぎて胸焼けがよぅ」
「飴まだあるか? 」
「実はもう無い」
「ほれ、お代わりや」
「持って来てたのか、助かったぜ」
「好きに食え、遠慮するな。まだいくらでもあるからよ」
「なんかよ、これ食うと元気が出るって言うかよ、だからありがたいぜ」
「好きなだけ食え。まだまだ呆れる程にあるからよ」
「何処で買うんだこんなの、見た事無いぞ」
「そりゃミツヤの小遣いじゃ無理だからだろ」
「それも大金の恩恵ってか」
「入手先は気にするな」
「材料が気になるぜ」
「気にしたら負けだ」
「うぇぇ、マジかよ」
「オレも知らん」
恐らく……という事なら分かるけど、詳しく知る気も無いしな。
まあ、モンスターの血液が原料じゃないかって推測だけだ。
それと魔力が関係して生成されるとか、そんな話を聞いた事があるような無いような。
まあどうでもいい話だけどな。
ただな、そいつが無いとうっかり血を舐めて、オレみたいな事になったらヤバいだろ。
血の味を知ったとしても、その飴で止まるなら殺しをしなくて済む。
オレも記憶の無い頃はそれで悩んだんだ。
だからそういう解決策を渡すから、そのままでいろ。
世界を出たら色々教えてやるから、それまではこのままで良いな。




