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さすらいの魔皇子2   作者: 黒田明人
中3 冬休み
48/119

48 元旦

 


 新幹線は静岡まで、走り出せばそこまで時間は掛からない。

 それは良いのだが、貧乏旅行で初日の出ってよ、最初から日程越えのつもりかよ。

 あれで年末に帰ってたらこいつ、どうするつもりだったんだろう。


「なあ、ミツヤ」

「何、コージ」

「日程が延びなかったらどうするつもりだったんだ」

「いや、あはは、まぁ、深夜喫茶とかあるだろ」

「大晦日にそれは侘しいな」

「仕方無いだろ、うちの親、本当に色々と煩くてよ」

「オレのせいか」

「いや、そうじゃねぇよ」

「偏差値45のオレと付き合うなとか、言われてねぇか? 」

「いや、だからな、オレはお前とつるみてぇんだ。そんなのに親とか関係あるかよ」

「そうか、それで言えなかったんだな。オレと旅行って話が」

「義務教育終わったらもういいからよ、オレは家を出る予定だ」

「そうか、それならオレと一緒に学生マンション暮らしだな」

「うえっ、いーのかよ」

「実はな、地元の高校になっても、独り暮らしがしてみたいと既に親に打診済みだ」

「そんなら……」

「何処のガッコになっても、マンションは確定や」

「やったぜぇ、これであの家ともおさらばだぜ」

「そんなに堅苦しいのか」

「そういやお前、知らなかったんだな。うちの家さ、旧家とか言われてよ、昔はあの辺りの地主とかで、だから色々としきたりとか煩くてよ」

「だから転校して来たオレとか」

「はぁぁ、もう時効だろ。だから許してくれよ、なぁ」

「身分とかあったのか」

「時代錯誤だけどな、だから言葉遣いとかも煩くてよ、そんなのの無いお前が気楽でよ」

「上に居るのか」

「3男だから家は関係無い。だから中学出たら好きにしても良いって言われてんだ」

「働きながら高校のつもりだったのかよ」

「そのつもりでバイト先も色々とな。夜なら割りも良いし」

「そんなんパスや。ワイが全部面倒見たる」

「本当に良いんだな」

「心配すな」

「済まんな、コージ」


 飛び込み年末での旅館はなかなかに苦労したが、金さえ出せばそれもクリア。

 ここでも顧問弁護士が活躍し、オレ達はなかなかに上等な部屋に宿泊。

 斉藤さんには悪いけど、彼のケータイ番号はまさに、オレ達にとっては福音にも等しい。

 だから諦めて、また連絡が来るのを待ってて欲しい。


「サービス価格って、くっくっくっ」

「斉藤さんに感謝やな」

「顧問弁護士マジ便利だな」

「将来、斉藤さんに弟子入りして、司法修習生だな」

「そうか、その手があるか」

「高校出たら大学行くか? 行くなら修習生しながら通えば良いぞ」

「その前にお前の稼ぎが知りたいぜ」

「まあ、マンション暮らしになってからやな」

「どうにも想像を超えている気がしてるんだがよ」

「オレもな、とまどった挙句に弁護士事務所だ。万や億なら自前で処理してたさ」

「うっく、マジかよ」

「国債にして残りは税金って言われてな、証書は預かってもらっている。だからあれはもう忘れているんだ」

「そんなにとんでもない事になってたとはな、全然気付かなかったぜ」

「運ちゃんも言ってたけど、身の丈を超える金は不幸を招く。だからな、それなりの金のつもりで過ごすんだ。んで、いざって時にはそれでクリアすると」

「そうか、あるからって豪勢にしたらダメって事か」

「そりゃお前は旧家の出だから可能かも知れんが、オレみたいな平民の出ではそんな大金、身に付くはずがないだろ。親にすら内緒にしているのも、親が知ったら仕事とかすぐに止めて依存になると思ったから、少なく申告してるのさ」

「旧家と言っても名前だけだからよ、うちも多分変になっちまうな」

「まあ、話はオレが付けてやるから、その辺りは問題無いぞ」

「顧問弁護士最高だな」

「おうよ、難癖付けたら裁判やぁ」

「くっくっくっ」


 ここでも口止めのつもりか、料金以上にサービスが良く、オレ達は新年を2人で祝った。

 ミツヤは特にウナギに目が無いようで、ウナギ寿司を大量に食っちまい、胸が悪くなって寝ていたり……やれやれ。

 いくら好きでもさすがに50貫は、オレも見ていて気分が悪くなったぞ。

 あんな脂の多い魚、大量食いは無理だろ、普通。

 ああ、もしかしたら身体が求めているのかもな、真っ赤なアレが得られないから。

 オレもな、渡すのはすぐなんだけど、今は自覚も無いようだし、飴で何とかして欲しいと思っているんだよ。

 自覚さえすれば、後は好きなだけ飲ませてやるから、それまでは飴でなんとかしてくれ。


 飴と言っても魔石だけどな。


「初日の出、食い過ぎ寝坊で、見ぬ男」

「うぇぇ、そんな初俳句かよ」

「実際、寝てたろ」

「ウナギ食い過ぎて胸焼けがよぅ」

「飴まだあるか? 」

「実はもう無い」

「ほれ、お代わりや」

「持って来てたのか、助かったぜ」

「好きに食え、遠慮するな。まだいくらでもあるからよ」

「なんかよ、これ食うと元気が出るって言うかよ、だからありがたいぜ」

「好きなだけ食え。まだまだ呆れる程にあるからよ」

「何処で買うんだこんなの、見た事無いぞ」

「そりゃミツヤの小遣いじゃ無理だからだろ」

「それも大金の恩恵ってか」

「入手先は気にするな」

「材料が気になるぜ」

「気にしたら負けだ」

「うぇぇ、マジかよ」

「オレも知らん」


 恐らく……という事なら分かるけど、詳しく知る気も無いしな。

 まあ、モンスターの血液が原料じゃないかって推測だけだ。

 それと魔力が関係して生成されるとか、そんな話を聞いた事があるような無いような。


 まあどうでもいい話だけどな。


 ただな、そいつが無いとうっかり血を舐めて、オレみたいな事になったらヤバいだろ。

 血の味を知ったとしても、その飴で止まるなら殺しをしなくて済む。

 オレも記憶の無い頃はそれで悩んだんだ。

 だからそういう解決策を渡すから、そのままでいろ。

 世界を出たら色々教えてやるから、それまではこのままで良いな。



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