46 容疑
翌日は元気一杯のミツヤなのだが、やはり発散がよく効いたらしい。
それに……あれで恐らく、アレなんだろうし、クククッ。
「よっ、捨てたな」
「あはは、お互い、やったな」
「ミツヤはそれが狙いやったんやろ」
「まあな、もしかしたらと思ったんだけど、やれて良かったぜ」
「これで高校デビューもやれるやろ」
「くっくっくっ、オレ達はもう違うからよ」
「そこいらの未体験野郎と一緒にすんなってか」
「くっくっくっ」
やはりそうか。
道理で食道楽な割りに、あっさりと夜の街に向かったはずだ。
狙いはそれか……まあ、地元じゃ何かと煩いからなぁ。
さて、朝飯の後は市内観光だけど、昨日の運ちゃんの案内で電気街でも行くか。
「お前、PCで欲しいの何かあるか? 」
「どんだけあるんだよ」
「もうこの際、好きなだけ言え。年末年始、大サービスや」
「ならな、凄いのがあるぜ」
「そいつは100万か? それとも500万か? 」
「マジかよ、そんなにするかよ、38万5800円だ」
「えらい細かい数字やねんな」
「色々と付けた合計金額だけどな、サイトを見るたびにああやって色々やっててよ」
「それを買うんだ、金は出す」
「本気で良いんだな」
「後の専属弁護士、その契約料や」
「うへぇ、マジかぁ」
「頼むで、契約違反は無しやで」
「高校デビュー、どないするんやぁ」
「それはそれ、これはこれや」
「マジかぁぁ」
「くっくっくっ」
オレのも新調しようかな。
メモリは一応拡張したし、HDDは2つだろ。
グラボも最新のにしてあったし、まあ、全部ミツヤの入れ知恵だけど。
オレはどうせ株式投機に使うぐらいだから、どんなのでも関係無いが、こいつが色々言うからそれを真に受けて買ったんだよな。
オレのあのマシン、まともに活用出来てない気が……ううむ。
店は10時開店という事で、運ちゃんの案内で市内観光が先になった。
車窓越しの観光だけど、あちこちに連れてってくれて、あれやこれやと説明を聞く。
オレもミツヤもそれを聞き、改めて運ちゃんの知識と言うか、地元への愛着を知らされる。
景気はやはり下降線のようで、どうにも米国の銀行の倒産が原因とか……それで父さんの会社が……そうなのかよ。
経営方針だけじゃなかったんだなぁと、改めて思わされた。
そんな中の仕手か、そりゃ大騒ぎにもなるわな。
起死回生の一手の中抜きかぁ、悪い事をしたな、クククッ。
しかも、それの補填のような次の仕手。
それも中抜きの予定だけど、頼むからもう何も言って来るなよ。
オレはただのゲームのつもりでやってるんだし……まあ、投資ぐらいならしてやっても良いが、変なちょっかいは困るぞ。
市内観光は順調に進み、いよいよミツヤの気持ちが盛り上がってくる。
時間になるとミツヤは運ちゃんに、店への移動を促してくる。
そうして丸橋電化店とかいう店の前にタクシーを止める。
ミツヤに100万手渡して、好きなのを買って来いと送り出す。
オレ達はここで待機とばかりに、運ちゃんのウンチクを聞く事になる。
始まるのはひいきの野球チームの優勝の頃の大騒ぎの思い出から。
最近の低迷を嘆きながらも、2匹目のドジョウを待ち焦がれている様子。
どうにもリーグのほうでは勝てても、全国ではダメなようで、色々と奥が深いんだなと思わされる。
オレはそういうのに疎いので、神妙にただ聞いているだけだが。
「それにしてもや、ええお年玉貰うたでの」
「それで足、洗えるやろ」
「はは、おう、スッパリ洗うで」
「まあそのうち、サイトやるでの、会員になりゃええ」
「あんなんやるんかいな、騒ぎになるで」
「オレは好き勝手に予想して遊ぶだけ。それを真に受けるのは勝手だけど、偽も混ぜるから心配無い」
「ほうか、混ぜるんやったら問題無いやろ。あんまし当たるばっかりやったら、色々と煩いよってにな」
「特別会員にしたるさかい、後のお楽しみにしたらええ」
「あんまりはええで、身ィ越える金は不幸の元や。まあ、お陰で当分の間は楽になったさかいな」
「名刺あったらくれへん? 」
「おお、そやったな……ほい、これや」
「まあ、困ったら活用すりゃええ」
「おう、そうさせて貰うでな」
「これで名刺は3枚目やな」
「他は誰がおるねん」
「テキヤが2枚や」
「おいおい、そりゃまた……待てよ、テキヤってな、もしかして、けんちゃんかいの」
「トラ頭をけんちゃん呼ばわりとは、度胸やな」
「やっぱりそうかいな。いやの、ワイの親戚やねんけどな」
「どないな親戚や」
「うちの女房の旧姓が大石や」
「あらまぁ」
「はっはっはっ、驚いたか」
「それって逆玉じゃねぇのかよ」
「ははっ、そうかもなぁ」
「神戸の観光もタクシーや」
「そら奇遇やな。いやの、ワイの事を知ってやな、気に入って二種受けた言うての」
「トップの気まぐれと思っていたら違っていたと」
「なんや、すっかり本職みたいになったっちゅうてな、噂は聞いてるでの」
「そのまま堅気でええのにね」
「ホンマやね」
「そういや、あいつ、遅いな」
「そういやそうやな」
「ちょっと見て来るわ」
「トラブルやったら呼びぃ」
「そん時は頼むな」




