44 会食
「今日はゴチになります、オヤッさん」
「おう、任しとかんかい」
「よっ、太っ腹」
「ドンと来んかい。ほな行くで」
結局、配当金を受け取った運ちゃんは、事業所の人に謝礼金1割を渡した後、意気揚々と家族と合流。
オレ達はそのおごりという事で……それと言うのも、謝礼だと本当におごる話になっちまったんだ。
だから後の補填は不要と言われ、オレ達は素直に甘える事になった。
本当は家族水入らずだったが、こういうのも良いかもと娘も満更でも無さそうで、ミツヤに誘導したい気になる。
水族館勤務と言っても今年の春からの新入社員で、高卒だから年も近い。
金のわらじだから特に問題はあるまい。
大体、平均寿命は女のほうが長いんだから、年上の女房にしないと自分が先に逝く事になる。
共に白髪の生えるまでがやりたいなら、目先の欲望は止めておいたほうがいいだろう。
旦那亡き後、海外旅行に遊行三昧って、安楽な老後になるだけだ。
まあ、この国はその手の趣味の人達が多いらしいから、年下を好むらしいがな。
8才ぐらいの平均寿命の差があって、8才年下なら16年の差だ。
自分が死んだ後、16年間の安楽生活をプレゼントするつもりなら何も言わないがな。
なんて事をつらつらと考えているうちに、運ちゃんお勧めと言うか、これは予約かな?
キャンセルする前に助かったとか言ってるが、そんな事ならもっと早く言えよな。
(けど凄いもんやな。ホンマにチョーノーリョクかいな。3レース合計で480万やて、魂消たわ。謝礼50万も魂消たやろけど、これでワイも余裕が出来た。ありがとな……けどなんやな。あんなん見てもうたら、もうレースやる気ィのぅなったわい……ワイが買うても当たる気ィせぇへんさかい、もう止めようかいなぁ……せやね、ええ機会や)
「甘酒で乾杯や」
「うえっ、いーだろ、これぐらい」
「我慢しぃ、後5年や」
「ホンマに15なんやね。見えへんよ」
「仕事持ってるさかいな」
「アルバイトとは違うん? 」
「まあ、似たようなもんかな。ただ、雇い主はおらへんけど」
「え? なして? 」
「株式投機やさかいな」
「はぁぁ、なんや凄いねんなぁ」
「こいつは弁護士志望らしいし、将来の顧問弁護士に期待や」
「そないに賢いんやね」
「うっく、まあ、ぼちぼちや」
「よっ、ゆーとーぜー」
「そこまでじゃねぇよ」
「またまたぁ。偏差値いくつだよ」
「そりゃ80台だけどよ」
「うわぁ、マジ秀才やね」
「オレは45な」
「あらら、大違いやね」
「こいつ、ガッコの勉強せんと、儲けの事ばっかりやってたみたいでさ」
「まあ、勉強はミツヤに任せるさ。オレは稼ぐほうだ」
「顧問弁護士かぁ、遠いぜ」
「頼むぜ、相棒」
「おっしゃ、ちょいと狙ってみるか」
「いよっ、日本一」
「桃太郎かよ」
「あはははっ」
予約の料亭の料理はまずまずで、ミツヤもオレもたっぷりと飲み食い……ミツヤは甘酒、オレはお茶。
「お茶飲みなんやね」
「風味が好きやから」
「抹茶もいけるん? 」
「シャカシャカ、クルクル、結構なお手前でと」
「あら、知ってるのね」
「それなりやな」
「コージ、ちょっとだけ、な」
「将来の弁護士が違反は止めとき」
「あはは、本当にそうだわね」
「正月なら良いよな」
「そういや、延長が可能になったんやけど、ミツヤさえ良いなら正月、どっか行くか? このまま」
「そっちの親、旅行どうなってんねん」
「北陸10日の旅やさかいな、戻るのは4日の夜や」
「そんならな、うちに電話しとくから、どっか行こうや」
「今度は中華街かよ」
「横浜はヤバいぜ」
「そうかなぁ」
「ならよ、静岡にしようぜ」
「そらまた何でや」
「富士山の近くで初日の出とかどうだ」
「ウナギやな」
「うっく」
「あははっ」
和気あいあいと会食は進み、ひとまず運ちゃんと別れてまた明日の朝、ホテルでの待ち合わせになる。
夜遊びは控え目にしろとの忠告は受けるも、ミツヤは既にその気だ。
軽い暗示で荷物は共に【倉庫】の中。
また後で渡してやるから、今は忘れていろ。
あれ、そういや……ミツヤの両親ってどんな奴だっけ?
今ふと気になったが、おっかしいな、どうにも記憶が無いぞ。
まさか本当にアレの関連なのかよ。
そいつは親だけだろうな。
こいつの雰囲気はそんな特殊な感じはしない。
上関連はどうにも雰囲気が違うと言うか……オーラがマダラと言うかストライプと言おうか……だから違うはずだけど。
両親は分からんな。
その場合、仮初の親って事も考えられるな。
なるべくそういう事態は困るんだが、天涯孤独に仮初の親とか、ありそうで怖いな。
ただの度忘れであって欲しいと願うばかりだが、どうにもな。
まあ、今はそういうのは忘れていようか。
それにしても、ミツヤは張り切っているな。
オレはこうしてのんびりと、女の愚痴を聞いているだけなんだが。
「そろそろ時間やろ、ほれ、ボーナスや」
「なんや悪いねぇ」
「付き合いやから来たが、許婚に知られたらヤバいさかいな。そん時は証言頼むで」
「あはは、今から敷かれてんのかいな。ええよ」
「ほなまたな」
「ありがとな」
(えー、いーなー……終わったら食べに行くわよ……おごりよね……まあ、屋台ならね……ラッキー)
入る時に2人で10万、中で10万、先に出て10万と。これで余計な口は止まるだろ。
止まらなければ心臓の鼓動が止まるだけだし、そいつはオレが止める事になるな。
あれから殺ってないが、どうにも……いかんいかん、そういうのは忘れてないと。
けどなぁ、モンスターの居ない世界でのハントの欲求ってのには困るよな。
マンハントする訳にもいかない世界だし、盗賊にも人権のある世界だし。
今は鎮めておくしかないってか。
でもまた、どっかで……まあ、手榴弾で発散にならなくも無かったし、あれで多少は効いたしな。
まだ来るようなら今度はもっと容赦無く、気の済むまで相手をしてもらうだけだ。
例えば、前から来るようなチンピラとかさ、いいカモだよな、クククッ。
あれ、目を逸らすのか、残念だな、ちょうど良いと思ったのに、クククッ。
(なんや、今の悪寒……あいつ、ヤバいんかいな……危な)
なんやねん、会う奴会う奴、目ぇ逸らすんかいな。
獲物がおらへんなぁ……残念やなぁ……今夜のメインディッシュ、確保は無理かいな。
ミツヤ寝かせてまた来てみるかいな。
鎮める為にはやっぱ、生贄が必要やろ。
(拙いな、あっちもこっちも予感って感じで送ってるが、頼むから静かにしてくれよな・・しっかしあの管理も間抜けだったな。手を出すなとあれ程、言ったと言うのに。次はどんな新米が来るのやら)




