42 城下
まあ、ミツヤも男だし、その年齢だ。
ちょうど激しい時期だろうし、欲しいならすればいいだけの事。
そうだな、行きたいなら付き合うさ。
まあオレの場合は時間まで話をするだけでいい。
あの手の女はそういうので金になるのを喜ぶ事も多いらしいし、オレはそれで別に構わんよ。
ただオレはそういう行為より、主食の摂取の快楽のほうが好きなだけだ。
あれに勝る快楽は、ちょっと今のオレには想像が付かんな。
近いのは昨日の昼飯だったけど、主食は次元の違う話だ。
充足感のあれはまた別な話だけどな。
あれは何て言うか、気力が増えるような感じであって、快感とはまた意味合いが違う。
はっきり言ってあれだろ。
魂を吸収して寿命が増える、てな感じの現象だろ。
混ぜた力を抜いて抜いて存在を消し、バラした力をもらうスキルだ。
ああそうか、【注入】の快感ってな、あんな感じなのか。
人間にはアレと同じ快感に感じるのか、成程な。
かつて、その手の行為の経験は、数千年前しか無いぞ。
まだオレが神様に嫌われていた頃、元の世界で何度かやったけど、そのたびに色々なトラブルに巻き込まれて、だからあれで余計に罪が重くなって……そうそう、あの神様ってか、あれも管理とやら言う存在だろ。
あいつにこそ意趣返ししたいものだけど、どんな奴だったのかさっぱり分からん。
残念だけど、諦めるしかないか。
すんなりと京都駅から大阪に向かう。
もう変なちょっかいは無いようで、ひとまずはクリアしたって事かな。
梅田から京橋までタクシーで移動し、そのまま大阪城の観光に向かう。
運ちゃんに聞いてみると、そうやな、たまには登るのもええか、てな訳で同行になる。
実は補導対策での格好で、もう既にトラブルで交番で対処の終わった話をする。
なのでいきなり青くなったオーラに気分を良くし、そのまま継続を願った訳だ。
まあ、青っぽいオーラのタクシーに話しかけ、黄色っぽくなった後の話なので、元に戻ったってだけだけどな。
今日と明日の2日の専属、観光案内もプラスして10万で快諾され、今こうして……
「はぁぁ、やっぱしんどいな」
「無理はあかんて」
「ほんま、慣れてんな、そん言葉。聞くだけやったらこっちゃのもんや」
「漫才で覚えました」
「はっはっはっ、成程や」
「まだかぁ、はぁぁ、疲れるぅ」
「ミツヤは運動不足やな。ワイは毎朝、ランニングで鍛えてるさかいな」
「うげ、そんなのやってたのかよ」
「苛められっ子がな、将来の仕返しを夢に見て、鍛えた後にプロボクサーって話、聞いた事無いんか」
「お、あるな、そういう話。そうかぁ、ほな、兄ちゃんもそのうちプロやな」
「この格好やったら違うプロになりそやな」
「そらあかんて」
そんなこんな言いながらも登っていき、いよいよ城下が見えてくる。
一望に出来るここは人気があるようだが、やはり冬は人も少ないようだ。
やっぱり都会だな……でかい街だ、大阪は、やっぱり。
でも、ちょっとゴミゴミして好きじゃない。
オレは田舎向きかもなぁ……だって風光明媚なほうが好きだし。
そうだな……将来的に住むならもっと、自然豊かな風景の中がいい。
四季折々の風景を楽しめるような、そんな場所に住みたいものだ。
そう考えるとこの国も捨てがたいが、どうにも政府の方針がなぁ。
もっと毅然とした対応と、断固とした処置と、現実に即した方針でやってくれんもんかな。
憲法の解釈で誤魔化すような、そんな玉虫色な対処とか、その場しのぎだと言われるだけだ。
まあそんな事はどうでも良いけどな。
オレはオレで楽しめればそれでいい。
この国の未来がどうなろうと、オレには関係の無い話だ。
邪魔をするなら排除するし、絡んでくるなら消すだけの事。
嫌なら絡んで来なければ良いんだし、絡むから排除するだけの話だ。
さてと、ミツヤも寒そうだし、そろそろ降りるとするか。
「甘酒飲みに行こうぜ」
「よし、乗った」
「そやな、久しぶりやな」
降りるとなると真っ先に降りていくミツヤだが、膝の負担は下りのほうがでかい。
腰砕けになりそうなミツヤは今、茶屋の店先で座り込んで……もう動けないなどとのたまっている。
「はぁぁ、もう足がぁぁ」
「元気無いな、若いもんが、もっとしゃっきりせぇ」
「そやで、こんくらいで」
「オレも運動せんとなぁ」
「よし、ガンガン鍛えたる」
「うげ、あんまりは、そのな」
「さあ、スパルタやぁ。くっくっくっ」
「ほんまに違うプロになりそやな」
「冗談やがな、堪忍やで」
「はっはっはっ」
下に降りた頃にはすっかり疲れた様子のミツヤ。
運ちゃんも疲れているようなので、早めの昼飯にする事にする。
昼から水族館に連れてってもらう事とし、運ちゃんお勧めの寿司屋を頼む。
「そらええけど、予算はなんぼや」
「そやな、3人で10万ぐらいか」
「おいおい、本気かいな」
「心配無いて、予算はたっぷりやさかい」
「ほんまにそないに稼げるもんかいな」
「ならな、新聞持って来ィ。サービスで予想したるさかい。後で買うて大儲けしたらええ」
「そやなぁ、おし、ほんならな、こいつを頼むわ」
「運ちゃん、既に中毒かいな」
「ただの趣味や」
住之江競艇か……ええと、お、これがでかそうだな。
青、黄、赤が偶数、偶数、奇数と。
これもそれなりかな? まあいいや。
つらつらと3レース……午後の3つで良いか。
書いて渡せばその気になるようで、無線で代理購入を頼むって、クククッ。
「ほお、無線ってな、そういう使い道なんやね」
「さすがに仕事中は買えへんでの、たんまに頼むんや」
「ほな、今夜は山分けで大騒ぎやろけど、明日の案内も頼むで」
「そないに自信あるんかいな」
「ほんまに千円ずつでええんかいな? 有り金勝負やと思うんやけど」
「さすがに大穴に有り金はないやろ」
「1万が100万になるっちゅぅのに、欲の無い事やな」
「そこまで言われたら気になるな。ほんまに自信あるんやな」
「買え買え、有り金で」
「よっしゃ、こうなったらトン掘に飛び込む思いで」
『あんな、さっきのな、万札ずつ頼むわ……おいおい、ええのんかい……1割でええな……了解や』
「ほんま頼むで、今月の小遣いやさかいな」
「新年は水入らずで豪華な正月楽しめばええ」
「そらありがたい話やけど、どうにも心配やな」
「まだかいな、寿司屋は」
「あいた、通り過ぎた。ちょい待ってや」
「ほんま頼むで」




