04 競輪
バクチはハタチになってから。
フィクションですのでどうかそのむね、よろしくです。
中3になった頃には身長も伸び、変装すれば社会人に見えなくもないぐらいになった事もあり、こっそり表から入ってみようかと思っていたりする。
父さんと身頃が似ている関係もあり、父さんが家に置いてある予備のスーツに小物一式、革靴をカバンに入れて……行った先は近くの公園の公衆便所の裏。
ちょっと臭いけどここで着替えだ。
まあ、臭いからこそ誰も来ない訳だけど、とっとと着替えて……おっと髪染めしないと。
こいつは水で洗えばすぐに落ちる安物。
まあ、半日保てばそれで良いんだし、さてと、後はトイレの中の鏡で髪を決める。
ううむ、顔がどうにも幼いな。
やはりサングラスは必須か。
そしてスーツに茶髪でオールバック、ミラーサングラスでそこらの……幹部は無理だな、精々チンピラか。
何にせよ、裏方の職業と見てくれれば……頼むぞ、補導だけは無しにしてくれよ。
軽くドキドキしながらレース場に向かい、何気ない振りして内心ドキドキのまま、入場料を払って中に入れた。
はぁぁ、何とかなったが、本番はこれからだ。
まずは予想をしないとな。
新聞を買って物陰で予測……頭がクラクラする中で、タマゴ水筒をゴクゴクと飲む。
はぁぁぁ、少しだけど楽になるのはありがたい。
さて、続きを予測するか。
結局、最終レースから予測していき、6レースでタマゴ水筒が尽きた。
うちにある一番大きなこの水筒で尽きるとなると、中々に辛いものがあるな。
タマゴで腹がタプンタプンしているけど、何か腹に入れておこう。
さすがにタマゴだけでは栄養が……パンで良いか。
そんなこんなでのんびりとして、昼はそこらで軽く食べる。
どうにも場内のメシはどれもバカ高いが、儲けるから関係無いか。
6レースを軽くやり、トントンぐらいにして、いよいよ本番の第7レース。
さて、次の予測は何だっけ?
2.4倍の本命に1万円の1本賭け……配当を受けて2万4000円。
8レース目、これが大穴な訳だ。
48倍なんてレースに、さすがに全額は目立つ。
普通なら小額でお茶を濁すところだが、今日はラストチャンス。
変装もしたし表から入った訳だし、ここはひとつ……
「8-6、2万円」
「はい、ちょっと待ってね」
「ありがとう」
「当たるといいね」
さすがに1点買いで2万って事で、注目を浴びるかと思ったが、
皆さん自分の事に精一杯でそんな事もなかった。
ちょっと被害妄想っぽいな、オレ。
確かに毎月だけど、表から入っただけでこんなにドキドキするなんてな。
でも、これは中学最後の挑戦になるかも知れないんだ。
最終のベルが鳴り終わり、フンファーレの後、アナウンス。
選手紹介とか、興味無いけど毎回やってんな。
ファンにとっては大事な情報かも知れないけど、オレにとってはただの待ち時間に等しい。
そう思っていると、いよいよ発走となる。
ゆっくり走り始めた後、番号の無い選手を先頭に、一列縦隊で周回していく。
何となくカルガモを思い出した。
レース自体に興味は無いが、あの速度は少し面白そうだ。
オレもあんなに走れたら……まあ、稼いだら自転車を買っても良いしな。
レース用に近い自転車を買って、あちこち行けたらそれはそれで面白そうだ。
以前、どっかのおっさんの言葉で知ったけど、今、ジャンと呼ばれる、追い込みっぽい鐘の音。
段々早くなるって音楽用語で何て言ったか……興味無いから覚えてないや。
お、これからが本番とばかりに、先頭を走っていた自転車を追い越して立ち漕ぎになる。
自転車を揺らして必死に漕いで濃いで……写真判定か、少し時間が掛かるかな?
しばらく待っていると、確定ッ……よしよし、これで……
おっと、配当を交換にいかないと。
さて、96万4000円となった訳だが、さすがに注目されてしまう。
うわ、これはちょっとドキドキするけど、ここで挙動不審になる訳にはいかないな。
さりげなく……さりげなく……普通に見えるようにと、努力して物陰のほうに歩いて行く。
はふうっ、緊張した。
しっかし一気に資金が増えたけど、これ持ってうろうろしてたら変な奴に絡まれそうだな。
それに、あれでも注目を浴びるんだし、ここはあらかた仕舞って……
うん、今はまだ未成年なんだし、無理は禁物だ。
そう思って内ポケットでもチャックの付いているほうに95万円を入れて、9レース目からは残金で勝負を再開する。
さっき、8レース目の予想の時に気付いたけど、2つのうち片方が少し明るく見えるんだよな。
だから明るいほうが1着、他が2着と予測してやってみたけど、あれで合ってたみたいだ。
何度も使うから慣れたのかな?
さて、そう言う事なら連勝単式に切り替えてもいいな。
念の為に明るいほうに◎、もう1つに○を付けておいて良かったな。
買おうと思ったらオッズは7倍か。
これって本命とかいう、確率が高い? よく分からんが1万円を投入だ。
またしてもさっきと同じような事が行われ、同じように途中から競争になる。
どうにも退屈なんだけど、周囲のおっさん連中は夢中になっているんだよな。
やれやれ、早く決まってくれよなと、ぼんやりと周囲の様子を眺めているぐらいしかやる事が無い。
配当金交換所の近くの椅子に座り、レースが終わって交換開始になるのをひたすら待つばかり。
場内の床は外れたと思しき車券が散乱して、実にゴミゴミとしている。
外れた人が地面に叩きつけたりするようで、毎回そういうパフォーマンスが見てとれる。
そういう色々な様子を眺めているぐらいしかやる事の無い、結果が決まるまでの時間は本当に退屈な時間だ。
ああ、やっと確定したか。
うん、当たっているから交換しようと、もはや当たり前になった行為を開始する。
配当金8万4000円を受け取り、5万円を内ポケットに……こっちにまだ入るかな。
さて、残り3万4000円でやりますかね。
10レース目のオッズは12.2倍で確定したんだけど、どうにも少し前から見られているような気がする。
最初は毎回なせいかと思ったけど、視線に敵意が無いと言うか、そんなに危険な感じはしないのだ。
何か探るようなと言えば良いのか、あいまいだけどそんな気がするだけかも知れないけど、何かは感じるんだ。
仕方が無いので外れると分かっている車券を9通り選び、当たる車券に混ぜる。
迷彩とか言うらしいけど、横でわざわざ書いているのをそっくり真似して書くのかよ。
どうにもこれ、知らない奴じゃない気配のようなんだけど、まさかクラスメイトとかじゃ無いだろうな。
オレは他人だ、他人だからな、どうにもいかんなこれは。
10組書いて3000円ずつ書いて3万円を添えて窓口に出して購入。
どうにも付きまとわれているようなんだけど、話しかけて来ないのは確証が持てないからだろう。
つまりますますヤバい予感だ。
成人なら人違いで謝れば終わりそうな話だが、後ろめたい何かが、つまりは相手も未成年だから確定じゃないと動けない状態とか。
とは言え、あからさまにそっちのほうを向くのは拙いので、ここはそれが可能な場所で確かめるしかない。
場内の料理は何もかもが高く、普段ならとても食べる気にならないのだが今日は違う。
あの場所なら、さりげなく確認が出来る。
一番奥のテーブルの奥の椅子が空いている店を確認し、中に入ってそこに座る。
これで対象は店の外、つまりは視線の先だ。
普通に座れば視線は自然と店の外に向かう訳で、わざとそちらを見ている訳じゃないってアピールになる。
何にするかと聞かれて一番安い……ふぇぇ、素うどんが600円ってマジ?
スーパーで1玉50円ぐらいだったよな、確か。
スープが10円とかだったはずだし、原価の10倍かよ、凄いなこの原価率。
それでも諦めてそれを注文し、改めて視線のヌシをさりげなく調べて……どうやらあいつだな。
こういう時はサングラスが有効だな。
残金はちょうど4万円となると、また少し仕舞うべきかな。
それはそうと、どうにもチンピラみたいなんだが、やはり知らない奴って感じはしない。
もしあいつがオレの知ってる奴なら、そのつじつまと言うかその理由も分からんでもない。
そいつは毎日のようにゲーセンに通う無類のゲーム好きとなれば、いくら小遣いがあっても足りないよな、普通。
でもここでとか、オレのような能力が無いと簡単には儲けられないと思うんだけど、何か理由でもあるのかな?
まあなぁ、もし本当にあいつなら、オレもこの能力を明かして2人で稼ぎたいとも思うよ。
だけどな、それは自殺行為だと思うんだ。
これは地味にやるからこそバレないのだろうし、またバレては困る事なのだ。
だから普段ならもっと地味にするんだけど、来月にはもうあの穴は使えなくなる。
確かに次からも表からとも思うけど、そう何匹もドジョウが居るなどと、そういうのは油断に繋がる。
今回は少し冒険したが、これでもう当分は来ないつもりだし、だからこそ少しぐらいの疑惑でも時が解決してくれると思うがゆえだ。
普通ならこんな能力を得たら、得意になって荒稼ぎして発覚するってのもありそうな未来だし、そういうのが理解出来ればとてもやる気にはなれない。
まあ今回の挑戦の為に、ちょっとした言い訳は考えてある。
この競輪場近くをたまたま通っていたら、知らないおっさんに呼び止められ、少し怖かったので断れなかった。
まあこれは苛められっ子だったオレだから、あり得る話だと思われると思っての事だ。
そうして付いていった先で、競輪の予想を買えと脅されたと。
しかし、ここまでなら買っても入る理由にはならないよな。
だけどそれが1万円ならどうだろう。
月の小遣いが1500円の学生にとって、1万円は大金だ。
そんなのを取られて、そのまま帰る事なんて出来るだろうか?
たまにこの近くを通るたびに、興味はあったけど未成年お断りの場所だから入れなかった。
だけど今は大事なお金を減らしてしまった。
これがもし、当たったら……大金の補填と興味と好奇心、これだけあれば何とかなるだろうと思って挑戦に至ったと。
後は、どうしてそんな大金を持ち歩いていたのかね、これだよな。
ちゃんと持ってますよ、競輪場近くの銀行の通帳と印鑑を。
中には小額しか入れてないんだけど、そこに足すつもりで来たって事にするんだよ。
さて、続きをやりますかね。
11レースは5.4倍……1万円を4組適当に買い、5万4000円となる。
最終レースはまた波乱で、36倍の穴レース。
視線の主がしつこいので、ここで表に出る。
あいつは諦めたようで、そのまま場内に残る。
さて、場外の発券所で連勝単式『9-8』に5万円。
そのままレース終了まで時間を潰し、黒サングラスに替えて黒髪に戻して七三分け。
配当を受け取って反対側の内ポケットに100万、
上着のポケットの左右に40万ずつ。
そのまま足早に公園に向かうつもりだったんだが、尾行が付いちまった。
視線の主か、参ったな。
このまま向かうのは拙いが、何とかならないか。
公園に入る人達をつらつらと眺めながらのんびりと歩き、少し俯き加減のちょっと似ている感じの青年を発見。
こいつ、もしかして、大のほうじゃ? 頼むぞ、青年。
バタン……よーし、今のうちに……
リアルでは経験ありますが、そんなに詳しくはありません。
緑のバンクに煌く銀輪……夢がある○○競輪……だったかな?
経験した頃はまだ、口頭や筆記式だったのです。
今はマークシートらしいですね。