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さすらいの魔皇子2   作者: 黒田明人
中3 冬休み
38/119

38 変身

 


 どうにも思い込みが激しいというか、困った奴だよな。

 ミツヤが居なければ今頃、あいつはこの世に居ない。

 ふん、命拾いしたな、なんてさ、困るんだよな、警察沙汰は。

 さすがに前科7人なんだし、あんまり近付きたくないってのに、困ったおっさんだ。

 本当はああいう奴はじっくりと思い知らせてやりたいが、生憎と今は観光中だ。

 どうしてもオレと殺り合いたいなら後日、たっぷりと思い知らせてやるから心配するな。

 もう殺してくれと懇願するまで、痛め付けては【回復リカバリー】痛めつけては【回復リカバリー】とやってやるからよ。

 しかしな、まともな攻撃と言えば、風魔法ぐらいしか無いんだよな。

 確かに何種類かはあるけど、それだけと言うのも侘しいな。


 もっと他の魔法の研鑽もやっとけば良かったかな。


 街を歩いて洋服屋に入り、オレとミツヤのスーツを揃えてもらう。

 金はデビット都市銀カードで払うから問題無いと。

 おっと、ポマードも買わないとな。

 革靴にスーツにスラックス、小物類も揃えて購入し、着替えて髪もキメてバッチリだ。

 ミラサンでそれっぽく変身したオレ達は、もう元の面影は無い。


「いい感じに決まってんな」

「なんかよ、マジでそこらのヤーさんみてぇだぜ」

「幹部候補生っぽいだろ」

「これならもう大丈夫だよな」

「さて、行こうか、兄弟」

「くっくっくっ」


 アタッシュケースも購入し、着替えた服はそれに入れた。

 ミツヤだけ荷物が多くなっているが、先にホテルで荷物を置いても良いんだが……まあいいか。

 さっきのおっさんを見かけたが、オレ達と目を合わせようとしない。

 なのでミツヤが笑いを堪えて……「いちゃもん付けんなよ」


「うぷっ、くっくっくっ」


 それでも意趣返しをしてやろうと、そちらのほうに寄っていく。

 ますます、目を合わせようとせず、避けよう避けようと思っているようだ。


「おうっ、てめぇ、ワイらに何の用や」

「な、何だね、君達は」

「ちょいとこっちに来い」

「ぼ、僕は何も用はないよ」

「ほんまやな」

「あ、ああ」

「ならええやろ、行きぃ」

「あ、ああ」


 さっきとはえらい違いやな。

 見てくれで判断する愚か者が。

 だからやっぱり必要だったのか、最初からそうすれば良かったかな。

 ちょっと準備不足だったかも。

 まあなぁ、今までは【暗示インプリント誘導ナビゲート】をやってたが、そういうのは同行人が居ると不自然なんだよな、あの時の警官みたいに。

 だからつい……だけどこれでもう心配無いだろう。


「あんさん、見かけん顔やね」

「旅行やからな」

「どっからや」

「東やけど他意は無いさかい」

「どこのもんや」

「素人や、堪忍したってや」

「白々しいでんな」

「あんな、この名刺で止まるかいな」

「なんやと」

「あかんかったらこっちもあるで」

「おまはん、何者や」

「ちょっとした顔見知りや」

「ちょっと確認ええかいの」

「事務所かいな、先にメシ食わして欲しいんやけど」

「何処や」

「氷庭や」

「あこは一見は無理やで」

「予約やから心配ない」

「ほんまかいな」

「代理店経由やさかいな」

「ならな、終わってからでええさかい、ここに来てくれるか」

「素人やぁ言うのに」

「やからその物腰で素人は通らんちゅうとるやろ」

「へいへい、後で行きますよってに」

「ほなな」


 なんでやねん。


 物腰と言われても困るんだけどな。

 確かにバレたら困るからと、殺しの心境に……ああ、それでか。

 殺り合いの心境になってたからか、参ったな。

 けどな、まるで戦闘服みたいで気が引き締まると言うか、そんな気分になると言うか、困ったな。

 後で行かないといけないみたいで、逃げて帰りたいねぇ。


 はぁぁ、気が重い。


「ヤベぇな、どうするよ」

「まあ、問題ないやろ。メシ行くで、兄弟」

「成り切りがどこまで通じるかだな」

「舞台裏を明かすな、怖なるやろ」

「くっくっくっ、やっぱりな」

「成り切れ、成り切るしかない。行くで」

「はぁぁ、そうやね」



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