36 盗人
結局、ミツヤを叩き起こし、連れ立って風呂に行く。
湯船に浸かると酔いも少し覚めたようで、しゃっきりしてきた。
風呂上りに夜景を見ると言い出して、じっくり浸かった後に共に出る。
もう、さっきの奴らは居ないようで、それだけは助かったと言うべきか。
湯冷めしないうちにと促して、ホテルの中に入る。
後は窓から見える範囲の夜景を眺め、買っておいたジュースで乾杯。
「さあ、明日は京都だぜ」
「料亭ってよ、何かマナーとかあるんじゃねぇのかよ」
「まずは服を買おうか。普段着じゃちょっと敷居が高いだろ」
「やっぱそうかよ」
「ジャンバーで料亭ってのもな。スーツとかバチッとキメようぜ」
「お前、どんだけ持って来たんだよ」
「心配するなって、もうな、金の事は忘れろ」
「そこまでかよ」
「高そうに見えても何も思うな。欲しい物は全て手に入ると思っていれば間違い無いから」
「それはいくら何でも嘘だろ」
「ちっ、無理だったか」
「くっくっくっ、やっぱりな」
「まあ、普通の買物なら問題無いさ」
「それなりの服で良いんだろ」
「お前な、高校にスーツで行っても構わんのだろ? だったらそれ用に揃えようぜ」
「受かればの話だろ」
「別に学生が着ても問題無いんだし、あったほうが良いだろ」
「まあなぁ、学生服ってのも何にでも使えるけど、スーツってのも良いかもな」
「着慣れようぜ、そのうち着る服だしよ」
「そうだな」
夜景を見ながらあれこれと話し、そのうち眠気も出て布団に入る。
かなりセーブした事で過度な運動の必要が無くなり、ウェイトのあれこれも今は付けてない。
だから何をするにも力が必要になるんだけど、この制限が運動に等しいからもう朝のランニングも不要だろう。
毎日のトレーニングも結局、制限無しの弊害のようなものだし、これからは制限だけでも構うまい。
かつては相当に絞っていたものだが、身体を代えた弊害か、以前程の制限にはなってない。
またあの身体を使う時はもっと制限の必要があるのかも知れないが、あんまり使い勝手は良くないな。
銀髪で紅眼が許容される世界ってのも、あんまりありそうに無いからな。
特にこの世界の場合、ちょっとあり得ないと言われそうだ。
何だかんだ言っても、あの身体は魔族だしな。
魔法が強い種族ってだけじゃないっぽいし、それなりの世界までお蔵入りでも構わんさ。
しかしな、この身体も血液を主食とする感じなんだけど、これも魔族の身体なのか?
どうにも分からんが、まあなるようにしかならんだろうし、なりゆきに任せればいいか。
京都か……本当に頼むぞ、変な組織。
オレ達は無関係なんだから絡んで来るなよな。
最悪、【暗示誘導】で逸らすしかあるまいが、あんまりその手の力を使いたくないんだよな。
何て言うか、体験が白けると言うかさ。
もっと自然に過ごしたいと言うかさ、だから頼むぞ。
やれやれ、またやっているのかよ。
寒いのに表で言い争いってのも何だよな。
金かぁ……まあ、静かにさせるか。
1束出して封を解き、あいつらの上空100メートルに【転送】
バサッとバラけてハラハラと舞い散る1万円札に、2人とも慌てて拾う拾う。
やれやれ、静かになったから寝ようっと。
☆
やはり日々の慣れというものは、いきなり止めようと思っても無理なようだ。
起きたのは朝の5時……ミツヤは熟睡の中か、どうしようかねぇ。
仕方が無いから精神体で散歩にしようと、身体から抜けてふよふよと。
この状態になると窓とか開ける必要が無いので、便利と言えば便利だ。
そのまま抜けて外をふよふよと……ううむ、朝の清々しさを感じれんな。
やはりあれは皮膚が無いと無理なようで、寒さも感じないけど何も感じないと。
意識のままに動くのは良いんだけど、これじゃ幽霊と変わらないよな。
散歩って感じじゃないから、やっぱり面白くないな。
やれやれ、一度帰るか。
おいこら、身体泥棒かよ、てめぇ。
どんな奴かは知らんが、オレが抜けている間に潜り込みやがって。
ふん、何も出来ないと思うなよ。
【枯渇】……ほれ、即死だ、クククッ。
【吸収】……ああ、これは良いな……久しぶりに感じる充足感だ……ごっつあんでした。
やれやれ、何がしたかったのかは知らんが、浴衣のままうろつくなよな。
さて、部屋に戻って着替えて、本格的に散歩に出るか。
「お前、さっきはどうしたんだよ」
「うえっ? 何かあったのか」
「いきなり起きてよ、オレが話しかけても知らん振りしてよ」
「ううむ、夢遊病かな、ヤバいな」
「マジかよ」
何だったんだ、あの身体泥棒は。




