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さすらいの魔皇子2   作者: 黒田明人
中3 1学期
3/119

03 進路

 


「あ、母さん」

「どうしたの」

「進路の事なんだけど、近所の高校でいいよね」

「え、あんたがあそこに? 無理でしょ」

「だって近いし」

「近くても偏差値が酷いからきっと無理よ」

「うぇぇぇぇ」

「良いのよ、母さんは君が丈夫に育ってくれさえすれば、どんな学校でも構わないわ」

「県外になっちゃうよ」

「そろそろ独り立ちしてもいい頃でしょ」

「考えとくよ……」

「はいはい、くすくす」


 夕食後、部屋で本を読んでいると母親が帰宅する。

 寝る前に聞いておこうと進路の話をしたら、無理だからもっと下げたほうが良いと言われてしまう。

 確かに偏差値45のオレじゃ、70の学校はきつい。

 と言うか、まず無理だろう。

 それでも近いほうが通学も楽だし、そもそも悪ガキのはずのあいつの志望校なのだ。

 あいつは本当は天才か何かなのだろう。


 授業中もまともに授業なんて聞いてもないし、休みの日にはゲーセンで遊ぶ日々だ。

 もちろん塾や家庭教師なんかは無く、宿題も時々忘れたと称して補習なんかもサボりがちだ。

 それでもテストの点だけは良いのだ。

 オレが平均50点だとしたら、あいつは平均85点ぐらいの位置にいる。

 だから偏差値もかなり高く、あいつなら余裕で合格間違い無しだろう。


 本当ならオレもそれぐらいの位置になれはする。

 問題を凝視すればぼんやりと答えが見えたりするからだ。

 だがそれはやらない事にして、かなり手を抜いてテストを受けている。


 あれはアルバイト専用の能力として、普段はそれを行使しない。

 なんて言えば格好良いけど、あれをするとかなり疲れるのだ。

 極度の貧血を誘発し、油断すると倒れる事もある。


 テスト期間にそうたびたび倒れるのも嫌だし、テストが終わったらあいつと寄り道する楽しみもある。

 土曜日のレースでアルバイトをやった後なら、日曜日にゆっくりと休息がとれる。

 もっとも、その対策がバレるとドン引き間違いなしだ。

 さすがに休み時間に生タマゴをゴクリゴクリとやっていれば、さしものミツヤも引くだろうと思われる。

 それに出る杭になるのも嫌なので、答えが判っても書かない事も多かった。

 アルバイトならこっそり隠れて飲めるので数ケース持参して飲みまくってたが、苛めのある学校ではトイレの個室とて安全ではない。


 今はまだ雌伏の時、そう心に決めて低い成績を保っていた。

 だが、入試となると話は別だ。

 真の実力を遺憾無く発揮し、及ばない箇所は特技でカバーする。

 だからこその高望みだったのであるのだが……


「お前、勇者にでもなりたいのか」

「えっと……」

「確かに家は近いだろうが、無理だから止めとけ」

「じゃあ滑り止めを志望校に」

「無駄に終わると思うがな」

「頑張りますので」

「まあ、やるだけやってみるといい」

「はい」


 何とか誤魔化して志望校を決めたが、教師は宝くじぐらいのつもりでいるらしい。

 オレが受かったら高級レストランでフルコースを食わせてやるなどと……中々に太っ腹な事を言う。

 まあそれでいくらかでも発奮して、必死の勉強で受かる確率を上げてくれようとしたのだろう。


 中々に良い教師と言えるかも知れない。


 普通ならそれで発奮してとなるんだろうが、オレは受験の時まで爪を見せるつもりは無いんだ。

 折角、ミツヤの恩恵で苛めが止まっているんだ。

 ここで良い成績とかやっちまったら、再燃する可能性が高い。

 内申には厳しいが、オレは日常の平穏を優先する。

 だからもし面接で問われたら、苛め対策で成績が悪いと言ってやるさ。


 それでダメならそれでいい。

 素直に県外の高校に行くだけさ。


 そんな訳で、オレは相変わらず帰宅部の毎日。

 受験に向けての補習もパスして、だから教師も諦めたと思って放置していたりする。

 志望校に向けて勉強するかと思えば、余りにも日常が変わらないからだ。

 もっとも、自宅での自己採点では偏差値77はあるんだ。


 後はタマゴ水筒作戦で何とかしてやるさ。


 さすがにレモン必須な作戦だけど、教科毎にゴクゴクやってれば倒れる事は恐らくあるまい。

 最低70の偏差値で、自己採点が77で、後はアレで何とかしてやる。

 だってミツヤは余裕そうなんだし、オレも同じ高校に行きたいしさ。

 広義で言えばカンニングだけど、そんな法律何処にも無いって、まあ言い訳だよな。


 良いんだ、バレなければ。


 てか、バレたとして、どうやって証明するのかって話だよな。

 受験でそんな能力は使用禁止とか、そんな事を書くバカは居ない。

 つまり、想定外な訳だから問題無いと、クククッ。

 そう言えば、来月から改築になってしまう。


 次のレースが最後になるか……



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