29 実力
【青山、職員室に来い】
「あははは、いきなり呼び出し食らってやんの」
「ううむ、何の用だろう」
「カンニングに決まってんだろ」
「あれは実力」
「嘘を言いやがれ」
「まあいいよ」
やれやれ、放送で呼び出すなよな。
すっかりカンニングだと思われているじゃねぇか。
わざとのカンニング宣言だと言うのに。
あれで実力を隠したつもりだけど、ちょっとやり過ぎたかな。
「失礼します」
「お前、カンニングをしたらしいな」
「あのねぇ、言ったでしょ、苛められるって。だからあれは予防線なの。あれで皆はカンニングと思うからさ、苛めにならないと」
「ならあれがお前の本気だと言うのか」
「大体さ、オレ、クラスで1位だよ。誰の答案を見ればそれが可能なの? 」
「まあ……そう言われればそうだがな」
「先生だけに教えるけど、オレ、英語とドイツ語喋れるよ」
「おいおい、それはまた」
「フランス語もかなりなんだ。語学好きだし」
「ううむ、まさかお前がそこまでとはな」
「高校出たら留学とか考えてんだ」
「実力隠しもやり過ぎだぞ」
「苛めは本当に辛かったんだよ」
「そうか、見てやれなくて悪かったな」
「でも、後数ヶ月。もういいさ」
「この成績なら余裕だが、油断はするなよ」
「はい」
さすがにな、トップの奴らのプライドを折る訳にはいくまい。
あいつらは国立狙っている奴だしさ。
だから少し手を抜いたってのに、おっかしいな。
オール95点を狙ったのに、他の奴らは何してたんだ。
8位ぐらいになると思ったのに、3位は少し高過ぎだぞ。
トップグループの奴ら、意気消沈してないと良いんだが……悪かったな。
「コージ、お前、あれ、本気なのか? 」
「カンニング宣言、コンプリート」
「どうやったんだよ」
「済まない、それは誰にも言えないんだ」
「まさか受験でも使うつもりかよ」
「ああそうさ、近くの高校の為だ。オレは本気でカンニングをする」
「どんな方法かは知らないけどよ、オレもやりたいぜ」
「お前は余裕だろ」
「絶対って訳じゃないしよ」
「心配するな。万が一、お前が落ちたらオレはお前付いて行く」
「良いのかよ」
「大体、最初はお前が言ってたんだろうが。オレに付いて来るって」
「まあそうだけどよ」
「だから心配は要らないさ」
「ああ、オレも本気でやるさ」
「そんな事より、旅行を忘れんなよ」
「あ、そうだったな」
そして恒例の買い食いを経て、交差点で別れて家に帰る。
家に入ると何故か父さんが……何か用かな?
「お前、期末どうだったんだ」
「まあ、それなり? 」
「あの高校を受けるんだし、それなりじゃダメだろう」
「ダメなら県外だね」
「独り暮らしは何かとな」
「急にどうしたんだよ」
「いやな、店の件だけどな、どうにも巧くいかなくてな」
「それで? 」
「あの高校ならまだ授業料も安いが、県外だと下宿代も掛かるだろ」
「ああ、つまり、追加の融資が欲しいと」
「春になれば好転するはずなんだ。だからな、もう少し悪いが」
「ああ良いよ」
「悪いな」




