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さすらいの魔皇子2   作者: 黒田明人
中3 2学期
21/119

21 説得

 


 そして徹夜覚悟で夜を待つ。


 果たして午後11時、玄関で気配が動く。

 黒い服、黒い手袋、黒い覆面。

 サイトで購入した忍者の格好だ。

 コスプレとかでこういうのを使うらしく、面白いから買った衣装だ。

 夜の食事にも使えると思っての事だけど、まさか家族の調査に使う事になるとは。


 屋根から屋根に飛び移りながら尾行する。


 さすがに屋根は想定外のようで、地面の上だけ警戒している様子。

 そして路地裏でもう1つの気配と合流する。

 耳を澄ませて話を聞くのだが、どうにも脅されているようだ。

 今日渡した200万はそのままそいつの手に渡り、残り800万って何だそれ。

 おいおい、合計1400万って事かよ。

 何をやらかしたらそんな大金が必要になるんだよ。


(いいか、今年中が期限だからな……は、はい、何とか集めますので……オレもな、あっちに言いたくはないんだよ……必ず集めますので、どうか、それだけは)


 母親と別れた気配は、そのまま遠ざかる。

 よし、今度はそいつを尾行だな。

 地面にふわりと降りて、そのまま尾行する。

 しばらく追尾した頃、オーラの色が真っ赤に染まる。


 ち、気付かれたか。


「何をこそこそ付けている」

「やれやれ、バレちまったか」

「その格好、何のつもりだ」

「金を出せ」

「ふん、お前、言う相手が違うぞ」

「持っているだろ? 200万」

「てめぇ、さっきの話、聞いていたのか」

「素直に寄こせば何もしない」

「お前もオレに金を貢ぐ事になるぞ。そうだな、強盗未遂で800万だ」

「誰が払うかよ」

「ほら、これは何だと思う? 」

「あの女は何をした」

「ふふん、ただの万引きだ」

「それで1400万はぼったくりだろ」

「お前、あの女の関係者か。そうかそうか、それでか」

「もういい、死ね」

「何だと、ぐっ、嘘、この、くっ、バカ、な」


 現職の警官がゆすりとは世も末だな。

 担いで移動中、覚えのある雰囲気を察知する。

 おいおい、こんな深夜に調査とは真面目過ぎるぞ。


「何してんの? 」

「お前、そいつをどうした」

「うちの母親、脅してた」

「やっぱり、お前か。そんな格好をして」

「こいつ、現職の警官」

「はぁぁ、世も末だな」

「オレの事、見逃してはくれないよね」

「どうするつもりだ」

「殺す」

「お前、そんなあっさりと」

「だからさ、こいつが遺体で発見されても、オレの事、チクらないでくれると嬉しいんだけど」

「どうにかならないのか」

「こいつが罪になっても母親の事は表沙汰になるよ。この国では被害者に塩を塗りつけるのがマスコミだろ」

「まあなぁ、そうなるよなぁ」

「確たる証拠が出るならオレは司法に従う。だからさ、ここは見なかった事にしてくれるかい」

「はぁぁ、参ったな」

「あの100万が口止め料で良いからさ」

「お前、妙に慣れてないか? 」

「ここでアンタも一緒に殺したくないんだよ」

「やっぱりそうか。何が原因かは知らんが、もう戻れないんだな」

「ああ、行き着く所まで行けば、後は消えるだけだ」

「そうか……分かった」

「ごめんな」


(まだ少年かと思ったが、色々とヤバい橋を渡っての事か。そうだよな、あんな少年に専属の弁護士とか、普通はあり得ない話だ。もしかしたら、広域関連の…… いかんいかん、そんなヤバい筋とは係わり合いにならんほうがいい。ここはあの金で口をつぐむしかあるまい。あいつはオレを見逃してくれたんだろうし、その 恩を仇で返す事は出来ん。それに下手に漏らしたら、あの少年共々……それだけは困るぞ)


 さてさて、組織の殺し屋だと思ってくれたかな、クククッ。



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