21 説得
そして徹夜覚悟で夜を待つ。
果たして午後11時、玄関で気配が動く。
黒い服、黒い手袋、黒い覆面。
サイトで購入した忍者の格好だ。
コスプレとかでこういうのを使うらしく、面白いから買った衣装だ。
夜の食事にも使えると思っての事だけど、まさか家族の調査に使う事になるとは。
屋根から屋根に飛び移りながら尾行する。
さすがに屋根は想定外のようで、地面の上だけ警戒している様子。
そして路地裏でもう1つの気配と合流する。
耳を澄ませて話を聞くのだが、どうにも脅されているようだ。
今日渡した200万はそのままそいつの手に渡り、残り800万って何だそれ。
おいおい、合計1400万って事かよ。
何をやらかしたらそんな大金が必要になるんだよ。
(いいか、今年中が期限だからな……は、はい、何とか集めますので……オレもな、あっちに言いたくはないんだよ……必ず集めますので、どうか、それだけは)
母親と別れた気配は、そのまま遠ざかる。
よし、今度はそいつを尾行だな。
地面にふわりと降りて、そのまま尾行する。
しばらく追尾した頃、オーラの色が真っ赤に染まる。
ち、気付かれたか。
「何をこそこそ付けている」
「やれやれ、バレちまったか」
「その格好、何のつもりだ」
「金を出せ」
「ふん、お前、言う相手が違うぞ」
「持っているだろ? 200万」
「てめぇ、さっきの話、聞いていたのか」
「素直に寄こせば何もしない」
「お前もオレに金を貢ぐ事になるぞ。そうだな、強盗未遂で800万だ」
「誰が払うかよ」
「ほら、これは何だと思う? 」
「あの女は何をした」
「ふふん、ただの万引きだ」
「それで1400万はぼったくりだろ」
「お前、あの女の関係者か。そうかそうか、それでか」
「もういい、死ね」
「何だと、ぐっ、嘘、この、くっ、バカ、な」
現職の警官がゆすりとは世も末だな。
担いで移動中、覚えのある雰囲気を察知する。
おいおい、こんな深夜に調査とは真面目過ぎるぞ。
「何してんの? 」
「お前、そいつをどうした」
「うちの母親、脅してた」
「やっぱり、お前か。そんな格好をして」
「こいつ、現職の警官」
「はぁぁ、世も末だな」
「オレの事、見逃してはくれないよね」
「どうするつもりだ」
「殺す」
「お前、そんなあっさりと」
「だからさ、こいつが遺体で発見されても、オレの事、チクらないでくれると嬉しいんだけど」
「どうにかならないのか」
「こいつが罪になっても母親の事は表沙汰になるよ。この国では被害者に塩を塗りつけるのがマスコミだろ」
「まあなぁ、そうなるよなぁ」
「確たる証拠が出るならオレは司法に従う。だからさ、ここは見なかった事にしてくれるかい」
「はぁぁ、参ったな」
「あの100万が口止め料で良いからさ」
「お前、妙に慣れてないか? 」
「ここでアンタも一緒に殺したくないんだよ」
「やっぱりそうか。何が原因かは知らんが、もう戻れないんだな」
「ああ、行き着く所まで行けば、後は消えるだけだ」
「そうか……分かった」
「ごめんな」
(まだ少年かと思ったが、色々とヤバい橋を渡っての事か。そうだよな、あんな少年に専属の弁護士とか、普通はあり得ない話だ。もしかしたら、広域関連の…… いかんいかん、そんなヤバい筋とは係わり合いにならんほうがいい。ここはあの金で口をつぐむしかあるまい。あいつはオレを見逃してくれたんだろうし、その 恩を仇で返す事は出来ん。それに下手に漏らしたら、あの少年共々……それだけは困るぞ)
さてさて、組織の殺し屋だと思ってくれたかな、クククッ。




