19 莫大
週明けの全力売りの結果は、学校が終わってから見れば良いと、日課を終わってシャワーを浴びながら思う。
どのみちもう手は離れたんだし、いくらになるかは知らんが、中抜きになったのは確実だろう。
それにしても、どうにも母親の色が黄色いな。
何かあったのかな……後で聞いてみるか。
「ねぇ、何かあったの? 」
「えっ、えっとね、あのね」
どうやら商売の件で、小さなトラブルがあったらしい。
宝くじが当たったなどと、余計な事を吹聴したせいか、家賃の割引が消えたらしい。
全く、口の軽い両親だ。
「それで、どれぐらい足りないの? 」
「蓄えを減らせば問題無いのよ。だから気にしなくて良いわよ」
「追加で400万。1千万あれば余裕じゃない? 」
「え、でもそれは、コーちゃんの学校の……」
「どうせ県立なんだし、そこまで高くないよ」
「じゃあ、出してくれるの? 」
「うん」
「ありがとう、コーちゃん。しっかり稼いで返すからね」
引き出しの中の金を渡しても良いが、そんなのを部屋に置いてあるってのも不自然だろう。
だから下ろして来ると、後日の手渡しを約束し、そのまま学校に行く。
昼休みに近くの銀行で500万下ろし、無造作にカバンに入れておく。
あんまり赤い奴らと絡みたくは無いが、どうして死にたい奴が多いのかね。
チンピラは声も立てずに昏倒し、そのまま学校に戻る。
ちょっと腹筋破壊になったかも知れんが、頼むから内蔵破壊になってくれるなよ。
軽く叩いたら倒れたんだけどさ、そのまま死ぬんじゃないぞ。
大体さ、過剰防衛の定義は良いが、攻撃をしなかったら反撃も無い訳だ。
つまり、一種の自業自得って訳なんだし、そこに罪を持って来るのは違くないかよ。
どうにも法律の定義はよく理解出来ないが、うっかりがあるんだから絡むなよな。
やれやれ、他人のカバンを勝手に開けて、大金を盗んだ金と騒ぐのは止めてくれんかな。
「返せよ」
「どっから盗ったんだよ、この盗人野郎」
「盗人はお前だろ。おら、返せよ」
「通報してやるからよ、ケケケ」
「そいつは犯罪と分かっているのか? 他人を罪に貶める行為は犯罪だぞ」
「何が貶めるだ。この盗人が」
「親のすねかじりに言われたくないな。オレはちゃんと稼いでいるんだからよ」
「何を、この野郎……痛ぇぇ」
「おいおい、殴ったほうが痛がってどんなつもりだよ」
「くそ、石頭かよ、くぅぅぅ」
「やれやれ」
柏崎か、こいつも殺すか。
全く、他人が気になる奴が多いな。
そんな奴らは皆、オレの食事にしたいもんだがな。
全く、法治国家は良いが、こういう場合は対処に困るよな。
恒例の買い食いの後、家に帰って親に400万。
残りの100万を引き出しに入れ、サイトで値動きを……うげ、マジかよ。
週明けに824倍だと?
じゃあ、思いっ切り中抜きした事になるじゃねぇかよ。
ネトギン、いくらになってんだ。
うっく……4兆、5兆、4兆、6兆、5兆って……冗談だろ。
計算したら26兆7855億2522万って……どうすんだ、こんな金。
いかん、これはもうオレの範疇を越えている。
弁護士に相談するしかない。
電話帳で青っぽい相手に電話し、予約を取ってそのまま直行する。
引き出しの中の通帳とカードと印鑑と、持ち金全てをカバンに入れて。
巷のタクシーで事務所まで直行し、そのまま相談に入る。
「ううむ、本当かね」
「ネットバンク5社合わせて26兆7855億2522万」
「何ともとんでもない額だのぅ。確かに中学生が持てる金ではないな」
「だからお願いします、専属料100億円で」
「ううむ、まさかそこまでの大金は必要ないが、極秘でやるなら……そうさのぅ」
「親にバレたらきっと、性格が変わると思うんです」
「まあそうだろうの。大金を持てば誰でも変わるものだが、君は変わらぬのかな」
「変わりましたよ。今では小遣い5万円にしてあるぐらいです」
「いやいや、そう言うのは変わったとは言わん。夜遊びなどはしておらんのだろ」
「はい、いつもと同じです」
「ううむ、実に大したものだ。ワシとてそのような大金、平常心を保てるか判らんぞ」
「ネットバンクなのでただの数字に近いです」
「ふむ、そういう理由ならまだ判らんでもないな」
「それでどうでしょう」
「1つだけワシと約束してくれるかの」
「はい」
「良いか、このまま当たり前に過ごすのじゃ。誰にも言わずにの」
「はい、頑張ります」
「うむ、ならば税金の事はワシに全て任せるがいい」
「ありがとうございます」
「それでじゃ。その金、国債にでもしておかんかの」
「その手もありますね」
「むろん、全額とは言わぬが、あらかた長期の国債にでもしておいて、大人になった頃に満期を迎えれば、それからなれば何とかなろう」
「手続きもお願いします」
「なれば入金するだけで良いようにしておくのでな、証書は郵送で良いかの」
「ここにですか」
「ううむ、そこまで信じられるとは心地良いの」
「お願いします」
「うむ、確実にやり遂げようぞ」
「なら、専属1兆円で」
「いやいや、当初の100億もあれば充分じゃて」
「税金は節税しなくていいので、たっぷり抜いてください」
「はっはっはっ、そうさのぅ。まあ、良いようにするのでな、心配は要らぬ」
「お願いします」
そうしてあの弁護士も薄い青のオーラを纏っていたから正直に打ち明けたのだ。
依頼が終わってもその色は変わらず、だから安心して任せている。
そうじゃなければ最初に訪ねた弁護士事務所で、そんなに正直に話せるかよ。
とりあえず、15兆は国債にするとして、残りの兆は税金対策に、億の単位もあらかた税金になるらしい。
実質的に4つの口座には4桁の億を残し、残りの口座は端数口座として、2桁の億に留める感じにするとか。
それと言うのも都市銀の関連もあると言った後、万単位を都市銀に流し、億の分は保険にしたいと言ったらそんな感じになった。
もちろん、税引き後の事だけど。
そして国債の証書も親にバレるのも拙いので、そのまま弁護士さん預かりにしてもらう。




