18 捕食
11月も中旬になり、あの銘柄は今、暴騰の中にある。
毎日毎日、上昇を続けているが、もうじき売りの時期かも知れない。
現在、628倍なんだけど、ここいらで売れば確実に中抜きになる。
つまり、仕手の連中の上前をはねるのなら、今の時期が確実って事だ。
それでも年末の850倍の予測があるから、もう少し引っ張ってみようかと思っていた。
しかし、12月に入って遂に800倍に手が届く。
まだまだ上昇気配と思わせているが、もうリミットだろう。
このままだと仕手の連中の思惑のままに進行するだろうな。
だがそうはならないんだ、悪いんだけど……
週明けからの全力売りを予約して、ここはおとなしく待ちの姿勢。
それはそうと、最近、人のオーラが見える。
なんて言うとますます中二病患者のようだけど、実際、淡い色が見えるのだ。
両親は薄い黄色ってのが情けない。
母親も、父親よりは青が多いけど、黄色があるのはどうにもな。
口で言う程にはオレを信用してないのかも知れない。
どうやら青が安全、黄色が注意、赤が危険となっているようで、ミツヤは薄い青だった。
だからあの、元苛めっ子の赤い色が神経に障ったんだ。
どうやら相当、イラついていたようで、オレを半殺しにでもする気だったんだろう。
全殺しにして悪かったな、クククッ。
中間テストも終わった週末は、ミツヤと都会にお出かけだ。
オレのおごりって事で、映画を見た後でゲーセンに行く事になっている。
どうにもオレのバイトの内容を知りたがるが、まあなぁ。
確かに金遣いは以前とは比べ物にはならんが、それでもそんなに派手に使っている訳じゃない。
普段は買い食いぐらいにしか使ってないんだし……そう思っていたら、どうやら親から金の事が漏れたらしい。
何を余計な事を喋ってんだ、くそったれ。
他人の金の情報を外に流すかよ、信じられん事をするな。
しかも、宝くじと思ってないのに、宝くじが当たっただと? 何のつもりだよ。
「なぁなぁ、本当に3000万も当たったのかよ」
はぁぁ、これだよ、全く、冗談じゃないぞ。
「うちの親も口が軽いな。オレはずっと秘密にしてたってのに」
「けど、良いよな、そんな大金」
「今はもうそんなに無いぞ」
「まあなぁ、オレの300万もそれからなんだろ」
「後は親に600万だ」
「てこた、残り2100万ってか」
「色々使ったからかなり減ってるが、高校の授業料ぐらいは余裕だろうな」
「ああ、オレもそんなのに当たらないかな」
「買わないと当たらないよな」
「うっく、それもそうだったぜ」
「まあいい、とにかく今日はオレのおごりだ。何でも食わせてやるぞ」
「おっしゃー、久しぶりに楽しむぜ」
「ああ、任せとけ」
さあ、小耳に挟んだら仲間を集めろよ。
獲物は多い程、ありがたいものだからな。
ファーストフードで軽く食った後、ゲーセンに行こうかってところで赤い面々が集まりつつある。
さて、ミツヤと別行動するかねぇ。
ちょっと早いけど、補導されるからと早めの帰宅を促す。
だけど、もっと遊びたいミツヤは不服そう。
「ならな、お前に5万渡すから、好きなだけ遊んで来いよ」
「おいおい、いーのかよ」
「余ったら返せよ」
「くっくっくっ、余るかな」
「思いっきり楽しめよ。じゃあまた明日、学校で」
「おう、ありがとよ」
オレはこれから食事だから、お前と別行動になる。
悪いな、クククッ。
どうにも最近、飲めない殺しが続いたもんでな、ここらで飲みたいと思っていたんだ。
オレの大金の話で仲間を集めたんだろうが、オレは獲物が多い程、ありがたいさ。
そのまま港のほうに移動する。
ちゃんとな、都会でも港の近くの映画館にしてあるんだよ。
こういう事も無いとは言えないと、淡い期待が成就して嬉しいさ。
倉庫群の辺りは今は人気も無いが、搬入の頃には賑やかになるんだろうな。
総勢、38人とはまた多いが、どうせ殺るなら皆殺しが理想か。
どうすっかなぁ、さすがに全員を殺したら大事件になっちまうし。
仕方が無い、おにごっこで殺し逃げするか。
後ろの気配が急接近……それに合わせて走り出す。
待てコラと、声を掛けるのが遅いよ君達。
囲めとか回り込めとか叫んでいるけど、オレより足が遅かったら意味が無いよな。
それでも回り込もうとした奴にラリアット。
ボキッと骨の折れる音がする。
そいつを抱えて倉庫の屋根に飛び上がり、全て飲み尽くす。
元々首が折れて瀕死になっていた事もあり、抵抗は全く無かった。
何処に行ったと下で騒いでいるが、獲物はもう戴いたぞ。
ふうっ、美味かったな、クククッ。
また力が沸いて来るな。
飲めば飲む程に力が沸く感じだ。
単独の奴を発見し、そいつの後ろに飛び降りて拉致。
そのまままた屋根に飛び上がる。
こいつも飲んでおこうか。
2匹の雑魚のなれの果ては、倉庫の屋根に横たわったまま。
昼になったらバレちまうかな。
海までは100メートルか、届くかなぁ。
旋回するように投げ飛ばせば、海に届いて沈んでいく。
よし、こいつも投げ捨てよう。
2匹共、海に到達して沈んでいく。
あれは魚に食われたんだよ、クククッ。
さて、帰るとするか。
気配の無い場所に飛び降り、全力で離脱する。
うほ、何かもう、車かバイクに乗っている感じだぞ。
速い速い、とんでもない速度だなこりゃ。
早々に離脱して自販機でジュースを買って、口中を洗ってゴクリ。
うん、名残の味もなかなか良い。
はぁぁ、気分爽快。
もうすっかり意識は人外だな。
しっかし、かれこれ6人か。
帰りの切符を購入し、列車に揺られながら思い返す。
ああ、美味かったな、本当に。
いくら飲んでも飽きない味って言うのかな。
本当はあいつら全員、飲みたかったけどさすがにそれはな。
だから2匹で勘弁してやったんだ。
また、機会があれば、その時はたっぷりと、クククッ。