17 投棄
下着ドロの男に捜査が流れたせいか、周辺から刑事の姿が消えた。
思わぬアクシデントと思ったが、あれは予想以上に効果があった。
あいつには余罪がかなりあり、中には婦女暴行もあったらしい。
つまり、別件で起訴される寸前のような状態だったようで、覚悟の自殺と思われいてそこに偽装の疑いは無い。
まあなぁ、誰が4階の屋上まで飛び上がれるよ。
これも想定外って事なんだろう。
☆
「あれ、本当に宝くじかしら」
「どうしてそう思うんだ」
「だってね、ご近所の奥さんが500万円当たった時でも、周囲からバレたって聞くし」
「それは旦那とか子供からバレたんだろう」
「そうかも知れないけど、そんな大金を換金していたら、絶対に誰かに知られると思わない? 」
「まあ、言われてみればそうだなぁ」
「でも、コーちゃんがそんな嘘を付くとか思いたくないし」
「これは僕の想像だけどね」
「え、何か判るの? 」
「いや、証拠は何も無い。ただの想像だよ」
「それでもいいから聞かせて」
「これは僕の若気の至りの話なんだけどね、中学でも身体が大きかった事もあって、先輩に連れられて競馬に行った事があるんだよ」
「え、じゃあ、もしかして」
「この市には競輪場があるよね」
「ああ、それで、それなら」
「多分、興味だと思うんだ。僕もそうだったからね。そこで偶然に大穴でも当てて、僕達が心配するから宝くじだと言ったんじゃないかと思うんだ」
「だったらこのまま騙されてあげましょうよ」
「うん、それが良いと思うんだ。大人になったらきっと、当時の事を話してくれるから」
「判ったわ、あなた」
「あいつはそこらの子とは違う。大金を得ても不良になったりはしない」
「そうよね、今まで気が付かなかったぐらいですもの」
「だから心配ないさ」
やれやれ、親にバレちまったか。
だが、盗聴器はバレてないみたいだな。
本人が居ない時の内緒話なんでのはな、クラスで体験済みなのだよ。
だからダイニングのコンセントは盗聴器内蔵になっている。
通販で39800円って高いのか安いのかよく分からないけど、それなりに音は拾えている。
それはともかく、黙認のつもりならそれで良いだろう。
商売が巧くいかないようなら追加で貸してやるからよ。
本当はあげても良いんだけどな。
だけど、そうなると依存になりそうでどうにもな。
親に依存されて暮らすなど、どんな人生だよと言いたくなる。
だからあくまでも融資であり、返却されるのを待つことになる。
それに、あげたの場合は贈与税も掛かるしな。
全く、他人の金の動きにイチイチ税金掛けやがってからに。
もらって掛け、売って掛け、買って掛け、貯めて掛けってか。
何度も何度も同じ金に対して税金を掛けやがってよ、いい加減にしろってんだ。
そのうちサラリーマンにでもなれば、天引きしといて更にいくらでも引くんだろ。
なら最初からスッパリと引いて、後は非課税にしろってんだ。
まあいい、オレはそんな生活は嫌だから、何とかするつもりでいるけどな。
取られる以上に稼ぎ、後は弁護士に任せてやればいい。
あいつらはそれが仕事なんだし、良いようにしてくれるだろう。
体育祭でのオレ達は、赤勝て白勝てと応援だけで終わった。
あんなのはやりたい奴だけがやればいいんであって、嫌な者に強制参加とか冗談じゃない。
だから殊更に辞退しまくったんだ。
まあ、友達は少ないし、普段から仲間外れみたいなオレだから、推薦とかも殆ど無かったし。
元苛めっ子が推薦とか言いやがるから、全力で辞退したのは言うまでもない。
そいつは後で軽く……クククッ。
自転車のハンドルがねじれていたのは誰のせいでしょう、クククッ。
ざまあみろってんだ。
まだ何かするようなら、ダンプが踏んだみたいにクシャクシャに丸めてやるさ。
あれ、あいつ、何かまだ用でもあるのかな?
「おい、お前」
「何か用か」
「最近、態度がでかいじゃねぇかよ。今日はあいつもいねぇし、ちょっと来い」
「もういい加減にしてくれんか」
「あんだと、コラ」
「さすがにもう限界なんだ。お前を殺したくない、止まってくれ」
「ふふん、何だそれは。そんなんでオレが止まると思ってんのかよ」
「なら、仕方が無いな。どこにでも連れて行け」
「ふん、思い知らせてやる」
自転車の事でイラついて? オレを痛め付けて発散ですか。
校舎の裏の? 体育倉庫の脇の? ふーん、こんな場所があったのか。
そこの空き缶、もしてしてヤニの関連かな? まあ、関係無いけど。
おいおい、これって何の穴だ。
「ここなら泣こうが叫ぼうが誰も助けには来ねぇからな」
「なら、お前を殺しても誰も来ないか」
「まだ言うのかよ、おらおらおら……ぐぇぇ」
あ、うっかり首を折っちまったな。
やれやれ、手加減が難しいんだから手を出すなよな。
殺したくないと言ったのに、聞かないんだからな、全くもう。
外に一度出し、中に頭から投棄する。
ありゃ元の汲み取りの穴だ。
すっかり乾燥して匂いも無かったが、足を踏み外したらヤバい場所だ。
あいつは穴の中に誤って落ちて、首の骨を折って死んだと。
まあいい、とっとと帰るか。
オレは関係ねぇからな。
うっかり飲んだりしたら、猟奇殺人のほうに分類されそうだし、ここはそのまま放置だ。
しっかし、最近どうにも近くで殺しが発生するな。
手加減を巧く覚えないと、またぞろ殺っちまうぞ。
翌日からそいつは行方不明となり、捜査員の手によって遺体が発見される。
穴の中に誤って転落し、首の骨を折って死亡したという結論になったようだ。
その穴の中にはタバコの吸殻が散乱していて、不良達の溜まり場と判明し、学校の手によって塞がれた。
あいつも不良仲間だった事もあり、一時は他の奴らへの疑惑もあったようだが、そのまま自損で終わったようだ。
ミツヤは相変わらず変な持論を展開していたが、あんまり自ら疑惑を招くような事は言うなよな。