15 目撃
「おい、起きろ」
「うう……何だ……それにこれは、くそ、動かせない」
「ミツヤを犯人と断定したのはお前の過ちだ」
「まさか、お前が……くそっ、だからあんな激しい反応を」
「このまま死ぬのも何だろうし、遺言ぐらいは聞いてやる」
「誰、うぐ……」
「おいおい、誰か助けてくれと言うのを遺言にしたいのか。こんな場所に人が居るはずも無いだろうに、もっと建設的な言動にしろよな」
「お前、妙に手馴れているな」
「それで、遺言を聞かせてくれ」
「くそぅ、どうあっても殺すつもりか。刑事を殺したら罪が重いぐらいは知っているんだろうな」
「ふふん、当然だろうが」
「くそぅ……どうしても無理か」
「諦めるんだな。それで、遺言は? 」
「もう少し待ってくれ」
「嫌だね。だってその手に乗ると緊急配備されちまうだろ」
「何だと……」
「発信機、押したの、知らないと思ったか」
「くそぅぅぅぅ……」
「それが遺言か、さようなら」
「待て、待って……むーむー」
急がないと拙いな。
あれから7分……本部に緊急連絡が行ったとして、ここに来るのに30分とは掛かるまい。
口を塞いで噛み付いてまたもや飲み尽くす。
血は垂れてないはずだが……林の中に引きずり込む。
軽く絞る感じで吸い尽くし、でかい岩を転がしてその下に埋めておく。
数トンはありそうな岩だけど、簡単に動いたな。
さてこの警察手帳をどうするかが問題だ。
手袋ごしだから指紋は問題無いとして、そこらに捨てる訳にもいかん。
後はこの発信機だ。
GPS発信機の場合、ここで壊したら犯行現場と宣伝するようなものだ。
さあ、このまま隣町まで運んで後、適当な場所で壊して捨てるしかあるまい。
処分用の靴もいよいよおさらばになる時が来たな。
そのまま山を下り、下ったところで靴を交換。
予備の靴、2足目といくか。
現場の土の付いた靴をビニール袋に入れて、県道と思しき道を隣の町まで走る。
もう全速全速、それしか考えてない。
途中で学校を発見し、塀を軽く飛び越えて焼却炉。
処分する靴を投入し、ラストの靴に履き替えて履いている靴も捨てる。
さあ、逃げろや逃げろだ。
おや、ここって女子高か。
よしよし、ならば女子寮に発信機を投入してやろう。
待てよ、屋上まで飛び上がれないか?
全力でジャンプすると、何とか手が届く。
うへぇ、化け物だな、こりゃ。
4階建ての寮の屋上に手が届くとか、あり得ないだろ。
そのまま屋上によじ登り、そこらに発信機を転がしておく。
やれやれ、後はこいつを……うげ、見られた。
「ごめんね」
「え、何、君」
「さようなら」
屋上で何をしていたのかは知らんが、見られたからには仕方が無い。
そこらに落ちていたロープで首を絞めて殺し、靴を脱がして揃えて置く。
その上に警察手帳を置いて、ロープの端を固定して、そいつを静かに階下に垂らす。
これで自殺の偽装になるとは思うが、どうなるかな。
しっかし、これ、飛び降りで死なないよな。
えいやっ……うほ、やれやれ、ちょっと怖かったけど、思ったよりは楽だったな。
さて、後は帰るだけだ。
あーあ、オレも凶悪犯になっちまったな。
別の学校で残りの靴とリュックを焼却炉に投入し、持っていたベンジンをぶちまけて火を付ける。
それに使ったマッチも捨て、手袋も投入しておく。
残ったのは靴底の模様の違う靴。
さて、自宅まで、ちょいと遠回りして帰りますかね。
あの山を迂回するように、大回りして帰る。
ちょうどサイクリングコースがある、河川敷を経由するコース。
まだまだ時刻は早いからと、河川敷という事もあって全力で疾走する。
風がやけに強いな。
ふと横を見ると、車を追い越しているぞ。
おいおい、こんな早朝の時刻の車って、70キロぐらい出してないか?
それを抜く? あり得ないだろ。
それでも時間との勝負だと、更に速度を上げていく。
汗だくになりはしたものの、見覚えのある町並みが見えてくる。
そのまま近所まで走り、ペースを落として家に辿り付く。
はぁぁ、アクシデントがあったけど、何とか終わったか。
致命的なアクシデントだったけどな。
余計な殺しと証拠隠滅が加わったけど、結果オーライと言えなくもない。
ただ、無差別が加わったけど、どのみち殺しは殺し、関係無いか。
ごめんな、名も知らぬ女の子。