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さすらいの魔皇子2   作者: 黒田明人
中3 2学期
12/119

12 検証

 


 翌日の早朝、恒例のマラソン。


 処分品を持って家を出る。

 血の付いたハンカチは細切れにして、串もいくつかに折ってまとめて土手の片隅で焼く。

 ベンジンを沁み込ませた新聞紙を使ったせいか、すぐに燃え上がってほどなく燃え尽きた。

 穴を掘ってそれを埋めて、ランニングを開始する。


 それにしても、実に爽快な気分だ。

 朝の目覚めからして違う。

 目覚まし無しで4時に目覚めた時はびっくりしたぞ。

 確かにオレの目覚ましは親にバレないように枕の下で音が鳴る。

 なのにそれが鳴る前に目覚めるなど、早朝マラソンを初めて初の現象と言っていい。


 それもしっかりと目が冴えている。


 普段なら洗顔して目を覚ますところが、そんな必要すら感じない。

 調子が良さそうなので、隣町まで少し本気走りをしたくなる。

 とは言うものの、あくまでもマラソンのような長距離を意識した走り。

 なんだか、妙に速度が速いような気がするが、無理している感じじゃない。

 隣町に到着して時計を見るも、5時前? あれ、何だこれ。


 あれから1時間掛かってない?


 ここまでざっと40キロはあるんだぞ。

 オレは車かよ、あり得ないだろ。

 こうなったらもっと試してやる。

 この先の峠までは約20キロで、かなり勾配がきつい。

 全力で登坂してやろうと、陸上競技のように身構えて、時計を見てスタート。


 グングン速度が上がっていく。


 まるで自転車で立ち漕ぎをしている気分だが、そこまで苦しくは無い。

 風を感じて……本当に自転車に乗っている気分だな。

 きついはずの登り坂なのに、自転車で下っているかのような体感速度。

 20分で到達した……おいおい、マジかよ。


 しかも、まだまだ余裕がある感じだ。


 なんかさぁ、こういうのってさぁ……まるで吸血鬼だな。

 あーあ、オレ、本気でそうなのかよ。

 この検証結果で、どうにも現実逃避がやれそうにないぞ。


 帰りはのんびりと下り、そのまま自分の町までのんびりと帰る。

 検証結果がとんでもなかったので、半分呆然としながらだったが、それでも帰宅したのが7時過ぎ。

 家に戻るとおはようの挨拶の後、今日からはもう二度寝は我慢しようと思ったと、そのままシャワーを浴びる事にした。

 母親は良い傾向ねと機嫌良く、朝食の準備に余念が無い。

 シャワー中なのにそういう景色が頭に浮かぶのだ。

 そのまま部屋でのんびりしていたつもりだけど、やっぱり今日の事で呆然としていたみたいだ。

 どうやらそろそろ登校の時刻……時間忘れてたな。


「コーちゃん……あら、起きてたのね」

「うん」

「もうすぐ8時よ。母さんは仕事に行くから鍵をお願いね」

「うん、いってらっしゃい」


 母親が出かけたのを見送り、置いてある朝食を食べる。

 昨日の感覚を思い出し、恐る恐る口にするが、昨日のような事はなく、普通に味を感じて安心する。


 あれはもしかすると……


 罪悪感なんて全く感じなかったし、冷静に行動出来たはずだったが、心の奥底ではダメージになっていたのかも知れない。

 だからあれはもしかすると殺人の後遺症のようなもので、だから味覚がおかしくなっていたのだと推察する。

 それにしても、あれは本当に美味かったな。

 自分の血もそうなのかと、少し切って舐めてみる。


 美味い、やっぱり美味いぞこれ。


 参ったな……オレって吸血鬼だったのか。

 いやはや、そんな事とは露知らず、15年間当たり前に過ごしてきたが、こうなると生活が一変しそうで拙いぞ。

 これは相当に気を付けないと、その道に走ってしまいそうだ。

 しかしな、これは気を付けて防げるものなのか?

 あの美味さだろ? あれをやらない? 飢えに耐えるようなものじゃないのか?

 確かに冷静に考えれば血液の入手は可能だ。

 もちろん裏での購入になるが、献血という事業がある以上、それを買えるシステムもあるはずなのである。

 しかしな、この年齢でそれはちょっと無理があるだろう。

 となると、今はひたすら耐えるしかないんだけど、果たしてやれるのか? 


 自信が無いぞ。


 しかし本当に参ったな……まるで中二病患者のようだぞ。

 クラスの中でもそいつに感染した奴が何人かはいるのだが、あれは恐らく黒歴史になるのだろうと思っている。

 そんな状況でオレも始めたりしたら、同類と思われるだけだ。


 い、嫌だ、そんなのは。


 それはともかく、あれは本当に美味かったが、そう何度も繰り返しては、何時かは発覚してしまうだろう。

 それを防ぐにはやはり購入するしか方法が無いような気がする。

 それはそれとして、あれからあの路地裏は自分の中では鬼門となり、二度と立ち入らないと心に決めた。


 犯罪者は犯行現場に舞い戻る。


 そんなフレーズが頭に浮かべば、もう行く気にはなれない。

 罪悪感は全く無いが、あれでも犯罪は犯罪だ。

 数日後に警察がうろうろしていた。

 現場検証の結果は知らないが、特定されたら諦めるしかあるまい。

 まあ、失血死だから猟奇殺人になるのかな。


 ああ、あれは本当に……はぁぁ、参ったな。



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