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さすらいの魔皇子2   作者: 黒田明人
中3 2学期
11/119

11 致死

 


 夏休みも終わり、宿題を提出する。


 自由研究は例年の通り、雲のスケッチという、まともに書いたのかデタラメなのか分からない代物だ。

 まあ、適当に描いたんだけどな。

 その日の天気で雨やら曇りの日以外は適当に描き、雨も曇りも一面グレーで終わる話。

 恐らく、先生はデタラメだとは思っているだろうけど、毎年の事だから諦めていると思いたい。


「お前、例の内職とか、あれからもやったのか」

「あれは疲れるからなぁ」

「そんなに疲れるのか」

「とにかく、精神疲労がとんでもないんだよ。終わったら即座にベッドだな」

「ふぇぇ、だからそんなに稼げるのか」

「前にも言ったと思うけど、毎日やったらきっと死ぬね」

「やっぱそうなのかよ。慣れたらとか思ったんだけどよ」

「いーや、あれは無理だろ」

「きついなそれは」


 買い食いは各自で払うのが暗黙の決まり。

 ミツヤにもプライドはあるのと、なるべく対等な関係で居たいのでそうなっている。

 オレもそうだけど、ミツヤも串の駄菓子が好物だ。

 イカゲソやらトンカツもどきなど、品は変えるが串は毎日だ。

 そして爪楊枝代わりに咥えて、人呼んで……げふんげふん。


 まあ、そんな訳で、それぞれに食べながらミツヤとの別れ道まで一緒に帰る。


 交差点でまた明日なと別れた後、食った串を懐に挿す。

 どうにも視線を感じると言うか……しかし、オレもそういうのに何故か敏感と言うか。

 昔からそうなんだけど、そういう視線とか気配とかにやけに敏感なのだ。

 更に言うならその視線の主と思しき、ちょいと下手な尾行まで付いている。

 後ろの事は見えないはずなのに、頭の中に映像のようにぼんやり浮かぶのだ。


 曲がり角で再度確認し、人気の無い道を歩く。

 どうにも付いて来るな、こいつ。

 ここが近道なのでいつも通っているが、今回は失敗したかも知れない。

 しかし、何だってオレに来るんだ。


 まさか……いや、しかし。


 でもあれの内偵なら……だが、早過ぎるだろ、いくら何でも。

 そんな金額と相手の年齢とか、事が起こってから調査するもんだろ。

 まだ投資の段階での内偵とか、何かの材料でも無い限り……拙いな、これは。

 倉庫と倉庫に挟まれた路地裏に差し掛かった時、後ろの気配が急速に近づいて来る。


 串を手にして身構える。


 手が肩に掛かるのが何となく見え、避けて振り向けばたたらを踏んだ男。

 金を出せという単純な言葉に、少し安堵したオレがいた。

 さすがに1千億の資金での株取引だ。

 申告をしなくては脱税になる。

 こんな若造がそんな事をしているとなると、大抵の大人は犯罪に結び付けて考える。

 だからその内偵か何かかと思ったのだ。


 だがそれなら反撃しても構うまい。


 金は払えないと突っぱねると、胸倉を掴んで脅してくる。

 こういう奴は生かしておけないと思うのだが、この法治国家での殺しは拙い。

 だけどここは人気の無い裏路地。

 過剰防衛になるかも知れないが、やるだけやってみようと覚悟した。

 串を首にグサリと刺せば、派手な悲鳴をあげやがるから靴を脱いで口に押し込む。


 串に唾液が付いているから拙いかと、抜いて舐めて……あれ、なんだこれ。

 血液と言うのは鉄さびの味だと、今まで読んできた小説ではそうなっていた。

 サイトなんかでもそんな味だとなっていたので、今まで舐めた事すらも無かったが、なんでこんなに美味いんだ。

 興味から首から流れる血を指で掬って舐めてみる。


 やはり美味い。


 それどころかもう欲しくて堪らない。

 暴れるそいつを組み敷いて、首に噛み付いて夢中で飲む。

 堪らない美味さ、極上の味。

 行きつけの料理も美味いが、これは次元が違う。

 陶酔と言うのか何と言うのか。


 もっとだ、もっと……ああ、これは……至福というか、ああ、もっとくれ……もう夢中になって飲み尽くした。


 気が付くとチンピラの意識が無い。

 心音も聞こえない。

 はぁぁ、殺っちまったのか。

 証拠物件を回収し、首と口をハンカチで拭う。


 こいつは焼却だな。


 泥汚れを払い落として路地裏を抜ける。

 周囲に気配無し……やれやれ、参ったな。

 まさか15才にして殺人を経験するとは。

 それにしても意外と罪悪感が無いものだな。

 もっと色々と考えるものだと思っていたが、意外とサッパリした気分だ。

 それに今まであった倦怠感が消えている。

 あの予測をするたびに少しずつ、まるで澱のように溜まっていたあの倦怠感。


 あれがスッパリ消えて実に爽快な気分だ。


 自販でジュースを買って口中の血を洗い流し、余韻にも似た気分を味わいながら家に帰る。

 途中で靴屋に寄って履き慣れたいつもの靴と靴底の模様の違う靴を購入する。

 なるべく履き慣れた靴と外見が同じで靴底の模様が違う、そんな靴を3足購入した。

 履き慣れていて買い置きまでしていたあの靴だけど、こいつとそいつは処分する必要がある。

 口に押し込んだせいで恐らく歯型と唾液は付着しているはずであり、現場には足跡も残っているはずだし、そんなのを何時までも履いているのは拙い。


 家に帰って玄関で靴を脱いで、新たに買った靴をそこに置く。


 部屋で予備の靴と履いていた靴をビニール袋に入れておく。

 こいつは処分しないとな。

 部屋にとりあえず証拠物件を置いた後、シャワーを浴びて夕食を食べるが、味が判らない。

 美味いはずなのに、まるで安物の出来合いの惣菜のような味がする。

 おかしいな……だけど美味しかったと答えて部屋に戻る。


 どうなったんだ、オレの舌。



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