106 渡米
語学旅行の途中でシルフの連中は別行動となり、どうやら回避が巧く行った事を知る。
しかし、シルフの連中の意識は既に一般人のものとなっており、どうにも交流が巧く進まなかった様子。
だがそこに調整が入り、あたかも順調に進んだかのようになっていた。
ふん、やろうと思えばやれるのに、変にオレに噛ませようとしやがって。
こうやって横から見ていれば良く分かるぜ、そのサボりようがな。
クラスの奴らに【通針】を付けておいたから、大抵の状況は読めてるぜ。
今のオレじゃ上の存在に使えばバレるのは確実、だから下の存在専用スキルでしかないが、そのうちもっと精進して誰にも気付けないスキルにしたいものだぜ。
あからさまに意識が変わるんだもんな。
あんな調整加えられるのに、今までは放置してたんだろ。
どんな協定、結んでいたのかは知らんが、舐めた話だよな。
それはそうと、皆は語学学習とばかりに色々な会話をやってるが、オレはひたすら無言で通している。
と言うか、途中で居なくなる訳で……
(青山は何処に行った……知りません……石田は……さあ……おい、お前ら、グループだろ……そうは言っても行き先とか聞いてないし……あ、あそこに居ます……なんだ、そこに居たのか。おい、青山、石田……はい……はい……お前らも何か会話しろ……はい……はい……)
ああ、イエスマンになってんな。
《いかん、ちょっと設定ミスった……くっくっくっ、まるでロボットだぜ……言われた事しかやらないから、ありゃ先生も困るだろうぜ……それで?……もちろん、独自に遊ぶのさ……何処に行こうかな……やっぱベガスだろ……くっくっくっ、いいねぇ》
スーツにミラサンで遊びに行き、散々稼いだのは良いが、換金不可能な額になっちまい、カジノとの交渉の結果、ギリギリの額で諦める事になる。
そんなのを軒並みやっていると、入場禁止になっちまい、変装して荒稼ぎをしていたオレ達は、何度も顔を変えていくうちに、すっかり寂れて……
《何かよ、客が減ってねぇか……そりゃもう金が無いからだろ……どんだけ稼いだんだよ……億ドルは間違いないな……くっくっくっ》
全米を対象としたカジノ荒しの結果、派手な額になった【倉庫】の中。
その金を使って2人で散々買い物をする。
【暗示】を駆使するから買えない品は無く、ミツヤは武器弾薬に食指を伸ばし、オレは宇宙服をいくつか購入する。
備品も色々買った後、ミツヤの真似して武器を買ってみたりした。
後はミツヤはでかいバイクにも食指を伸ばし、オレは自転車のほうに興味を持ち、レース用のアレコレと共にレーサーをいくつか購入する。
そういうのを1週間もやっていれば、さしもの億ドルの儲けも半分ぐらいになったものの、全てを消すには至らなかった。
「どれぐらい残ってんだ」
「ざっと238億ドルだな」
「まだそんなにあんのかよ」
「減らないもんだな、意外と」
「戦車もう1台買おうかな」
「対戦車ミサイルもう1基買おうかな」
「何かよ、何でも買えるってのも面白いけどよ、後でヤバくならねぇのか、これ」
「さあな、どっかの責任者が横流しした事になるかもな」
「ヤベぇな」
「さて、最後に何か買って終わりにするか」
「うし、ならよ、腕時計とかどうだよ」
「お、ペアで買うか」
「くっくっくっ、良いかも」
かくして高級腕時計を揃って購入の後、調子に乗ってまたしても買占めに走り、かなりの散財の後、何食わぬ顔をして合流したのである。
「しっかし、これ、チョイと派手だったかな」
「妙にキラキラしてんな」
「内側に回しとこ」
「女みたいだぞ」
「うげっ」
そうして帰りの免税店でも【暗示】全開で……
「それ、全部。ああこれも全てだ」
「畏まりました」
「在庫も全部出せよ」
「承知致しました」
誰にも気付かれずに免税店の品を買い占めていくオレ達。
全て【倉庫】に入っていく品々。
今後の保険に10ドル札の束をそれぞれ5つずつは残し、残りはキレイサッパリ使い切ろうと、散々買いまくった2人だった。
「もう在庫が無いとよ」
「しゃあねぇな、後は成田だ」
「くっくっくっ」
【暗示】攻撃の後、そこらの客が騒いでいたが、買物は先手必勝だぜ、クククッ。
けど、タバコと酒がやけに多かったな。
どちらも嗜まないから不要なんだけど、酒はミツヤが飲むのかな。
まあいいや、【倉庫】の肥やしで。
結局、オレ達、まともな参加はしてないな。
シルフの連中はすっかり元に戻ったようで、他のグループと少し疎遠になっていた。
なので自然と残りの2グループは共同戦線となって、シルフ不利な状況になっている。
下手に調整を解くからそう言う事になるんだよ。
どうせ解くなら残りの2つも解かないと、そうなる罠のような調整だしな。
まあ、好きに慌ててろよ。
帰りの航空機の中、赤っぽい奴が不審なので、さっき店で買ったタオルを丸めて【転送】してやる。
何かの行動を起こそうとした彼は、急激な胃痛にそれどころじゃなくなり、脂汗を流してうめいていた。
高吸収タオルとか書いてたけど、胃酸を目一杯吸収したのかな。
ああ、タグがこすれて痛いのか?
悪かったな、価格付いてたタグを外すの忘れてたよ。
あれって安全ピンで付けてたんだよな。
ピンが外れたら終わりだけど、まあ外れる事はあるまい。
どうにも辛そうだな。
よし、薬を【転送】してやろうな。
かつてあちこちの事務所からせしめた白い粉の、包みに切り目を入れて送ったが、トロリとした目付きになって痛みが緩和したようで何よりだ。
ただ、何かをしようとしたのも忘れているようで、そのままふわふわとした感覚を楽しんでいるようでもある。
あれ、動かなくなったぞ。
ああ、胃の傷から直接吸収されたのか……なむなむ。
粉が溶けて大量に血中に溶け込んだらしく、ショック症状みたいになったらしい。
まあ、何がしたかったのかは知らんが、今はもうオーラの色は無い。
危険は去ったと言う事で、少し寝るか。
(おかしいのぅ、ハイジャックが起こらぬの……また調整せねばならぬかの。どうにも巧く進まぬが、どうなっておるのじゃ)
☆
ちっ、干渉波かよ。
オレとミツヤに【散乱】
さあ、周囲の奴らに多重に効いて、大騒ぎになるぞ。
結局、ハイジャックは未遂って調整のようだったが、周囲の奴らは既遂のように思い込み、すっかり被害者のようになっていた。
(おかしいのぅ、干渉波が効き過ぎておるの。どうにも調整が巧く効かぬが、またぞろ何かの企みかの)
しかし何だな。
下手に反射するよりこうして乱反射させたほうが、施工者にとってはダメージになるんだな。
このスキル、意外と効果が高かったな。
さて、次はどんなスキルの開発をしようかねぇ。
「もうピストルをバンバン撃って」
「いや、そんな形跡は」
「ナイフを振り回して」
「どうにも証言が一致しないが、どうなっている」
ちなみにそんな被害者もどきは放置して、またしても2人で買い占めに走っていた。
どのみち被害者もどきに皆の意識が流れているから、【暗示】攻撃で品はドンドン【倉庫】に入っていく。
散々入れた後、ふとある事に気付き、2人して少し慌てていた。
「なあ、コージ、金払ったか? 」
「あ、忘れていた」
「どうすんだよ」
「バレたら払おうぜ」
「くっくっくっ」




