105 奇策
期末テストが派手な結果となり、いよいよ夏休みの到来も間近に迫った頃、かねてより申し込みが成されていた旅行の……だからさ、聞いてねぇよ。
どうやら眠り子をやってた途中で決まった事らしく、オレは何も言ってないのに参加って事にされていた。
SSSの特典みたいなのを勝手に決められていて、経費での参加で費用は援助って……頼んでねぇよ、そんな事。
「お前ら、大したもんだぞ。まさかトップタイ5とはな」
皆のストレスがごっこ遊びで発散になったのか、全員満点でトップタイが5人って結果になっちまい、2位が居なくていきなり6位なんて事になっていた。
皆の意欲を沸かせる為か、毎回張り出される結果発表だが、オレ達の名前がつらつらと並び、その横に全員『1』と書いてあるんだもんな。
「うしっ、挽回したぜっ」
「必死でやった甲斐があったよ」
「燃えたぜ」
「忘れてた」
「同じく」
《何かよ、あの魔族の血ってよ、知能も向上してねぇか?……そりゃ何でも強化だからな……それでかよ、テスト忘れてたってのに、教科書見たらスラスラと頭に入ってよ……パソコンに成り切るんだ……そうか、これがコージの。うしっ》
どうやら旅行先は米国らしいが、現地で生きた言語学習と言われてもな。
ちなみに2年は北欧で、3年は南欧らしいけどさ。
これで修学旅行は別にあるとか言われても困るんだが、どんだけ旅行好きなんだよ。
どうやら3年の南欧というのが修学旅行を兼ねているらしく、長期の旅行になっているらしい。
まあ、長期と言っても3週間らしいが、それでもそこらのツアーよりは長い旅行だろう。
1年は10日、2年は2週間ときて、3年で3週間な旅。
そんなのに毎回付き合わされるのは嫌なんだし、何とかならないものかな。
「それは無理だぞ」
「だって申し込みしてないし」
「お前、招待なんだから素直に受けろ」
「参加も自由じゃないの? 特典で」
「それを言われるとな。しかしもう人数で申し込みをしているからな」
「看板に偽りありだ、この特典」
「どうしても嫌なら学長に直接談判するしかないが、そうなると違約金がな」
「談判してきます」
何だ、金で済む事かよ。
「違約金を払ってまで行きたくないと言うのかの」
「ええ、いくらですか」
「ううむ、これは弱ったの」
「いくらなんですか」
「それがの、先方にもう伝えてあるのでなの」
「違約金」
「何とか行ってはもらえんかの」
「他の生徒なら違約金で済むんですよね」
「どうしてもと言うならの、全員の旅行費用じゃ」
「そこまでして渡米させる目的が、何かあるんですね」
「ただの親善じゃ」
【催眠調査誘導】
うげぇぇ、またシナリオかよ。
シルフ米国部隊との交流って、どうなってんだよこれは。
対米戦略? グレムリンの動向? いい加減にしてくれよ。
何でオレがそんなスパイごっこに付き合わないといけないんだ。
しかもオレだけ途中で別行動にされて、米軍の中の人員との秘密裏の交流って、バレたらヤバいだろ。
これをどういう風にかわすかが問題だな。
一番良いのは旅行自体を無くす事だけど、まさかなぁ。
手段を選ばなければ、方法は確かにいくらでもあるけど。
さすがにあんまり派手な事はやりたくないし。
となると、柳の下作戦でも使うか。
☆
諦めたと見せかけて旅行の日まで静かに過ごし、いよいよフライト寸前にコックピットが騒がしくなる。
軽く【幻影】を【転送】してみたんだけど、予想以上の効果があったようだ。
え、何の幻影だって?
サイトで見た事のあるゲームの一場面なんだけど、スプラッタな死体がうろついて、それをマシンガンで粉砕するようなゲーム。
そのスプラッタな死体の幻影を投影してみたんだ。
定刻になっても航空機は動かず、皆はざわざわと……
そのうち人員交代になったようで、真っ青な顔のパイロットが搬出されて、交代要員が入ってくる。
ううむ、そんなに刺激が強かったか。
悪い事をしちまったな。
でもそんなメンタルじゃモンスターハントは到底、やれそうにないな。
オレにはあんなもの、特に何とも思わなかったけど、そんなにきつかったかねぇ。
まあ、あっちでモンスター狩りを散々やってれば、あんなのただの子供騙しに過ぎないさ。
てかさ、スプラッタな死体とか、バットで粉砕して回っても良いぐらいだぞ。
わざわざ飛び道具を使う意味が分からないぐらいだ。
ともかく、可哀想なので交代要員にはもう送らず、次善の手を使う事にした。
砂糖【転送】
あああ、エンジンが焼き付いたな。
ううむ、これもちょっときつかったかな。
いくら14パーセントの株主でも、これはバレるとヤバそうだ。
☆
エンジントラブルで航空機は修理となり、出発時刻は既に数時間も過ぎている。
なので出発が翌日になり、急遽皆は最寄のホテルに泊まる事になった。
それというのもスケジュールに乱れが生じ、後回しみたいになったからだ。
大体、夏休みの旅行とかだだでさえ過密スケジュールなのに、こんなトラブルとかヤバかったな。
普通なら航空機の交換で済むところが、他のツアーなんかと絡み合ってどうしようもなかったとか。
しかしどうしても中止にはならないようだな。
早朝、始発1時間前に、少し離れた海上に向けて【暴風】
にわかな天候悪化で始発便が遅れそうな感じになってきて【乱風】
欠航になりそうな感じになってきて【暴風】
完全に欠航になった瞬間だった。
よーし、明日も頑張るぞ。
《傍迷惑じゃぞ》
バレたらしい。
《何だよ、あのシナリオは……仕方が無かろう……どうせマイナーシナリオだろ。そんなの破綻しても誰も不思議に思わねぇよ……そうなのかの?……もしかして、騙されてない?……おかしいのぅ、破綻したら殆どの者が拒絶すると言われたのじゃがの……大体さ、斉藤さんの記憶ライブラリにこの世界の情報が無い時点でおかしいだろ。殆どの人が知ってるなら、誰だって知ってる話になるよな……そう言えば聞かぬ話とは思うたが……そこらの人間捕まえて、仮想的に破綻させてみなよ。それで拒絶があるなら正解、無ければ嘘だ……うむ、無難なところで試してみるかの……世界は成るようにしか成らないって路線で良いだろ……それは検証次第じゃ……じゃあもうしないから……うむ、頼むぞぃ》
ちょっと遊び過ぎたかな。
(管理官よ、どうなっておるのじゃ。破綻即拒否のはずでは無かったのかの……申し訳無い。どうやら別の世界の話とごっちゃになっていたようだ……それなれば早急に訂正すべきではないかの……なれど殊更に破綻させる事もあるまいと思い、そのままにしておった次第……おかげでこちらは色々と対変な事になっておるのじゃ……それは申し訳なかったな……それだけかの……仕方なかろう。なればどうせよと申される……もう少し言い様と言うものがあろう……なれば提訴なり何なりすれば良かろう……どうにもならぬの……話はそれだけか、なら、切るぞ……好きにせい)
こっそり聞いていたら派手に偉そうな相手だな。
恐らく無理だろうけど、意趣返しはしないと気が済まないぞ。
【探査】持ち世界の……何か無いかな……お、こいつを……ここに【幻影】
お、お、お、あちこちに歪みが発生して、これは行ったかな。
☆
ある世界では今、全世界の存在が注目して、英雄と姫の結婚式の様子を中継で見ていた。
そうしたところが急に英雄が暴れだし、なんと最愛のはずの姫を斬り殺してしまったのだ。
世界中の人々はあり得ない事態に騒然となり、それぞれの無意識は現実を拒絶して大騒ぎとなり、世界の安定度は急速に下がっていく。
空間に歪みがあちこちに発生し、このままでは界滅の危機と、管理官はそれに掛かり切りとなる。
よし、今だ【転送転送】
いきなり違う空間に飛ばされた管理官は、場所確定すると共に愕然とする。
そして元に戻ろうと散々努力の結果、ようやく戻った時には全てが終わっていた。
世界の破滅……界滅である。
いかに管理官と言えども、世界を破滅させてはタダでは済まない。
早速、調査隊が送られて情報収集の結果、何者かの攻撃を受けた事が判明。
しかしその特定には至らず……と言うのもどうやら上の存在ではないようで、超越者の攻撃らしいとまでは分かったものの、上の存在ではなければ処罰の対象から外れる為、調査はそこで終わりとなり、界滅の罪で管理官はその任から外される事となる。
管理官は個人的に意趣返しをしようとその特定に努めるも、その行為が違反となるのを忘れていて、調査終了で移動しようとしていた調査隊の目に留まる。
なので追加の罪を受ける羽目となり、禁固1500年の刑に処される事となった。
もちろん、転移系のスキルで脱獄は可能だが、それをすると消滅罪の適用もある重い罪になると、意趣返しもやれないままになってしまった。
☆
《とんでもないのぅ……あら、バレてたのね……まさかあのような手を使うとはの……上じゃやれない方法だろ……それはそうじゃがの……相手のほうが確実に強いからな、ゲリラするしか勝てないだろ……犠牲多数じゃがの……そんなの知るかよ。他人とかどうでもいいし……ううむ、それはさすがにの……そうか、ならいい……どうするのじゃ……消えるのさ……待て、早まるでない……この身体は置いていく。だから問題無いだろ……しかしそれは……誰か役者を入れればいいだけだろ。毎回毎回、超越者に何を注文してやがる。いい加減にしろよな……ワシが甘えておったのじゃの》
あーあ、もう嫌になっちまったぜ。
そもそも、最初に除外すると言っときながら、忘れたかのようにドンドン混ぜてきやがって。
こっちが我慢してたらいくらでも言って、シナリオ中心に持っていこうとして、意趣返しの結果がどうだって?
嫌なら攻撃をしなけりゃ良いだけだろ。
相手が強いからああするしか無かったと言うのに、やり方が拙い? 知った事か。
弱者はじっと耐えてろとでも言うのかよ。
《ミツヤ、オレ、消えたいんだけど、お前どうする……やっとその気になったかよ……うえっ?……なんか以前と比べて気力ってのかな、そういうのが失せてたからよ、飽きたのかなと思っててよ……いやな、シナリオから除外すると言ってたのに、そんな約束忘れたかのような仕打ち。んで、犯人に意趣返しをしたらやり方が拙いとかクレームだ。相手は強大な相手となれば、奇襲で倒すしかないってのに、文句付けられても知るかってんだ……相当、ストレスになってんな。おし、オレも行くぜ……さて、何処の世界に行こうかねぇ……待て、早まるでない……煩いよ》
☆
さしもの斉藤さんも慌てているようで、【地域調整】の餌食だぜ。
石田からミツヤの存在が消え、青山から高次の存在が消える。
そして管財人の立場も消え、オレ達は天涯孤独な2人として、新たにそこに据えられる。
☆
《面白いから黙っててやるが、どうしても困った時には助けてもらうぞ……へいへい》
どうやら熟練俯瞰さんにはかわされたようだ。
当事者じゃないとまだ無理か。
でも、なるべく長持ちしてくれよ、斉藤さんのフタよ。
「何かよ、スッキリとした気分だぜ」
「ああ、もう何もしがらみが無いって最高」
「どれぐらいかな」
「何とか卒業までいけたら満足なんだが」
「相手は相当の熟練だし、長期はやっぱ無理かよ」
「今のオレでは保って数年ってとこだろ」
「バレたら今度こそ世界を出ても良いぜ」
「ああ、そん時は一緒に行こうぜ」
「くっくっくっ」




