104 調整
ページ削減の為に4000万袋の塊を4つにして4枠に収めていた月の友。
それを1つそっくり送ったんだけど、それと言うのも数千人とか聞かされての事だ。
24枚入りの袋が4000万だから、9億4000万枚って事になる。
それなら1万人居ても94000日いける事になるから、250年は余裕でいけるって事になる。
また3年以内に送ってやれば、いくら使っても余裕だろう。
てか、それをバラして交易品にしたほうが早くないか?
高分子吸収シートとか、再現しなくても送れば良いだけの話だし。
まあ、ちょっとインチキだけどな。
それはそれとして、またしても日常が戻ってきたと思っていたんだけど、どうにも図書館で視線を感じるようになった。
例の姫さんの視線である。
ミツヤの冗談が本当になったんじゃないかと、ちょっと戦々恐々としてんだけど、はっきり言っておかないとな。
あんなピンク色のオーラとか、絶対そうだろ。
「あのさ」
「え、な、何の用かしら」
「オレ、相手が居るんだ。だから諦めてくれ」
「え、何のお話かしら」
「勘違いか、悪かったな」
「い、いえ、別に」
なんだ、なら何の視線だったんだ。
どうにも妙な……あれ、ピンク色が妙に黄色くなっていくぞ。
おっかしいな、てっきり合ってると思ったのに、まだまだ浅いって事か。
しかし、オレの後ろには誰も……あれ、あいつか?
なんだ、オレに向けた視線じゃ無かったのか。
よしよし、ならそういう事で、オレはこっちに席を替わってと。
あれ、またこっち見てるな。
おっかしいな、色が黄色くなったのに、こっちを見るのは変わらないのか。
どうなってんだよこれは。
仕方が無い、ちょっと調査してみるか。
対象固定【調査】
うぐ、何だこれ、嘘、だろ、うえっ、何でそんな発想に、いかん、これは【切断】
はぁはぁはぁ……
あれは、多分、だが、そんなの、何で、そんな、しかし。
はぁぁ、いきなりだから混乱しちまったぜ。
あれが噂に聞く、恋する乙女の思考回路ってやつか。
脈絡の無い事柄を思い込みで結び付けて、だからすっかりオレはミツヤの恋人みたいに思われて。
なんだよそれは、佳代さんの同類かよ、あいつはよ。
やれやれ、まさか桜崎の姫さんも腐女子とはな。
そう言う事なら佳代さんに聞いてみれば分かるかもな。
同行の士なら横の繋がりもあるだろうし、それならそれで。
「えっ、桜崎の姫さん? 知ってるわよ。通称、姫巫女」
「何で姫巫女になるんだ」
「あの子ね、アタシのファンて言うか、まあ、隠れファンかな。大っぴらには言えないって言ってたし。それでね、いつもあの子って巫女さんの格好をして。まあ、家がそうなんだけどさ、だから誰ともなしに姫巫女って言い出してさ」
「あれ、神社の娘? 」
「あくまでも親の職業みたい。祖父が当主で親は神主らしいから」
「そうなんだ」
「え、何かあるの? 」
「見合いして振られた」
「あははははっ、けど、合わないでしょ」
「ああ、庶民にはちょっとね」
「うん、コージ君ってあの手の子、苦手だと思ったのよ」
「良家の子女とか勘弁して欲しいよ」
「で、ミツヤ君一筋で? 」
「それは話の中だけにしておいてよね」
「ソージとカツヤで良いよね」
「うぐ、そ、それはいくら何でも」
「顔もかなり変えてるし、良いじゃない」
「連想の仕様が無い名前にしてよ、せめて」
「いやね、似た名前じゃないとさ、イマジネーションが沸かないと言うかさ」
「はぁぁ、さいですか」
「だからお願いね」
「はぅぅぅ」
☆
サイトでその手の検索をかけてみると、確かに顔はかなり変えてあったけどさ。
『ソージとカツヤの危険な関係』
これは何だぁぁぁぁぁ。
いかん、危険な扉を開こうとしている。
これを見たら色々と終わるように気がする。
でも、あの思考回路を理解する為には……【表層】
よし、オレは裡から監査するからな、頼むぞ、表層。
うわぁ、染まっていく、染まっていく。
これはやはり危険な扉だな。
ううむ、確かにこの状態でなら理解は無理でも推測は可能だな。
いかん、限界だ……【切断】
はぁぁ、酷いもんだな。
あれが腐女子の思考回路か。
すっかり表層が染まっちまって、あっちの思考になって。
けど、大体の事は分かったな。
意味は分からないけど、どうやらあの女のプライドを刺激したようで、あの会話が拙かったのは分かった。
しまったな、会話する前に色々調べておくんだったな。
魔族生活数千年だしな、人間の思考回路は通常は分かっても特殊は無理だったな。
今度調べる時はちゃんと表層を据えてからにするか。
結局、接触時は表層を据えて行う事に決め、再度の【調査】で大体の事は分かった。
予想以上に調査の手が有能なようで、マンションの中の人員把握も終わっているようで、佳代さんがリアルな恋人を変えて描いていると思い込んでいるようだ。
しかも、橋本にも害が及んでいるようで、三つ巴の……はぁぁ、なんでこうなる。
これは偽の相手を何とかしないと拙いな。
オレは別に評判とかどうでも良いけど、それを広められるのは厄介だ。
人は噂の好きな生物だし、それをいちいち調整するのも面倒と言うか、はっきり言って手間だ。
だってそんな噂、一度始まったら何処まで広がるか分からないから、広域で調整するしかなくなる。
それは病原菌のように駆除の大変な事態。
そんな病原菌を撒き散らす元凶なんて駆除したいけど、それがシナリオ関連ならうっかりと調整もやれはしない。
どうして絡んで来るかな、全くもう、困ったもんだよ。
仕方が無いから、ちょっと逸らそうと思ったけど、シルフと共闘になってるはずのあいつを、うっかり他の組織の奴に懸想させる訳にもいかない。
そんな事をしたら折角の迂回がダメになるばかりでなく、役者自体の精神許容度を越えたりしたら、どうなってしまうのか。
最悪、人格崩壊の危機だな。
はぁぁ、やりたくなかったけど、これをやるしかないか【調整誘導】
【お見合いはしたけど好みじゃなかったわ。やっぱり相手は同じぐらいの家の男性じゃないとね。後、年上が良いわ。同い年は幼くて合わないわ】
ちょっと強引だけど、それで納得してくれ。
対象から外れたら変な思考も止まるだろうと思うし。
やれやれ、こんな事ならやっぱり、石田の次男の意識誘導すりゃ良かったぜ。
恋慕の相手を摩り替えるだけで良いんだしな。
まあ、保険でやっとこう【視探転送暗示誘導】
お、色が変わっていくな。
長男を見る目が普通に戻り、それに従ってピンクから黄色に変化。
後は姫巫女を見たら一目惚れっぽい導きがあるはずだ。
神社に行くように誘導しといたから、後は出会うだけだ。
んでと、こっちも【視探転送暗示誘導】
よし、これで、出会えば共に精神に刺激が来るから、そいつを一目惚れと勘違いしてくれれば巧く行く。
一目惚れで相思相愛になってくれれば、もうこっちの事なんてどうでも良くなるはずだ。
やれやれ、何でオレがこんな調整しなくぢゃいけないんだ。
こういうのこそ、シナリオ担当がやるべき事だろうに、サボりかよ、暫定管理さんよ。
(いや、そんな鮮やかなのは普通、やれないって。オレがやろうと思ったら、一度白紙にしないと無理だし、上書きとか普通は無理だって)
☆
「どう思うよ、ミツヤ」
「さすがにきついぜ」
「だろ、そう思うよな」
「せめてもう少し変えられねぇのかよ、佳代さん」
「うぇぇぇ、ミツヤ君もそう言うの? 」
「だってよ、1文字しか変えてねぇじゃねぇの」
「だからそれは、イマジネーションガさ」
「トオジとサクヤでどうだ」
「ま、まあ、それならギリギリかしら」
「そうだな、それなら何とか」
「決まりね」
「やれやれ」
(でも、サクヤと言えば女の子の名前よね。うへへへへぇぇ、そういう路線も良いかも。男の娘サクヤで相思相愛よ、キタキタ、これこれっ)
どうにも最近、悪寒が良くあるな。
(コージの風邪がうつったかな、妙にゾクゾクすんぜ)




