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さすらいの魔皇子2   作者: 黒田明人
高1 夏休前
103/119

103 放置

 



 どうやら巧く乗せられたようで、経験の差を感じるな。


 斉藤さんにしてみれば、オレなんてまだ赤子にも等しいのかも知れない。

 だけどまあ、今更もうどうにもならないようだし、何とかするしかあるまい。

 最悪、コージの身体に役者を入れて、オレは別人で行動するって手もありはする。

 だがな、折角ここまで足場を組み上げたってのに、また1から組み上げるぐらいなら別の世界でやり直したほうがましだからな。


 まあ、もし今度やるなら、1からじゃなくて0からのスタートが良いな。


 記憶持ちで強くてニューゲームって感じになるだろうけど、シナリオ外でのんびり過ごすにはそのほうが面白いと思うんだよな。

 まさかこのキャラがメインだったとは、とんでもない位置取りにされちまってたもんだ。

 でもな、もしこれが役者なら、貧乏平民かつ両親は下手したら過労で……おいおい、人身御供かよ。

 石田に引き取られて政略結婚の駒にされてた可能性が……ううむ、これが迂回の結果なら、まあまあ、ましな立ち位置とも言えるか。


 ☆


 梅雨も明けて夏の日差しがそこはかとなく感じられるようになった7月のある日曜日、オレは指定の料亭に正装で行く羽目になり、仕方なく作った妙に肩の凝りそうな服に身を包んでいた。

 確かに普段からスーツ姿なので、服に着られているって事は無いんだけど、どうにもどっかのボンボンみたいで気分は良くない。

 なのでつい、ミラサンをしてみたりして。


 うわぁ、どっかの幹部だこれ。


 ううむ、どうにもサングラスをすると印象が全く異なるな。

 更にこれに雰囲気を乗せれば……ああ、いかんいかん、そこらの奴が妙に反応して。

 やれやれ、もうじきのはずだが、さてと。


「青山様でいらっしゃいますか」

「ああ、そうだ」

「お席の用意が整いました。どうぞ、こちらへ」

「ああ」


 さてと、こっからが芝居の真骨頂。

 尊大で行くか、それとも恭順……これはパスだな。

 まあ、なりゆき任せで良いだろう。

 席に着くと横には斉藤さんがそれっぽく座っている。


 《暫定管理で騙したね……今更じゃて……誰、この女……桜崎姫子、通称姫と呼ばれておるそうじゃ……うわぁ、あからさまな名前……始まるぞぃ》


 つらつらと経歴の言い合いから始まった、政略と名の付く結婚の為の前提作業。

 見合いとは名が付いているが、これはもはやレールに乗ったに等しい状態。

 途中下車の効かない列車に乗せられ、当事者のはずが操り人形にも等しい。

 どうやら同じ高校の女のようだが、同級生にこんなの居たかな?

 大学進学をするらしいが、婚約と結婚も視野に入れて? 学生結婚? やれやれ、冗談じゃねぇぞ。


 そんなに財政が苦しいのかねぇ。


 あれ、桜崎ってもしかして、あの先の無い……て事はだよ、ここで結び付けばあの大量の株が上昇に転じたりして。

 うわぁ、オレ、確かあれ、滅茶苦茶買ってるぞ。

 グループ関連、あっちもこっちも安かったから、てこ入れにでもなればと……これ、結婚しなくても牛耳れるぞ。

 下手したら青山傘下になりそうなぐらいになっているはずだけど、そんなの調査しないのかな。

 まあ、仲介をいくつかかましてはいるけど、それぐらい深く調査すれば分かりそうなものだけど。


 後は若い2人でとか定型文句の後、オレ達は……ううむ、何を言えば良いんだ。


「こんにちわ」

「よろしく、眠り子さん、くすくす」

「うえっ」

「くすくす、貴方の事は図書館でよく見かけましてよ」

「変な立場にされて、まあそれを利用していると言うか」

「今の目標どういったものかしら」

「これを乗り切る、いや、その」

「くすくすくす、まあそれはお互いかしら」

「じゃあ乗り気じゃないと」

「まあね、まだこういうの、早いと思うし」

「桜崎グループってさ、あちこち変な事になってない? 」

「えっ、それはどういう意味かしら」

「いやね、赤字が黒字に転じた会社がいくつもあるとか」

「私はそういうのはちょっと」

「そっか。いやね、オレって株式投機が趣味なんだけど、以前、グループ関連の株をかなり買ったんだ」

「趣味がまた凄いわね。でも、うちの株を何の為に? 」

「いやね、そちらだけじゃなくてさ、全体的に赤字で先の怪しい会社にてこ入れのつもりで投入してさ、全体的な経済発展を目指して、景気高揚を目的として色々やってたんだ」

「え……それはまた」

「概算だけど、グループ関連には7兆ぐらい投資しているはずだよ」

「は?……な、な? 」

「いやね、今、3桁の兆あってさ、それを減らそうと思って色々投資してるんだけど、どうにも減らなくてさ、だから赤字覚悟で景気高揚をしようと思っててさ」

「それ、本当? 」

「うん」

「ちょっと、待ってくださるかしら」

「うん」


(田村……はっ、お嬢様、何か……うちの株、どうなっているのかしら……え、何を唐突に……青山名義の株、どれぐらいあるの?……そ、それはですね……多いのね……あのですね、何処も経営が苦しくて、そこに救いの神のような投資と、あちこちで、なので到底、報告は、その……お爺様にも困ったものね。仮にも当主を名乗るなら傘下の把握はやってもらわないと……あの、お見合いは……相手がその青山なのよ……ええええっ……ええはこちらが言いたいわ。よりにもよって大株主相手との見合いとか、政略だと宣伝しているようなものじゃない。全く、風聞の悪い話よね……)


 何か知らんが見合い途中で中座されたまま、オレはこの庭先でぼんやりとしている。

 しかし、ここの庭もなかなかに趣があっていいな。

 高そうな料亭だけど、後は味だな。

 行き付けの料亭の味を凌駕するようなら、ここも馴染みにしても良いと思わせる庭だし。


 さて、相手も把握したようだし、この際、大々的に投資しまくるか。

 そーれ、予約キャンセル、全力投資、開始……と。

 まあ、放置してても今月末には全力投資になってたんだけど、前倒しにしとこう。


 これで見合いが無くなるかも知れないし。


 《見合いはどうなったのじゃ……振られたらしい……ううむ、何を言ったのじゃ……いやね、桜崎グルーブの株を大量に持ってますって……おぬし、株はもうやらぬと言うてなかったかの……だからさ、仕手の中抜きはもうしてないよ。そうじゃなくて、景気高揚の為にさ、赤字の会社への投資をしようと思ってさ、つらつらと軒並み投資してたんだけど、それがあらかたグループ関連でさ、どんなヘタレ当主が乱脈やってんのかと思ってて……これは弱ったの……トップがヘタレでも投資してやれば、下請けは助かるだろうから、赤字覚悟で色々とね……良かれと思うての事なれば、それは言えぬがの……ほら、シルフの2回の仕手でかなりこの国の経済がヤバくなってるからさ、これも支援と思ってさ……ううむ、じゃから派手にするなと申し付けておったものを……この前の株式暴落も、きっとシルフのせいだよ……どうにものぅ、あやつにも色々とやられておったようじゃて……処刑されたのかな……そうらしいの……》


 石田に寄り掛からなくてもやっていけるなら、こんな政略結婚は消えてなくなると。

 そうなるとシルフはますます苦しくなり、いよいよシナリオは破綻する事になるだろう。

 確かに斉藤さんはシナリオ遵守な考えでやっているけど、はっきり言って世界は存続すればそれで良いはず。

 しかもだよ、有名シナリオじゃなければ大抵の人は知らないから、破綻しても世界が不安定にはならないって話じゃない。


 まあ確かにそうだよな。


 少年系の週間マンガの有名どころの話とか、大抵の人が知っているストーリーだ。

 そんなのから逸脱したら派手に拒否が来そうなものだけど、オリジナル小説の不人気なストーリーとか、破綻しても誰も気付かないよな。

 どうにももらった知識がバラバラになってたようで、あのデフラグから妙に色々知識が増えたような感じだ。

 これってわざと仕込まれていたような気もするが、まあそんなの気にしても仕方が無い。

 進化したら出てくる知識とか、素直に便利だと受け止めるだけだ。


 まあ、どうしてもシナリオに沿わせたいなら、オレは支援者の位置取りで石田との仲介者になればいい。

 それで政略抜きで共闘が可能になるなら、それはそれでいけそうだしな。

 そんなこんなをぼんやりと考えていたら、料亭の従業員に声を掛けられる。

 どうやら店が閉まる時刻らしく、オレは放置されたまま数時間ここに居たらしい。


「え、青山様? まだこちらに」

「見合い中座でずっとこのままだ」

「そ、それは」

「振るなら振るではっきり言って欲しいと思うよな」

「は、はぁ、そうてすね」

「まあいい、オレは帰るが、桜崎にはちょっときつい仕置きをせんとな」

「あ、あの」

「コケにされるのは好きじゃないんだ」

「は、はあ」


 その頃、桜崎家では株式の状況を把握する為に、てんやわんやになっていた。

 それと言うのもにわかに始まった全力投資の件で、対抗しようにも資金が足りず、刻一刻と増えていく青山所有の株式。

 既にもう何社も経営権の怪しい会社が出て来て、このままではグループ崩壊の危機と思われていた。

 なので見合いの事などすっかりと忘れ、当主とその孫は必死にあれこれ動いていて、気付いた頃には全てが終わっていた。


(ああああ……どうしたのじゃ……お見合い、忘れてた……な、何じゃと……アタシ、中座したまま放置してて……何と言う事じゃ、それではもう……どうしよう……ただでさえこのような事態、これではもうどうしようも無いの……どうにかならないかしら……これではもう婿どころの話ではないぞぃ。おぬしが嫁に行って納めるしかあるまいの……じゃあうちはどうなるのよ……このままでは破綻じゃ……そんなぁ……人身御供のようじゃが、存続にはそれしかあるまいの……そんな、アタシが、お嫁に……おぬし達の子に継がせれば良いのじゃ。じゃから諦めてくれるの……そんな、嫌よ、そんな事……あの見合いが最後の綱じゃったのじゃ。それを放置したのはおぬしじゃ。その責任と思うて諦めてくれぃ……そんなぁ……済まぬの……)


 仕事場で株の状況を見てみると、かなり派手な事になっていた。

 グループ38社のうち、経営権の得られそうなのが全体の8割にもなっていて、グループそっくり奪取出来そうな感じなのだ。

 意外とギリギリだったのか、対抗も殆どなされてないようだな。

 まだ4兆しか入れてないってのに、もうこんな状況かよ。

 この分じゃ明日には全てが決まるか。

 名のみのグループも今日までの命って、普通ならそうなるよな。


 さて、石田との仲を取り持つか。


 斉藤さんに連絡をして、シルフとの共闘を条件に、経営権の放棄を申し出てはどうかと話を持っていく。


「おぬし、最初からそのつもりかの」

「いやいや、これは怪我の功名と言うべきだろ」

「とんでもないのぅ。政略抜きでシナリオを路線に乗せるとはの」

「迂回はこういう風にしないとね、クククッ」

「やれやれ、参ったの。これはワシの負けじゃて」


 ☆


 結局、それっきり見合いの話は立ち消えとなり、シルフと桜崎家所属の部隊とは共闘という事になり、シナリオはそちら方面で進む事になる。

 どうやらあの姫さんが主導して、どうのこうのになるらしく、興味も無いので詳しくは聞いてない。

 まあ、姫さん配下のシルフと部隊ってなるようで、それならそれで好きに動いてくれと言うだけだ。

 株式はあくまでも青山所有のままで、シルフにも桜崎にも譲渡はしない。

 すればパワーバランスが崩れ、折角の共闘が崩れる事になるからだ。

 まあ、向こうの名誉的には姫さんの信奉者の位置取りはくれてやったがな。


(ありがたいの……まさかそこまでしてくれるなんて……今更じゃが、惚れたかの……え、そ、それは……それならそれで構わぬ……今はまだ無理よ。将来的には分からないけど……ならばそれで良い。今はこの国を立て直すのが先じゃからの……うん、分かってるわ)


 ☆


「あれ、まだ入ってたのかよ」

「どうにも悪寒がするもんでよ」

「今度はコージが風邪かよ」

「そんなはずは無いんだが、うううっ、寒気が止まらん」

「やっぱり風邪じゃねぇのかよ」

「しかしな、さっきから【回復リカバー】【回復リカバー】【回復リカバー】と、やってんのに効かねぇんだ」

「シナリオ関連かもな」

「あれで逃れたと思ったのに、まだ何かあんのかよ」

「意外と惚れられてたりしてな、くっくっくっ」

「冗談じゃねぇぞ」

「くっくっくっ」


 そんな良家の令嬢みたいな相手とか、冗談じゃねぇってんだ。

 それによ、身体は違うとしても、オレにはもう、魔皇女が嫁さんみたいなもんだしな。

 そうだ、また送ってやろう。

 ドサドサと出して、まとめて波動の元に……お、そこか【転送カーゴマジック


(うわ、何よいきなり。こんなおっきなの、どっから……え、これって、まさか、うわぁぁぁ、これ全部そうなの?……凄い凄い、こんなにもだなんて。

 やったわ。ありがと、助かったわ。もう、皆がくれくれって。だからあんなにあったのにすっかり減っちゃって。きっとマイハニーね、ありがと、くすくす)


 うう、何かまた違う悪寒が……



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