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さすらいの魔皇子2   作者: 黒田明人
高1 夏休前
100/119

100 衣装

 


 魔術研究会は良いんだけど、やはりそれらしき格好と言うのも面白いと、フードコートを発注する事になる。

 フードコートと言っても魔術師御用達の衣服であり、それは即売会でよく見るあの格好であり、佳代さんの案内と言うか、佳代さんの知人の馴染みの店と言おうか、とにかく紹介されて皆で行く事になる。

 実は魔術研究会の部費の事なのだが、オレが預かっている事になっている。

 それと言うのも何の目的も無いような部活なので、ロクに部費が出ないのだ。

 なのでこっそり水増しする関係上、部長のミツヤに頼んでオレが会計って事になっている。


「これってコスプレの店じゃないの? 」

「もしや、経験が? 」

「いやぁ、うちの姉貴がさ、こういうのにはまってさ」

「シンちゃん、遂に目覚めたのね」

「うげ、なんでここに」

「さあさあ、入って入って」

「ちょ、今は、ああ、行く、行くから」


 ☆


「え、佳代っちの紹介? じゃあサービスしないとね」

「夏に向けて張り切ってました」

「そう? 最近、スランプになってるって聞いてたけど、立ち直ったのね」

「君達、うちの弟の同級生みたいだけど、また珍しいわね」

「そうですかね」

「勉強一筋って感じじゃない、あそこの高校」

「そうでもないですよ」

「それはこいつだけだぞ、姉ちゃん。オレ達は結構、やってんだ」

「え? そうなの? 」

「図書館の眠り子とはオレの事だ」

「くっくっくっ」

「それで何も言われないの? 」

「不思議だよね」

「お前が言うかよ、青山」

「はいはーい、準備が出来たわよ」


 どうにも安っぽいと言うか、見てくれだけと言おうか。

 まあ、衣装を着てそれっぽく振舞うのが目的だから、その性能は関係無いんだろう。

 だけど、さすがにそれは巷での買うような三級品以下のようで、もう少し何か欲しいところだがな。


「この生地、もっとこう、何と言うか」

「えっと、ちなみにご予算は? 」

「基本的には無し」

「え? それってどういう意味かしら」

「だからさ、機能的でかつ滑らかで、それでいて丈夫で長持ちする服が欲しい。価格は問わない」

「問わないと言われてもね。それこそピンからキリまでよ」

「じゃあピンで」

「本当にそれで良いのね」

「さて、オレが困るぐらいの価格の服が作れるかな」

「あら、言うじゃない。じゃあ見積もりを出すからそれでいけると思うなら作るわよ」

「即座に作っても良いが、納得が欲しいならそれでもいい」

「まあまあ、価格を見てからよ。ピンの衣装となったらそれはもう、とんでもない価格なんだから」

「それは楽しみだ」


(やっぱり進学校の生徒さんねぇ。ちょっと生意気ね。それならそれで究極の見積もりを出してあげるわ。最高級の布地で最高級のお針子さんが、手縫いで作る芸術品。それはそれはそこらの服とは桁がいくつも違うんだから。趣味の店だと高を括っているのだとしたら、それはちょっと甘いわよ。うちはちゃんとしたブティックもやっていて、ここはアタシの趣味ってだけの店なんだから。本店屈指の衣装価格。さーて、どんな顔をするかしら、くすくす)


 ええと、今のネトギンは……あれ、あんまし無いな。

 よし、あっちから少し……500億ぐらい入れとこうか。

 後は、都市銀の……うえっ、やけに多いな。

 おっかしいな、ネトギンから移したの、忘れてたのかな。

 まあいいや、これぐらいあれば当分……だけどな。


 とんでもなく高いって言ってたよな。


 1着50億と考えて、5人分で250億だろ。

 オレは何着か欲しいから……よし、追加で1兆入金だ。

 50億でも200着は買えるだろ。

 なんせ使わないと減らないし、使っても減らないし。


「出来たわよ。さあ、どうかしら」

「ありっ? 」

「驚いたかしら」

「ちょっと予想と違ってた」

「そうでしょ」

「うん、桁が3つ違ってた」

「それでどうするのかしら」

「うん、200着のつもりでいたけど、これだと10万着は買えそうだ」

「えっ……」

「いやね、高いって聞いたから1着50億で考えてね、1兆あれば足りると思って、さっきメインバンクから小遣い口座に振り込んだんだけど、10万着、どれぐらいで作れるかな」

「ちょ、アンタ、アタシをバカしてるの? 」

「うえっ? 何が? 」

「佳代さんも何でアンタみたいなの。出てってよ」

「意味が分からん。10万着の発注は受けられないと言うんだな」

「ええそうよ、そんなイタズラ、冗談じゃないわ」

「おーい、ミツヤ、ここ、服を売ってくれないぞ」

「予算いくらだ」

「1兆」

「くっくっくっ、そりゃ誰も信じねぇって」

「けどよ、利息が毎年1兆なんだし、使わないと減らないだろ」

「だったらさ、夏にアメリカ研修旅行があるだろ、そん時にアメリカで買えばいいだろ」

「あれ、行くのかよ」

「オレは行くぞ」

「ふむ、なら、オートクチュールで何着か買うか」

「1着5千万ぐらいらしいぜ」

「なら、10兆ぐらいドルにしとくか」

「何着買うんだよ」

「いや、別に多くても構わんだろ」

「ならオレも5着ぐらい買おうかな」


(何なのよこの会話……1兆……10兆……これが高校生の会話なの?……はっ、も、もしかして、どっかの富豪の……だとしたら、あれ、何処に?)


 出て行けとか言うからつい【幻影イリュージョン幻聴フォールス】を……ごめんな。

 あれから先は嘘の話だ。

 夏に研修旅行とか、何処の会社だよ。

 オレ達は高校生だしよ。

 即興で作った嘘話だから、色々とおかしいけど、どうやら気付いてなかったか。


「どうする? なんか服は売れないって言われてよ」

「おっかしいわね。ここのお店はそんなはずはないのに」


 店の外で色々話していると、中から慌てて出て来るのは良いんだけど、その見積もりを人に見せないほうが良いぞ。

 だってほら、シンの姉貴の表情が曇って……ああ、これはちょっと拙い事になったような。


「アンタ、これ、どういうつもりよ」

「え、それはね、この子に頼まれてね」

「物には限度ってもんがあるでしょ。高校生に何、これ見積額。780万ってふざけんじゃないわよ」

「そうよね、普通に考えたら……でも、この子って富豪の子なんでしょ」

「親はこの前、会社をクビになってさ」

「え、それってどういう事なの」

「アンタ……最近、休み無しでどうのこうの言ってたけど、やっぱり少し休みなさいよ。仕事のし過ぎよきっと」

「え、あれ、そんな、でも」


 ☆


 話が変な事になったので、ひとまず帰る事になる。

 仕方が無いから向こうで買った安物の衣装で我慢するか。

 広域でチョイと買った事にして皆に渡して……それで我慢してくれ。

 とりあえずネットでそれなりの品の衣装を買った事になり、晴れて部員の衣装として定着……すると良いんだけど。


「けどさ、これって中二病とか言われそうだよね」

「くっくっくっ、うんうん、言われそう」

「実はここに杖もある」

「良いかも」

「開き直りだな。よし、オレも」

「どうせ魔術研究会なんだし、大なり小なり言われるか。うしっ、オレにもくれ」


 部員用の服はそれなりで、それぞれに杖を持てば、まさに中二病患者の出来上がりとなる。


「ファイヤーストーム……くっくっくっ」

「スーパートルネード。ちょっと恥ずかしいね」

「サンダーストライク……まあ、芝居だと思えばさ」

「魔術師ごっこ研究会だな、クククッ」

「ははははははっ、それそれっ」


 勉強の合間の息抜きに最適と、皆は部室の中でごっこ遊びに興じる事になる。

 そのうちに文化祭で練り歩こうなんて大胆な意見も飛び出し、さすがにそれはとか言いながらも妙に楽しそうな面々。

 勉強一筋でここまで来て、そう言う遊びをした事もあんまり無かったのか、今は本当に解き放たれた感じになっている。


 そしてこの事がどういう影響になったかと言うと……


「学年1位」

「遂に青山が目覚めた」

「寝てたみたいに言うな」

「2位だぜ」

「ああ、3位かぁ」

「くそぅ、4位だぜ」

「オレがビリかよ」

「こらこら、そこの。5位でビリとか言わないでくれる? 泣けてくるから」

「しっかし、1グループで学年1位から5位まで占めるのかよ」

「ああ、このストレスの無い生活。最高だね」

「やっぱ、あれが気分転換になってんな」

「くすくす、うんうん」

「なんかあんのかよ、そういうの」

「クラブ活動だけど? 」

「あんなの真面目にやってんのかよ」

「面白いよね」

「ああ、くっくっくっ」


(1グループが上位独占ですか……ええ、あのグループは良いですな。こう、何て言うのか、重苦しい感じが無いって言うか……ストレスですかね……ああ、それが無いのかな……でも、発散はどうやっているんでしょう……それは分からんが、それでも成績が良いなら……それはそうですが)


(そりゃAクラスのグループが独占してるから気にならないわよね。でもね、Bクラスのうちの面々とは違い過ぎるのよ。あんな悩みも何も無いような……きっと何か訳があるのよ。例えば、いやらしい事でも……ああそうね、きっと。あっちの欲求が無いからとか、許せないわ、そんなハレンチな事)


 少し離れた場所で赤い点が発生し、それに従って職員室に赤い点が発生する。

 これは何かの攻撃なのかと思い、最初に発生した赤い点に向けて、ピンを抜いて【転送カーゴマジック

 かすかに破裂音が聞こえた後、サイレンの音が聞こえて……そして職員室の色が黄色くなった後、黄緑みたいな色に染まる。


(アタシったら、何を考えていたの。ああ、恥ずかしいわ、生徒を疑うなんて。証拠も何も無いのにどうしてそんな……ああ、なんて事)


 おっかしいな、まだ尖兵が隠れているのかな。

 さてと、本邦初公開【転送カーゴマジック転送カーゴマジック

 転送魔法で転送魔法を飛ばそうって試みだけど、どうやら消えちまったようだな。

 かなり食ったけど、何とか成功したみたいだ。


 でも、何処に飛んだのかな。


 さすがに行き先指定まではやれなかったから、多分、ランダム転移になっちまったろうな。

 良くてこの世界の端、悪くてどっかの特異点。

 さて、彼の運命やいかに。



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