プロローグ
森の上にあるもの、空だ。
イラつくほど青々と輝く。
目が痛くなる様なほど明るくウザい太陽の光を一身に受けて遊ぶ子供。
見てるだけで恨めしくなるほど幸せそうな俺とさして変わらない歳の子。
中心には若い女が子供たちに囲まれている。
殺したくなるぐらいの笑顔を浮かべて。
見苦しい。
いつの間にか呟いていた。
それは人間に対していったのか自分に対していったのかは分からない。
もしくはその両方かもしれない。
俺が普通の人間ならば、
きっとあの輪の中にいたのだろう。
俺が普通の人間ならば、
きっとあの太陽さえ、希望に見えただろう。
別に体のどこかが人と違うわけじゃない。
自分で言うのもなんだが、むしろ顔立ちはいい方だと思う。銀髪、猫目の少年だ。
だが、
俺はこの森からは出られない。
後ろの木から気配がした。
振り向くと燕尾服を着た男がいた。
整えられた白髪が憎き太陽の光を反射し美しく輝く。
「どうした、キリジ?」
キリジと呼ばれた男は頭を下げると短く答える。
「デュランダル様、大魔王がお呼びです。」
俺は短くうなずいた。
光り輝くあの場所を恨めしそうに見つめたまま。
「デュランダル様・・・。」
キリジが移動を促すと俺はゆっくりと歩き始めた。
碧い眼は爛々と光る紅に変わり、銀の髪が伸び尾のようになる。
爪は研がれた獣の爪のようになり、顔つきが変わる。
そして、一匹の銀の髪を靡かせる人狼が出来上がる。
「急ごう、キリジ。オヤジに怒られちまう。」
俺は地を駆けた。
風が体の中を通るような感覚、神経が研ぎ澄まされていく感覚、心地よい。
森に切れ間が出来た。光が垣間見える。
森を抜けると都市が見えてきた。黒い城壁に囲まれ、しっかり守られている。それとは対照的に町は多くの色があり、にぎやかだ。
だが普通の都市《人間の都市 》とは違う。
ここは魔物の住む都市だ。
レストラン、武器屋、防具屋、魚屋、八百屋、質屋・・・
ありとあらゆる店がある大通りから、よくわからんものまである裏通り。
地下にも町の続きがあり、日光が苦手な魔物がそこで過ごしている。
ここは魔王国の首都。
今日を以てオヤジから俺の国になる。
今日は勇者が攻めてくる日だ。