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異世界で魔法に求め  作者: 百火 煉
1章 樹海を抜けて……
5/45

5.再び樹海へ

 9


「土魔法〈ロックバレット〉」


 目の前に居たハナカマキリもどきの首から上が、岩の弾丸により吹き飛ぶ。


「さあ、つぎ行こう!」


 因みに、今倒されたのは僕が互角に戦えるランク五モンスターのリーフフラワーマンティスさんだ。長い。誰が付けた名前か知らないが少し物申したい。


 それにしても岩の弾丸はものすごい威力だ。あのカマキリの硬い甲殻を簡単に貫いてみせている。僕が今持っている剣で叩いても、ビクともしなかったのにだ。


 彼女のステータスはこうだ――


――ステータス


 Lv10

 名前:リリア・フレイディオ

 HP342/360 MP27

 筋力:05.2 体力:07.2 知力09.1

 速さ:06.5 技量:07.6 魔法09.8――


――適性


 星:79.6――


——スキル


 土魔法:26.6 重力魔法:47.3 剣術:13.4――


――加護


 星の見守り――



 他人のステータスを覗き見ることができるかどうか試してみたところ、できてしまった。

 というか家名らしきところにあるフレイディオってこの国の国名だったような気がする。


 でも、この国には確か王族や貴族はいなかったはずだ。国名を名字に持つような一族とは一体なんだろう。記憶を探れば、この国は昔の大国の名をとってつけられた名前だった。ではその大国の一族が、八百年以上細々と生き残ってきたのだろうか。


 いずれにしろ僕の関わることではないか。とりあえず僕にはそれ以外にききたいことがあった。


「なあ、星属性ってなんだ?」


 星属性、図書館で調べても名前くらいしかわからなかった魔法の属性だ。適正がある彼女なら何か知ってるかもしれない。


「ほ、星属性!? な、なんでそんなこときくのかな?」


 何故か動揺した答えが返ってきた。きいたらまずいことだったのかもしれない。

 僕自身も人のステータスを盗み見れることが知られたらまずいかもしれないので、当たり障りのないことだけを答える。


「いや、図書館で調べても名前くらいしかわからなかったから、魔法の専門家なら何か知ってるかなと思っただけだよ」


 嘘は言っていない。これなら言い逃れをすることも叶うだろう。


「な、なんだ、そうなんだ。えっと星属性の魔法っていうのは、重力を操ったりする魔法だよ。それ以外はよく分からないかな。うん、よくわからないな」


 確かにスキルに【重力魔法】の文字がある。これが星属性の魔法のようだ。


「ああ、わかった。ありがとう、リリア」


 なにか白々しい答え方だったが、逆に僕の方が詮索されてはまずいので、ここで話は止めることにする。

 心なしか、リリアはホッとしているような気がした。


 ステータスには分からない点ばかりだ、特にわからないのはMPと適正。二つについてなんの情報もないし推測も出来ていない。

 図書館で調べても何も載っていなかった。今は保留にして置こう。


「いたよ! てきだ!」


 そう考えがまとまったところで、接敵が告げられる。


「分かった!」


 そう答えて、前にでる。僕はなぜか剣を持たされて前衛なんかをやっているのだ。

 今持っている剣は、樹海に入る前に彼女から唐突に渡されたもの。


 飾りの類はシンボルのようなものは一切付いていないし、銘が刻まれていたりはしないが、何かすごいオーラのようなものがこの剣から溢れ出ているような気がした。


 好奇心に駆られ、この剣が渡された直後あたりに詳細を『視る』のだったが、結果、物凄く後悔した――


――〔フレイディオの星剣〕


 星属性の魔力の残滓が残っている剣。

 本来の力は失われている。

 ATK:05.4

 予測強化:25.8――


 なんか凄い名前の剣だった。


 そのときはリリアに、「こんな剣使っていいのか?」と尋ねたら、「ただのなまくらだよ」と返された。

 ただ、気の所為か、なまくらという言葉に反論するかのように剣のオーラが一瞬強くなったように感じた。


 ただならぬものであるのは確かだが、本来の力を失っているんだからそう言われても、まあ、仕方ないはず。剣の名前についてはノータッチでいこうと思う。


 何はともあれ今は目の前の敵のことを考えよう。

 剣の扱いは相変わらずわからないままなので今は身を守る為だけに使っている。

 【予測強化】のおかげか、敵の攻撃を予測しやすくなっているように感じる。


――rank7


 monster:グロウサーペント――


 ランク7のモンスター。攻撃をしのげるかいまいち不安だ。


 とりあえず剣を油断なくかまえてみる。そうすると、あちらもこちらを警戒してくようだ。

 いや、こちらというより剣から溢れ出るオーラを警戒しているような気がする。


 しばらくの間、膠着状態が続く。


「土魔法〈ロックバレット〉!」


 膠着状態を破ったのは少女の声だった。それと共に放たれた岩の弾丸は見事にグロウサーペントの頭を打ち抜いてしまう。


「やっぱり、僕っている意味ないよね……!?」


 自分の存在意義のなさに堪らず声をあげる。


「いや、意外と意味あるのかもしれないよ? うん、かもしれない。次いこ、つぎ!」


 釈然としない反応で誤魔化してくる。それでは失ったものは取り戻せない。


「そこは言い切ってほしいんだけど……」


 僕がそう漏らすとリリアは少しの苦笑いを浮かべた次に、無理だねと僕の心にダメージを与えていく。そうやって落ち込む僕にリリアは肩を叩いて励ましの言葉をかける。そんなふうに僕たちは、“樹海”を進んで行くのだった――


 10


「参ったなあ……」


 あの後、リリアと順調にモンスターを倒し続けていた。とはいえ、その全てがリリアの功績だった。そんな中、不意に今はリリアとはぐれてしまっている。

 さすがは樹海と言うべきか。まさかこんなことになるとは、侮れない。


 ただ、不幸中の幸いか、はぐれてからは一回もモンスターとは遭遇していない。今は方位磁石を片手に、街へ向かっているところだ。


 なんとこの方位磁石、とても優れものなのだ。実はこの方位磁石は北ではなく、街の方向を指している。

 それじゃあ方位磁石とはいえないんじゃないかとも思うが、形は方位磁石そのものなので、方位磁石と呼んでいるといったところだ。


 今はその指し示す方向だけが頼りだ。ついに僕は、開けた場所に辿り着いた。それにより、ようやく樹海から出られたかと思う、けれどどうにも違うようだ。


 そしてその先の光景に、思わずしばらくの間言葉を失ってしまう。


 そこ一帯は樹々の無い半径二十メートルくらいの広場になっていた。いや、広場と言うと少し語弊がある。正確に言うとそこには、直径四十メートルくらいの()()が出来ていた。


 だがそれは問題ではない。

 それだけならばこんなところもあるんだな程度にしか思わないからだ。

 なら、何が問題かというと、そのクレーターの中心に薄い黄色の髪をした齢十一程度の子供、というかアルがうつ伏せに血だらけな状態で倒れていることだ。


 そして地面には血だまりが出来ており、その血だまりにたまる血の量は子供の致死量を優に越えているはずだ。


 余りに凄惨な光景だ。

 ゲームなどで血の表現をするものがあるが、そんなものとはわけが違う。


 その光景は現代の日本人である僕からしてみれば馴染みが薄いなんてレベルではない。

 現実味がなさ過ぎて思考が停止してしまっている状態だ。

 だが思考が停止したからといって何が変わるわけではない。


 僕はしばらくの間、放心をしていた。


「すこし驚かせ過ぎちゃったみたいだね」


 唐突に静寂を切り裂いた声により、僕の思考が現実へと引き戻される。だが現実へと引き戻されると共に胸の奥から吐き気が込み上げてくる。


「治癒魔法《群生する草花の斉唱ヒール・リカバリー》! どうだい? 気分はよくなった?」


 発動した魔法により直前まで堪えていた吐き気が治っていく。

 体調を気遣ってのことか僕の顔を目一杯背伸びをして覗き込もうとしてくる。どうやら放心している間にずいぶんと近づいて来たようだ。


 血まみれながらも僕を気遣うアルの姿がそこにあった。


「あ、ありがとう。というかこれはどういう状態?」


 お礼を言うと共に現状の確認だ。

 今、僕がどういった場面に遭遇し、立たされているのか全く持って検討がつかない。再起動した頭をフル回転させても全く答えに辿り着ける気がしない。


「えっと、実は恥ずかしながらついさっきまで重症で動けなかったんだ」


 アルは重症を負ったらしい。なにがあってそうなったのか。今、僕の中で一番重要となるべき部分はそこだった。


「このクレーターとその重症は関係あるのか?」


 というかクレーターの中心で倒れているなんて僕の無駄な想像力が働き、あり得ないことを考えてしまう。

 例えばアルが落ちてきてこのクレーターが出来たとか。そんな突拍子のない考えを、僕は否定してもらいたかった。


「いや、ほんと重力魔法つきでフリーフォールとかしゃれにならないよ」


 だというのに、どうやら当たってしまったようだ。あり得ないと思っていたことが起こってしまっていたようだ。

 この世界には僕の常識が本格的に通用しないのかもしれない。


「なあ、アル。僕の知っている人間はこんなクレーターを作るくらいの威力で落ちて来て無事なはずないんだが……?」


 アルに対して僕のグラグラになった常識の確認を行う。僕の知っている人間はこんなに丈夫なはずがない。これさえ否定されてしまえば、僕の心は平常ではいられなくなってしまいそうだ。


「奇遇だよ。ボクの知っている人間もそんなに丈夫じゃないからね。レベルが高くてもこれは即死だと思うよ」


 どうやら今度こそ、僕の常識は正しかったようだ。安堵とともに、だがそれにより、もう一つ疑問が生まれてくる。


「じゃあなんでアルは生きているんだ? すごい出血量だったみたいだけど」


 因みにアルは着ている服から現在進行形で血液が滴り落ちて来ているくらいに血まみれである。


「ふふ、大丈夫だよ。ボクは()()()みたいものだからね。あ! そろそろかな」


 突然に告げられた意味の分からない台詞。だがそんなことを考える暇もなく空から何かがアルを目掛けて降ってくる。


 それは蛇だった。よく見ればそれが木製。大きさとしてはアルの腕の長さくらい。

 あまり大きいとは言えないのだが、それには何か存在感があった。


「アル。それは?」


 アルは空から降って来たそれを見事にキャッチし、口を開かせる。


「うーん、強いて言えば今回の戦利品かな。この蛇なら、世界蛇の模造品だね。ふふふ、彼女には、ボクに舐めてかかった報いを受けてもらったよ」


 そう言いながら世界蛇と言うには小さ過ぎる蛇の口から何かを取り出す。

 そして、自慢気にその何かを見せてくる。その表情はあたかも褒めて欲しいと言っているようなものだった。その物騒な言葉とは正反対に微笑ましい。


 だが、そんな暢気な考えはその何かを見た瞬間吹き飛んでしまった。



 それは人間の指だった。



 冷静に客観的にアルの行動を考える。

 小学生高学年程度の子供が血まみれで、しかも人間の指を自慢気にこちらに見せてくる。明らかに恐ろしい光景だ。


「コーキ、どうしたんだい? 具合でも悪くなったのかい?」


 アルが心配したようにこちらに尋ねてくる。アルが一歩近づいた。それと共に反射的に一歩後ずさりをする。


 明らかに避けられていることに気がついたのか、アルは困惑した表情を見せる。


「コーキ、どうして……どうして……、ボクのことが嫌いになったとか……」


「いや、今の状況だけを切り取ってだけ見たら、ホラーでしかないっていう結論に辿り着いたから」


 今にも泣き出してしまいそうなアルの声に、何を思ったのかを素直に言う。

 その言葉を聞いたアルはしばし唖然とした後、驚きの表情に変わり、自身の血の大量に付着する衣服を見回す。さらにはばつの悪そうな表情を浮かべた。


「なんかごめん。ちょっと興奮してたみたいだよ」


 そしてそう呟やいたのだった――



 11


「ほんとに、ごめん」


 アルはしょんぼりしながらそう僕に謝る。

 只今アルは絶賛謝罪中だ。


 あのあと、アルはまずいと悟ったその後に、少し着替えてくるよと言い残し樹々の奥に入っていった。

 しばらくして、無事に着替え終わったアルが戻ってきて、現在この状況である。


「さすがにそれだけ謝られちゃ、仕方ないし。もういいよ」


 もう許す事にする。このままでは何時間も謝り続けられそうだった。


「本当に、ごめんね」


 そう最後に、これで謝罪を終わらせ新たな会話を切り出してくる。


「そうそう、これなんだけど――」


 と言いながら戦利品を取り出してくる。

 先程は、人間の指だと言う事実に気を取られてしまっていたが、よく見るとその指には指輪が嵌っていたようだ。指はもう僕の見えないどこかにしまうと、アルはそれだけを見せてくる。


 もしかしたらアルが本当に見せたかったものはこの指輪だったようだ。


「えっと、これは?」


「そうだね、これは見ての通り指環だよ。実はこの指環を君にあげようと思うんだよ」


 ゆびわはゆびわでも何か少々ニュアンスが違うような気がした。

 どうやらアルはその指環を僕にくれると言うのだった。


 アルの意図が読めないため、問いかけることにする。


「なんでそれを僕に?」


 それに対してアルはふふっと一つ笑いをもらし、どこか真剣な様子で答える。


「この指環はボクが持っていても大した価値はないからね。君が持っていた方が絶対に良いはずだよ」


 そう言いながら、無理矢理、指環を押し付けてくる。

 仕方なく受け取り、その指環を『視る』―( )


――〔闇の指環〕


 闇属性の魔力を際限無く放っている――


「えっと、アル……! これ何?」


 あまりのものにアルに尋ねてしまう。

 この説明通りならば、魔石なんて必要なく、闇属性に限られるが、それでも際限なく魔法を使える。

 便利アイテム、なんてものじゃないくらい、貴重なもののはずだ。この世界でのその価値は、おそらく僕程度には計り知れないもののはず。


 そんな僕に優しく微笑みながら、アルはなんでもない風に、問いかけに答えてくれる。


「ふふ、それはいずれ分かる時が来るよ。それより、これをあげたからには対価としてコーキには明日、またこの“樹海”に来てもらうから。ボクと会うためだけにね。今度は一人でだよ」


 けれど、大した回答は得られない。それに何か新しい約束まで付け加えられてしまった。


「やっぱり、こんなのもらえない」


 別にアルと明日も会うことだけなら対価なんてもらわなくとも了承できる。ただ、こんな目に見えた災厄を呼び込むだろうこれを受け取るわけにはいかない。それゆえに、この指環を突き返そうとする。

 けれど、いっさい受け取ろうとしてくれない。


「残念だけど、ボクはクーリング・オフは受け付けていないんだよ。それよりいいのかい? もうすぐで日が沈むよ?」


 しまいには、そうやって話を終わらせようとしてくる。もう、帰らなければならない時間が差し迫っていたようだ。もはやこれは仕方ない。

 どうやら拒否権はないようだった。


「なら、もう、諦めて、帰ることにするよ」


 アルに向けて降伏宣言を伝えた。空を見上げれば本当にまずいことがわかる。早く帰らないと道中に、完全に日が沈んでしまいそうだ。

 街灯なんてあるわけもなく、明かりもなく、完全な暗闇を進まなければならない。僕はアルの忠告に従い、帰路に着くことにする。


「ふふ、ボクもそれがいいと思うよ」


 とても満足そうにアルもそれに同意をした。

 アルに受け取ってもらえなかったその指環、返そうと努力していたその手を、渋々と引っ込めて、別れの挨拶をする。


「じゃあ、また明日だ」


 僕はそう言って、アルに背を向けて歩き出す。少し歩いたところで―( )


「じゃあ、またね。それと、言い忘れてだけど、今日、一緒にいた子には気をつけた方がいいと思うんだよ」


 ――そう声をかけられた。

 咄嗟に振り向いたのだが、アルの姿はもうなかった。


 今のはきっと、リリアには気をつけろということのはず。

 アルは彼女のことを知っている。そうなのだろうか。


 彼女の、リリアのことはよくわからない。第一印象から言って、面倒な人、そういった意味では確かに関わらないほうがよかったのかもしれない。

 だけど、今日、短い間だが彼女と“樹海ここ”に来て思う。たぶん悪い人ではないんじゃないかと。

 一緒に過ごして少し楽しかったのは事実だ。気を許しかけてもいた。


 たがアルの最後の台詞により、僕の心に若干のしこりが残る。それについて考えながらも、帰るために樹海を進んで行くのだった―( )

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