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異世界で魔法に求め  作者: 百火 煉
1章 樹海を抜けて……
4/45

4.世界事情と魔法

 8


「やっぱり、読めるんだ……」


 僕は今、図書館で読む本を選ぶべく、本棚に並べられた本の背表紙とにらめっこをしている。


 朝、起きてすぐに今日の活動方針を決めた。お金の問題は、今のところ大丈夫そうだ。フォレストタイガーさんには、そういう意味では感謝しないといけない。


 お金は大丈夫、ということは次に必要なのは知識だ。

 常識さえ知らない人間が生きていけるとは思えない。なので泊まっていた宿の従業員に図書館の場所を聞いたわけだ。そうしたら懇切丁寧にこの場所を教えてくれた。


 身分証明書は読めたから大丈夫だろうとは思ったが。実際に文字が読め、今は少し安心している。


 適当な本を歴史の本棚から何冊か取り席に着く。他にも宗教や魔法といった本をいろいろ選び、読み進めて行った。


 まず僕のいる国の国家体制。宗教が同じ幾つかの国が纏まり、併合させられ、一つの国家となったそうだ。

 国名はフレイディオ、昔の滅んだ大国から名前をとったらしい。宗教はラヴィア教という名前だった。


 この国家、議会などがあるものの教会が実質トップでありその教会のトップには“魔女”と呼ばれる人物が立っている。そしてこの人物、とてもきな臭い。

 この宗教の始祖であり、宗教として確立したおよそ八百年前から変わらずに君臨しているのだ。


 八百年も生きることなんてできるのだろうか。或いは魔法なら。

 いや、そんな魔法あったら今頃この世界には人間が溢れかえっているはず。いや、あっても秘匿などがされているのだろうか。疑問は尽きない。


 それはともかくとして、なんでもこの宗教、魔神と呼ばれる神を崇めている。

 魔神とは、八百年より前に魔法を世界にひろめた実際した人物で、神格化され、宗教の神にまで祭り上げられたようだ。本人は思想とかひろめていないらしい。

 もし本人がこの状況をみたらどう思うだろうか。


 そして、魔法についてだ。魔法とは、八百年以上前に魔神によりひろめられたもので、

十系統の属性に分けられている。

 読んだ限りだと、属性同士に優劣は無いようだ。肝心な属性については、十という数字だけで十系統全ての種類はいくら調べてもわからなかった。


 魔法に大切なのは魔力と精神、そして想像力らしい。魔力の部分は、加工した魔石の中から魔力を取り出して使うみたいだ。

 ただ、一つの魔石には一系統の属性の魔力しか入っていない。ちなみに加工された魔石は高く、魔法使いには当分なれそうもない。


 魔石はどこからでてくるかというとモンスターを殺すことで手に入る。

 そして、ダンジョンで生き物が殺されると光の粒になり消えるらしい。


 アルの話でこの世界の中で死んだら、みんなあのフォレストタイガーさんのようになるのかと思ったが、少々違うようだ。

 どうやら、光の粒になる現象はダンジョン限定。アルは、自分は樹海から出られないみたい事を言っていたので、仕方ないのかもしれない。


 さらに、この世界には、空気中、土壌中の魔力が濃い地域があり、そこはダンジョンと言われている。

 ダンジョンには、“樹海”の他にも、“焦土”や“古城”といったところがあるらしい。

 魔法の種類と同じく十箇所あるといわれているが、全てを把握しきれてはいないようだ。


 そして“樹海”にだが、その中心には死者さえも蘇らさせる癒しの力を持った大樹“ユグドラシル”があるという伝承がある。

 だが一人もその大樹をみたときがなく、存在自体怪しい。アルは何か知っているだろうか。


 昨日見たとおり、ダンジョンにはモンスターが生息している。そのモンスターなのだが、生物が魔力により変化した姿といわれている。そしてモンスターの死後は魔石が採れるというわけだ。


 それにより、この世界には探索者という職業がある。

 ダンジョンに入り魔石を集めて換金する職業だ。この魔石、僕が換金したときと同じように、高値で取引されている。

 命懸けでやっているのだから当然かもしれないが、理由はそれだけではない。この魔石、とにかく需要が高いのだ。


 魔法を使うにはとにかく魔石がいる。

 実力のある魔法使いだと少ない魔力で強力な魔法も撃てるのだが、一般人や自動の魔法装置となると一つの魔法にかなりの量の魔力を使うのだ。

 そう考えると妥当ともいえる。


 それに加えて、この世界には家電製品なんてものが存在しない。もちろん発電所なんてない。それなりに文明は発達していると思うのだが、そのほとんどが魔法による功績である。それでも、一般人はその高さゆえに文明の利器を扱うことは滅多にない。


 とにかく、探索者達は今日もダンジョンに入っている。

 こと、“樹海”においては、中心に行けば行くほど現れるモンスターのランクが高くなり、ランクが高いモンスター程に魔石は良い質のものになるわけだ。


 準じて、中心に行く程に魔力が濃くなっていく。そのためにそこには魔力の発生源になるべきなにかがあるんじゃないかといわれている。例えば噂に聞く“ユグドラシル”とか。しかし今まで中心にまで辿り着いた者は誰もいない。


 レベルや、ステータス、スキルの概念だが、一般的にひろがっているようだ。ただ、そのステータスだが、教会にある道具を使わなければ見られないらしい。


「とりあえず、ここまでか」


 両手を挙げ、うんと凝り固まった背筋を伸ばす。

 気がつけば太陽の光が天高く昇り、正午を告げていた。


 きっちり三食、規則正しい生活を送るためにも、図書館を出て、食堂を探すことにした。街をうろうろする中で、あの門番の案内にあった食堂を思い出す。


 行くべきか、行かないべきか。とても胡散臭い門番だったが、その情報は信用に値すべきものだった。ただ、僕が気にしているのはそこではない。あの門番に借りを作っていくような気がするのが嫌なのだ。


 感情に任せて合理的な判断を下せないのはきっと良くない。踏ん切りをつけ、目的を定め、言われた食堂に向かうべく足を動かす。

 そこは鎧を部分的に着た探索者のような人達が少なからず見受けられる店だった。


 とりあえず席につく。そして、周りにいる探索者達の会話に対して聞き耳を立てる。


「気がついたらリーフビートルの群れの中心にいたんだ。あれはやばかった」


「よく生きて帰って来られたな。というか群れの中に行く前に気づけよ」


「いや、あのときは大物を倒した帰りで注意が散漫になってたんだ」


 などという、探索者同士で失敗談が語られたりもしている。そんな風にしつつも、注文を頼もうかと、定員さんを呼ぼうとすれば―( )


「ねえ、隣り良い?」


 そう行動する直前に、そう喋り掛ける少女がいた。金髪を肩まで伸ばした髪型で、さらさらと痛みがない。透き通るまでに白い肌。空を連想させるかのような青い瞳が僕を見据える。


 魔法使い然とした、ローブを羽織っている。顔つきからはおそらく同年代といったところだろう。そして彼女の声はどこかで聞いたときがあるような気がした。


 ――確か、ローブといえば……。


 思い出そうとしているうちに、僕の了承を得ずに、少女はもう既に隣りに座っている。疑問系で聞いてきたが、こちらに選ぶ権利はなかったようだ。

 そして、どこか機嫌良く少女が口を開く。


「あなた、あのフォレストタイガーを倒したでしょ?」


 その言葉で思い出した。

 そうか、どこかで聞いたときがある声だと思えばフォレストタイガー相手に戦っていた魔法使い。あのときは遠目から見ていたし混乱もしていたから顔まではわからなかったが、まさか同年代の少女だったとは。


 あのときも、性別さえ声を聞くまでわからなかったんだ。

 それにしても、あの撤退は見事だったと思う。だけどどうして、僕があのフォレストタイガーを倒したって知っているんだ。


「どうして、って、顔をしてるね。昨日少し騒ぎになったでしょ。今も少し噂になってるよ?」


 一体何の噂になっているというのだろう。皆目見当がつかない。


「噂にってーー」


 そこまで言えば、彼女は顔を近づけてくる。突然のことで不意を突かれたように身動きがとれなくなる。

 彼女は囁いた。吐息を感じるほどにまで距離で、耳もとへと。


「ふふ、あなたみたいな誰も見たことのない新顔が、あの強大なフォレストタイガーを倒したってさ」


 その台詞に、罪悪感が掻き立てられる。ただ止めを刺しただけ。あれだけ弱られたのは彼女たち。僕だけの功績みたいになっているのはおかしな話だ。


「す、すみません」


 とにかく謝る。

 怒られても仕方ない立場に僕はいる。生きるためだったとはいえ、ハイエナのような行動をしてしまったのは事実だ。謝ることしかできない。


 大体、あれだけ弱っていたのに、何故こちらを襲って来たのだろう。まあ、そのおかげで、金銭面では助かっている現状。助かっているからこそ、彼女に負い目を感じてしまう。


 それでも、僕なんかに倒せるくらい弱っていたんだ。撤退をせずに戦っていたら、仲間が倒れていようと、この少女だけで十分だったのではないのだろうか。


「別に謝る必要はないよ。よくあることだから。でも謝るって事は、やっぱりあのフォレストタイガーだっんだ。じゃあやっぱりあなたで間違いない」


 彼女はどこか確信をしたように笑顔を見せる。その笑顔はとても綺麗で、思わず心がときめいてしまいそうなほどだった。

 そして彼女は一方的に続けていく。


「で、あなたにすこし話があるんだ。私とパーティを組んでみない?」


 予想さえもしていなかった提案だった。

 少し動揺を抑えながらも質問を返す。


「なんで、僕なんかと?」


「いやあ、実はさ、私の入っていたパーティ。全治数週間の怪我人がでたんだ。もともと即席のパーティだったし、それであっさり解散した訳なんだよね。今はあなたと同じソロってわけなんだ」


 パーティが解散したから別の人を探す。これはわかる。けれど納得はいかない。


「もっと他に強い人がいいんじゃないですか?」


 さっきのこの子の返答では、僕とパーティを組みもうとする理由にはなっていない。別に僕であるべき理由にはならないから。

 堪らずに、今度は言い方を変え、同じ趣旨のことを聞いてしまう。


 彼女は僕の問いに、その長い髪の毛先をいじりながら答えてきた。


「実はさ、私こう見えても優秀な魔法使いでさ、大抵の事は一人でできるんだよ。モンスターなんてイチコロ。でもさ、ソロってやっぱり虚しいんだ。それとも、こんな綺麗な女の子を放っておくと言うのかい?」


 若干の上目遣い。

 そんな彼女に、僕は少し引いてしまっていた。客観的には可愛いおねだりなのだろうが、言っている内容がとても酷い。


 自分で自分の事を優秀とか、綺麗だとか言ってしまっている。

 確かに岩の弾丸の雨とかはかなりの威力だったはずだし、顔も綺麗で、モンスターを日々相手にする探索者とは思えない程スタイルも整っているが、自分で言ったら駄目だろう。


 関わりたくない。切実にそう思った。絶対にこの少女は面倒な人だ。

 ここは事実を述べて、やんわりと彼女から離れてもらうべきだろう。


「弱い僕が仲間になったって、意味なんかないと思いますけど?」


 まともに剣を握ったことが一回くらいしかない僕が行ったって大して価値はないはずだ。


「いいんだよ、それで。フォレストタイガーを手負いとはいえ倒したんだ。あなたは、良い線行くと思う。それに、今までのパーティは安定し過ぎててつまらないと思ってたところだしね」


 良い線行くと言われてしまった。少し嬉しく思ってしまう僕がいる。ただ実際にあれはただ単に弱っていただけだ。別に倒すだけなら僕ではなくてもできたはずだ。


 それはそうと、後半付け加えて、不安な事を言っている気がする。こんなことで大丈夫だろうか。いや、大丈夫なはずがない。なんとしても断らなければならない。


「とりあえず、午後からもやりたいことがあるー( )ー」


「そうと決まれば早速行こうか。私はリリア。あなたは?」


 なぜかもう、僕が付いていくことが決まってしまっていた。勝手に決められてしまっていた。僕の声は届かなかった。

 気がつけば、僕の腕は強く握られてしまっている。


 抵抗を試みるが、筋力の値の違いかビクともしない。そして、僕が力を込める度に、彼女の見せる笑顔がとても怖い。

 これはもう、腹をくくるしかないかもしれない。


「えっと、僕はとう こうです」


 不服ながら、自己紹介を行うと、彼女は屈託のない笑顔を見せてくれる。

 それでも僕の腕を離してくれることだけはなかった。絶対に放すもんかと胸に寄せている。


「トーマね、わかった。それと敬語はいいよもう仲間なんだから。それと私はリリアって呼んで?」


 もう無理だ。諦めよう。

 急展開だ。ただ食堂で昼食を摂ろうとしただけなのにダンジョンに行くことになった。

 僕はリリアに腕を引っ張られながら食堂を後にする。


 名前の呼び捨てを強要するリリアだが、肝心な僕の下の名前を、名字と間違えている気がする。


 昼食は、結局摂れなかった。

 捕まってはいけない人に捕まったのは気のせいだろうか。

 気のせいであってほしい―( )

 自分としてはシリアスとギャグの7:3でいきたいんです。

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