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異世界で魔法に求め  作者: 百火 煉
1章 樹海を抜けて……
11/45

11.探索の装備

 22


「今のところはこの程度で、充分だと思うよ」


 魔法の訓練は、これで終わりらしい。

 大量にあった魔石は今や、最初の三分の一の量にまで減少している。魔石の大量消費と共に僕の魔法も格段と上手くなっている気がする。


――ステータス


 Lv05

 名前:透馬 虹輝

 HP160/160 MP0――


――適性


 なし――


――スキル


 剣術:00.8 見切り:01.3 :03.2――


 久方ぶりに自分のステータスを開いてみた。どこまで開くかはある程度、指定できるようだ。

 そこそこの期間、開いていなかったから期待はしたが、レベルが上がっていたりはしなかった。


 ただ、スキルにしっかり【樹木魔法】は追加されていた。他のスキルも前に見たときより若干上がっている。


 けれど一つショックを受けることがある。アルの訓練が無駄ではないことが判明してしまったことだ。正直、あれはもうやりたくない。内臓が潰されるのはもう二度と御免だ。

 この数値の上昇は胸に秘めておくことにしよう。


 そんな剣術も含めて、前からあったスキルは【樹木魔法】にすっかり追い越されている。

 先ほどまでの訓練は、なんというか、大量の魔石を利用したパワーレベリングと言えるだろう。そのおかげで魔石一個を使って、植物を種から花を咲かせるくらいまでに上達はした。


 それはいいが、その実、少し罪悪感を覚えている。だって、アルが拾ってきた魔石なのだから。もちろんこれは僕の力ではない。

 そんなことを気にする僕は、やっぱり、どこまでも小心者なのかもしれない。


 魔法を使うときは少し集中するだけでいい。使った後も倦怠感を感じたりはしない。魔石の値段さえ気にしなければ魔法はお手軽だ。


 それはいいとして、ステータスについて、やっぱり見るたびに謎に思う。MPは零のままだし、適性も〝なし〟というのは変わらない。【樹木魔法】を覚えても変わらないということは、もしかしたら、生まれつき決まっている値なのかもしれない。


 これについてはまだ分からないことだらけだ。アルに対しては見ることも叶わなかったし、クライツさんは筋力の数値通りとは思えないパフォーマンスを見せていた。真に受けてはいつか痛い目にあう気がする。


 きっと、自分の成長を確かめるくらいに使うのが最適であろう。


「そろそろお昼時たけど、食べていくかい?」


 そう思考に耽っていると、アルから声がかけられた。また悪い癖が出たようだ。空を見れば、太陽は天高く昇り、丁度正午を指し示している。


「いや、長居するのも悪いし、帰らせてもらうよ」


 アルの提案をできるだけ自然に断る。もちろん僕がしっかりと、気を遣ってると思われるように。

 これ以上世話をしてもらうのは、心から悪いとも思う。けれどもそれ以上に、僕はアルに何か得体の知れなさを感じてしまった。これ以上一緒にいるのは落ち着かない。


「そうだね……でも、また来て欲しいよ……?」


 返答を聞き、アルは落ち込んだようにそう言う。その姿に僕の罪悪感が刺激される。


「じ、じゃあ、帰り仕度をするから!」


 そう言って、急いでこの場を離れる。これ以上アルといると、まだここに留まってしまいそうだったから。我ながら凄く情けなく感じる。


 泊まっていた部屋にたどり着き、帰りの仕度を始める。といってもかなり軽装でここに来た。持って帰るものなんて殆どない。


 今の服はアルから借りたものであるのだから、それを返すくらいだ。綺麗に畳んで置いてあったもとの服へ着替える。いつの間にか洗濯がされていたのか、心地よい香りが鼻をついた。


 とたとたと廊下を走る足音、そして勢いよく襖を開ける音がする。


「ちょっと待って、これを持って行った方が……ご、ごめん」


 アルはその小柄な身長に見合わない長さの鞘に入った剣を抱きかかえていた。

 ただ着替え中だった僕を見て、顔を赤くし、アルは慌てて襖の後ろに隠れる。


「昨日風呂に押しかけてきたとは思えない反応だな……?」


 急いで服を着ながら、アルを少しからかってみる。そうすれば襖の陰から口ごもった声が聞こえてくる。


「……昨日は、うん。ごめん。半分くらい冷やかすつもりだったんだ。ごめん。……思い出したら、恥ずかしくなってきちゃったよ」


 だったら、なんであんなに大胆な行動に出たんだ。そこまでして僕を冷やかしたかったのだろうか。だとしたらいい迷惑だ。お互いにとって、何もいいことなんてなかった。


「アル、もう良いぞ?」


 おずおずとアルは入り口に姿を見せる。まだ頰は赤く染めたままだ。その姿に呆れを感じる。

 体裁を整えるため、アルは一度咳払いをした。


「改めて、コーキ。これを受け取ってほしいんだ」


 そう言って剣を僕に手渡そうとする。自然と手を伸ばして、受け取ろうとするのだが、その寸前に躊躇った。


「えっと、これは? また、拾ったものとか、そんな感じか?」


 アルの持っているもの。それは拾ったか、自分で作り出したか、その二つに分けられる。ただ、作れるのは木製のものだけ。見た限り、材質や装飾から、アルお手製のものではないはずだとわかる。


「いいや違う。ボクがまだ動けた時代。遥か昔に、ボクがお願いをして作ってもらったものなんだ。コーキ――君のために」


 ――僕のため?

 つい当惑してしまう。意味がわからない。

 いや、そうだ。アルは世界樹を僕に倒してほしいと言っていた。僕に倒させる準備として、この剣を僕に渡そうとしているのかもしれない。


「まあ、それに。樹海を進もうとしているんだから、モンスターに対抗できる武器がないとと思ってね。これをコーキに受け取って欲しいんだよ」


 モンスターについて、すっかり失念していた。遭遇率が今まで少なかった。というか逃げに徹していれば何とかなるんじゃないかくらいの気持ちでいた。


「駄目だ、アル。これ以上、世話になるなんて僕にはできない」


 だから当然その申し出を断った。するとアルは不敵に笑う。獲物を前にした捕食者のように笑う。本能が怯える。怖気が走る。まただ。これが僕がアルに近づきたくない理由。


「コーキ。()()“樹海”を舐めてもらっちゃ困るよ?」


「…………」


 有無を言わせない態度だった。しばしの硬直。するとアルはまたいつものように、無邪気な笑みを僕に向ける。


「受け取って、くれるよね?」


「あ、ああ」


 仕方なく受け取り、剣の刀身を鞘から少し出す。まじまじと見つめる。金属ではない。刀身は木属性の魔石の色と同じ深緑だ。綺麗だとも思うのだが、その色は少しくすんで見えた―( )


――〔大樹の宝剣〕


 所有者に癒しを与える剣。

 本来の力は失っている。

 ATK:25.6

 回復強化:32.6――


 勝手に剣の詳細が出てしまった。


 本来の力は失っている。

 どこかで聞いたことのあるようなフレーズだ。流行ってるのだろうか。


 とにかく、クライツさんの聖剣には見劣りするが、随分と良いもののように感じられる。


「さあ、ついでだからね。これも受け取ってよ?」


 嵌めれば蛇が指に巻き付いたようなデザインになる木製の指輪。それを掌に乗せて、僕に差し出した。


 こちらの方も確認する――


――〔世界蛇の指輪〕


 膨大な風属性の魔力と木属性の魔力を籠められた指輪。

 持ち主の助けになる――


 こっちの方はいまいちよく分からなかった。けれど、どちらとも良いものだろう。


「いいのか? 本当に受け取って?」


 アルに確認を行う。思ったより良いもので少し戸惑ったからだ。


「ふふ、ボクからのプレゼントだからね。出来れば一生使っててもらいたいよ」


 アルは何の気なしに答える。とりあえず帯剣をし、指輪は左手の中指あたりに嵌める。


「じゃあ、ありがとう。また来るよ」


 仕度が整った為、僕は“あるのいえ”の玄関から靴を履き、出ようとする。


「じゃあね。街の人ともう少し交流をはかった方が良いと思うよ」


 なにか最後にアドバイスを僕におくる。

 そういえばそう、よく考えてみれば、確かにこの世界に来てからはあまり一部を除いては人と交流していなかった。


 余裕がなかったのも一つの原因だが、根本的には違う。価値観が明らかに違う人と上手くやっていけるかが不安だった。

 不安に飲まれて、試みることさえ諦めていた。


 僕は人付き合いが苦手ではないと自分では思っている。宿の店員の人とかとも仲良くなってみるのもいいかもしれない。


「確かに。考えてみるよ。ありがとう」


 そう言って僕は“あるのいえ”から出る。アルは僕に対していろいろと親切にしてくれた。けれど、僕はそんなアルに対して得体の知れなさを感じ、距離を置こうとしている。


 そんな自分に対して、自己嫌悪を感じながら、僕は“あるのいえ”から離れて行くのだった―( )



 23


「またっ――!」


 リーフビートルが襲って来たことにより、僕は剣を抜く。


 リーフビートルは僕の身長の半分くらいはある甲虫だ。リーフビートルは僕に対して、先制の突進を繰り出してくる。


 今日はやけにモンスターに遭う。今までの遭遇率が嘘のようだ。リーフビートルとは今日何度も遭遇している。故にその突進を見切ることも簡単だ。


 僕はその突進を左に躱し、すれ違いざまに剣を振り下ろす。何度もやって、ようやく当たるようになった。幾らかレベルが上がったあたりから当たるようになった。


 リーフビートルの甲殻はそれなりの硬さだ。けれどもその甲殻は剣の一撃を受け、見る影も無くひしゃげる。このリーフビートルは間も無く息途絶えるだろう。


 やはり、剣というのは斬るのには向いていない。リーフビートルの甲殻を見て分かるように、叩き潰す感じになってしまうのだ。クライツさんはアルの右腕を綺麗に切断していたが、一体どうしたらあんなに綺麗にいくのだろう。


 そんなことを考えているうちにリーフビートルは息途絶え、光の粒になる。そして、僕の身体が少し軽くなったような気がした。


 もしやと思いステータスを開く――


――ステータス


 Lv09

 名前:透馬 虹輝

 HP086/285 MP0

 筋力:04.4 体力:05.7 知力:08.3

 速さ:06.9 技量:07.7 魔法:09.2――


 やはりレベルアップしていた。筋力が上がった関係かは知らないが、レベルアップ時には身体が少し軽くなったような感覚がするのだ。


 僕のレベルはもう二桁目前に来ている。HPの残りは心許ないが、アルにくれた剣のおかげで、少しづつではあるが回復している。何とか、樹海から脱出は出来そうだ。


 ステータスを見ると、筋力と魔法に大きな差が生まれて来たことが分かる。これは、レベルが上がるにつれて広がって来たものだ。というか魔法の数値が異様に高いような気がするのだが、気の所為だろうか。


 度重なる連戦に疲れを感じる。HPはまだあるが、少し休憩を取ることにする。近くの木に寄りかかり、体力の回復に努めることにする。具体的にはHPの数値が三桁に戻るくらいまで、休もうと思う。


 ただ、休むといっても休ませるのは身体だけだ。いつでも剣を抜けるようにして、警戒を怠らない。精神の方は休み無く、働いている。


 こんなに周囲を警戒しっぱなしだったことは、おそらく、生まれて初めてだ。これまで、自分がどれだけ運がよかったのかを痛感する。


 確かに自分はあまりモンスターと遭っていなかった。自覚はしている。けれど、今回は遭い過ぎではないか。レベル一からなら、稀にあると思うが、レベルが五から、こんな短時間で四も上がるって、そうそうないことのように感じる。


 因みに、レベルは上がれば上がる程に上げるのが難しくなっていくらしい。


 時間が経った為、HPの残量を確認してみる。


――HP091/285――


 遂にHPだけを表示する事に成功してしまった。これは使いこなせるようになって来たという解釈でいいのだろうか。


 これは今まで気付かなかったことなのだが、今日の戦闘でダメージを受けたときに、視界の隅で一秒程HPだけが表示されて消えていった。気がつかなかっただけで今までも表示されていたのだろうか。


 それはさておき、望んだものだけを表示させることができたのだ。大きな進歩といってもいい。肝心のHPのほうは、まだ三桁までには至っていなかった。そう簡単に回復したら、確かに駄目だろうけど。


 僅かばかり、不安は残るがこのまま進んでもいいだろう。出口まではそう遠くないし、もうそんなに強いモンスターは出ないだろう。ただ、楽観視はいけない。まだ、不測の事態に陥るかもしれないし、油断はしてはいけない。万全を期すなら、もう少しやすんでいくべきだ。


 どちらとも、大しては変わらないのだが、優柔不断な僕は迷ってしまう。休むべきか、行くべきか。レベルアップし高くなった知力を存分に使い、どちらのメリットの方が高いのかを考える―( )


「うわあぁぁぁ!!」


 思考を劈くように、突如として悲鳴が聞こえる。字だけで表現すると男の悲鳴みたいに見えるが、声質からすると、高い、女性の声だ。


 悲鳴を出すということは窮地にあるということか。これは助けに行くべきだろうか。


 考えていても仕方がない。

 これを放っておけば後味が悪いだけだ。


 僕はとにかく、悲鳴の聞こえた方へ駆け出すのだった―( )

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