リック博士とハルマきゅん05
極東スープ
爽やかな香りと可愛らしい小鳥の鳴き声を聞いて、リックは目覚めた。まだ半覚醒のままなのだが二度寝をしようと決意して、向きを変える。見慣れているのに見慣れない姿があった。寝癖でボサボサになった艶やかな金の髪がよく似合う、ハンサムな顔をした男がタンクトップで、リックのベッドで彼の真横で眠っていたのだ。リックは彼のことをよく知っている。
「なんで、私のベッドで寝てるんだよ!」
裏返ってしまった声でリックが叫ぶ。男はむくりと起きたがやはり半覚醒のままだった。くすんだ灰色の瞳で静かに彼は声の主を見つめた。ちなみに、彼の寝起きはあまりよくない。人形と寝た朝ように彼はリックを抱き締めた。「おはよう、Elenちゃん……」
「なんで!君が寝てるの!トーマス!!」
リックは必死にもがくが、体格がいいトーマスに対して非力な彼には無駄なことだ。
「お前をここに運んだあと……寝ちまったらしい……誰が……」
この家には二人と一機しかいなかった。乗せた犯人はすぐにわかった。
「ハルマきゅんか」
ハルマは1人、台所でモヤシを蒸していた。そのあと、極東スープ(味噌汁)にいれる予定だ。ハルマは名前の通り、極東の人間を演じている。白米を愛し、納豆を愛し、そして何よりサブカルチャーも愛していた。テレビには二人の女の子が変身して、愛と友情で敵を倒すという物語のアニメーションが映っている。
「このためだけに生きてるもんねー」
いつもより上機嫌のハルマはアニメのオープニングに合わせて鼻歌をフンフン鳴らしていた。
「ハルマきゅん!おはよー」
リックたちがダイニングのドアを開けて入ってくる。
「父さん!!……小さくないの?」
「ハルマきゅんのお馬鹿さん。私は長身で、白衣が似合うイケメン大天才博士なんだよ!」
白衣を翻し、眼鏡の位置を直しながらリックが言った。トーマスは下を向く。リックの可愛らしい赤のハイヒールが元の身長と似合っていてなんだか微笑ましかった。
「赤いハイヒールか。似合ってるよ」
「お気に入りだもん」
頬を膨らませながらリックが言った。よく見るとトーマスの右ほほにアザができていた。
「おじさん!!右ほほどうしたの!?投げたときにぶった!?」
投げたのかと二人は思う。右ほほのアザはできたばっかりだった。
「Elenが着替えている時に部屋にいたらぶたれたんだよねぇ、女の子みたいだよね」
へらへらと笑いながらトーマスが言う。
「トーマスが悪い。ゼッッッッタイに!!トーマスが悪い!!」
どっちもどっちだなとハルマは言うと味噌汁作りに戻った。
「そういや、Elen」
「だーかーらー、私の名前はリック・ト・エレク!Elenは前の呼び名であって……」
「断じて許さん。お前はElenで充分だ」
「わかりました、で?」
「お前、見たところモヤシばっかり食ってるようだが……」
「消化してるよ」
「そうか」
トーマスは締まりの悪そうにテレビを見た。テレビに映る女の子たちは愛やら恋やら言っている。リックもニコニコしながら見ていた。
「Elenも好きなのか?」
こんな話が、とトーマスは続けた。
「愛とか恋ってなんだろうって思って見てるかな」
「教えてやろうか?」
その言葉はリックに届かなかった。
「出来たよ!!運んで!」
ハルマの快活な声が響く。朝御飯は白飯と魚と味噌汁だった。
「そういえばね、私がロボットの消化機能を開発したんだよ」
自慢げにリックが言った。
「でも、箸はちゃんと持てないんだな」
「うるさーい!!」
「父さん、テレビ見さしてよ」
そんな騒がしい彼らの朝食が始まった。
今考えてる話がだんだんコメディから離れていくから……トゥライYO!!