リック博士とハルマきゅん03
子煩悩パパのリック博士。と悩むハルマきゅん。
「じゃあ、精神安定化装置の説明をするわね。この装置は名前の通り、精神を安定化させるものなの。薬よりよっぽど安全よ。あともうひとつあって、安定化装置のほかにシンパシーオルガンっていうのも造っているわ。」
ペルセポネはリックが出したコーヒーで長々と話して乾いた口を湿らした。
「シンパシーオルガン……直訳すれば共感風琴。鍵盤の一つ一つが感情になっていて、押せばその感情になることができる装置なのかな?父さん」
ハルマは名前だけで理解したかのように話す。リックは静かに頷いた。
「それだけじゃないわ。オルガンには自分の感情を溜めることや、人に送ることだってできる素晴らしい機械だわ。リック博士、どう?ここまで聞いてやる気がでない?」
「出ないね」
リックは即答だった。すると、今まで冷静で、優雅で、暖かかったペルセポネの表情が崩れ怒りが全身に広がる。
「リック、本当に参加しないの?貴方なら特別待遇するし、負担は全部政府に任せられるの。息子?さんだって学校に行かせられる……」
彼女の額に汗が滲む。
「ハルマは学校に行かせられないし、政府からの援助も貰えない子なんだ。ああ、新型マシンを作る予定も出ている。」
「えっ……」
ハルマは目を見開いてリックのことを見た。リックは嘘だよとでも言うようにハルマにアイコンタクトをとった。ホッとして、怒り狂いそうな女教授を見る。
ハルマには感情読み取り機能があった。彼女のつくろうとしているシンパシーオルガンの基盤となるものだ。ハルマのように察して動くことができる機械やアンドロイドならば働くかもしれない。しかし、この世に出回っているものにそんな機能はついていない。もし、彼女にハルマが機械だと気づかれたら一貫の終わりだろう。がしかし、気づく気配を感じられない。
「ハルマ君は極東の方にいる親戚が頭に障害を抱えているからと預けられた可哀想な子供でね、ここで過ごしているうちに順調に回復していっている途中なんだ。だから目を離すことが出来なくてね」
かなり話を盛ってしまったとリックは反省した。よく見たらハルマがあとで謝れと言わんばかりの顔で睨んできた。こわい。
「でもこんな所じゃ不自由じゃない?」
リックの研究所があるのは都会ではなかった。ビルや建物はあるが、それでも自然に溢れている土地だ。
「都会の方だと彼の体調が心配だ」
「娯楽施設も少ないし…」
「非行少年にならなくて良いじゃないか」
「奥さんだって必要でしょ?」
「今は寂しくないから。それにそんな時間のかかるプロジェクトには参加する気はない。お引き取り願おうか」
リックはハルマの事ばっかりになってしまいお詫びをしないと。と頭のなかでプレゼントを考え始める。一つ、いい案が思い付いた。
「今度、君の研究所の近くに行く用があるから、その時によらせてもらう」
「わかったわ」
そうすれば彼女たちの研究を見ることが可能で、家に来られる心配もない。用事は買い物でいいだろう。
「送ろうか?」
「結構よ」
研究室の扉に彼女のガードロボである新レクサスX型が立っていた。それは端正な顔立ちをしていた。彼女の動きに会わせて動く。きっとあれはハルマの正体に気づいているだろう。ロボットたちは特殊な電波を発信しているのだ。レクサスX型はハルマと同じくらいの製造年数だろう。妙に新しかった。
彼女を見送ったあと、ハルマが怒っていることに気づいた。
「絶対に許さないよ……」
会話の事だろう。
「なんで意味のわからない嘘をつくの!酷い!バーカバーカ!!」
幼稚な怒り方だなぁと感心してしまう。ロボットが泣きながらポカポカこっちを叩いてくる。機械なのにバカなのだろうか。
「都会の方にいったら好きなものを買ってあげよう」「やったー!!……っは!ゆ、許さないもん!ゆーるーさーなーいー!」
のせられやすいのが人間らしい動きだと思う。リックは人間らしいロボットの完成が待ち遠しくなった。
新レクサスX型→「法と基準」を意味 するラテン語「レックス」と「結合体」を意味する「ネクサス」をまぜた造語。間違っても車ではない。
もう一度言う。車ではない。
ギャグは続く。