リック博士とハルマきゅん02
ペルセポネ=想像された惑星。冥妃星。 カイパーベルト=エッジワース・カイパーベルト。太陽系の海王星軌道より外側の黄道面付近にある、天体が密集した、穴の空いた円盤状の領域。
もやし。
[To:リック・ト・エレク博士|ごきげんよう、リック博士。今日こそ答えをお聞かせてくださいまし。From:ペルセポネ・カイパーベルト]
それはリックの先輩の女性の名前だ。
「またか…」
言ってしまえば、リックはペルセポネが苦手だった。彼女は自分が決めたことは絶対に折れない完璧主義者なのだ。
「行儀悪……」
画面を見つめながら、もやし炒めを口に含んだまま声に出したリックにハルマは批判の声をあげた。
「お、おお……すまなかったね、ハルマきゅん。私としたことが」
ちゃんと飲み込んでからリックは話始めた。
「で、ペルセポネって誰? 」「私の昔の上司の名前だよ。容姿は悪くなかったんだが、性格や意見の食い違いが多くてね……」
ハルマは目を閉じて、内蔵メモリからその女の情報を導きだす。確かになかなかの美人だ。
「胸が大きい……」
思わず声に出してしまった。
「おやおや~ハルマきゅんもそういうの気になっちゃうお年頃かなぁ?」
「……この人がまだ若かった時の父さんをタブらかしてたんだなーって思うと」
「思うと……?」
「…………憎い」
本質を聞いたリックは思わず吹き出して笑ってしまった。
「ブッ…ワッハッハァー!まさか、ロボットの口から憎いって言葉が出るなんて!あと意外と私ってハルマきゅんに好かれていたんだね。
それにタブらかされてなんかいないから安心てくれたまえ」
いつのまにかもやし炒めが皿からなくなっていた。電気猫がニャーと静かに鳴いた。リックは猫を抱きかかえてモニターに視線を移した。
「いつ来るの?」
「今よ」
ハルマの問いに答えたのはリックではない。魅力的な女性の声、振り向くと先程内蔵メモリで見た女だった。
「待っていたよ、ミス・カイパーベルト」
リックは眼鏡の位置を戻しながら言った。
「ぺルでいいのに……ってお昼の最中でした?ふふっ、失礼」
とペルセポネは不敵に笑った。
「彼にもやし炒めをつくってもらってね」
もやし、という単語を聞いてペルセポネは嫌そうな顔を浮かべた。
「もやしなんて低俗で汚い食べ物を食べてるわけ?」
「生なら栄養がある」
ハルマが反応する。興奮して思わず立ち上がった。
「なにこの子……拾い子?生意気……そもそももやしを生で食べたら食中毒とか大腸菌にやられるわよ」
「蒸せばいい」
「だ、そうだ。はい、二人ともストップ。ミス・カイパーベルト、今日来た理由を述べてくれ」
彼女は空いていた席に座り、落ち着いた顔で口を開いた。
「……分かっているだろうけど、私が中心で動いている企画"アンドロイド・ヒト精神安定化装置"に参加をしてもらいに来たわ」
「ふむ……もっと詳しく教えてくれないか?ハルマ、君も大人しく聞いていなさい」
「はい」
ハルマは椅子にちょこんと座った。
もやしもやしもやしもやしもやしで世界を救う。